今年も大盛況だった「TOKYO OUTDOOR SHOW2025」。幕張メッセの特設ステージには、アウトドアにまつわるさまざまな著名人が登壇したが、フリーアナンサーの大橋未歩さんとプロデューサーの上出遼平さんご夫婦も登場。
新婚旅行で訪れたという「ジョン・ミューア・トレイル」の話を中心に、海外のロングトレイルの魅力について語ってくれた。

上出遼平 プロデューサー・作家。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』をはじめ、映像・音声・書籍の各分野で活躍。ギャラクシー賞やJAPAN PODCAST AWARDなど受賞多数。著書も多数刊行。
ロングトレイルにハマったキッカケは?

ご夫婦でロングトレイルを楽しみ、山にまつわる企画にも参加している2人ながら、いっしょにトークショーに出演するのは、これが初めてだとか。
ということで、まずは山や自然が好きだった2人が、ロングトレイルにハマった経緯からご紹介。
「山で暮らす、自然に溶け込むという感じ」

上出「昔から山の中にいるのは好きだったんですけど、頂上を踏んでいる瞬間は、自分にとっては大事じゃないかもってことに気がついたんですよ。森林限界の先よりも、麓の方が自然も豊かで好きだなって。そこから、ピークハントではなく、長く山を歩くことにハマっていきました」
大橋「私も幼い頃から山が身近にある環境で育ちました。でもロングトレイルに出会ったのは、新婚旅行で誘われたからなんです。それまでは、全く知らないカルチャーでして……。ドコ? ナニ?ってなったんですけど(笑)。 でも行ってよかったなって思えたことを、今日お話させていただきたいと思います」

そんなロングドレイルの魅力を、「山に登るというよりも、山で暮らす、自然に溶け込むという感じで、登山とは違う喜びがある」と語る大橋さん。そして、結婚してよかったとも。
トイレもシャワーもないし、着替えも最低限だけに、女性にはハードルが高そうだけど、「断捨離の究極のカタチ。慣れてしまえば自信がつく」とまで、言いきる。
ジョン・ミューア・トレイルってナニ?

では、2人が新婚旅行で歩いてきたアメリカのロングトレイルの聖地「ジョン・ミューア・トレイル」とは、どんなところなのか。
そもそも、ドコにあるの? まずはそんな基本的なことから話してくれた。
「パシフィック・クレスト・トレイルの一部です」

上出「北アメリカ大陸を南北に突っ切るコースが3つありまして。西側のパシフィック・クレスト・トレイル、真ん中のコンチネンタル・ディバイド・トレイル、東側のパラチアン・トレイルです。
どのルートも4000kmくらいあるから、踏破するのに半年くらいかかるんですけど、だいだいみんな、今回はその1/5を歩こうみたいな感じで、セクションハイクをするんです。
我々が歩いてきたジョン・ミューア・トレイルは、そのうちのひとつのパシフィック・クレスト・トレイルの一部にあります」

大橋「それでも100kmもありますけど(笑)。でも、本当にオススメしたいです」
上出「いやでも本当に、僕も世界中のトレイルを歩いているけど、ジョン・ミューア・トレイルの素晴らしさは他にないと思います」
ということで、ここからはその素晴らしさが、より伝わるように、実際に「ジョン・ミューア・トレイル」を歩いたときの写真を見せながら、その魅力を紹介。
地球を感じられる、大スケールの風景が広がる。

ジョン・ミューア・トレイルは標高3000m超える国立公園の中にあり、環境保護のため厳しい入山規制をしているため、美しい自然の姿がそのままの形で残されている。
上出「これは、あの湖まで行ったら、今日のゴールだねって話していたときの写真です。日本の山と違い、どこにテントを張ってもいいんですよ。そのあたりは完全に自由です」
大橋「私は疲れきっていましたが、ここを降りながら、心の中は感動していて……。こんなに地球を感じられるような、スケールの大きい風景に出会えたことに感謝していましたね」
川や湖の位置を把握して、水の量を調節して歩く。

続いては、大橋さんが川の水をボトルに入れて、豪快に飲んでいるカット。まさに全身で自然を堪能している。
上出「担いでいる道具のなかで、水分が1番重いわけです。だから水は現地調達になります。これは、カタダインのビーフリーという優秀な浄水器で、これで川を見つけては濾過して飲んで、ボトルに入れてみたいな」
大橋「やっぱり水が重いので、その日の体力によって、どれくらい持てるかということと、あとは地図を見ながら、川や湖がどこにあるかを把握しながら、水の量を調節して歩くんですよね」
上出「1日で2Lから3Lくらいは持ちますね。というのも地図上に川があっても、季節によっては枯れていることもあるので」
大橋「だからこそ、水場があったときには、とてもおいしく感じます」
「ビールが美味しすぎて、脳天が泡立ちました(笑)」

ロングトレイルは、ずっと山の中を歩くだけではない。定期的に下山して、近隣の街に立ち寄り食料を入手したり、食事をすることも。
大橋「私たちはなるべくノーストレスの旅を心掛けていて、ビールが飲みたくなったら、そのテンションで下山してもいいんじゃない? って楽しみ方をしてきました。で、そのタイミングで燃料を補充したり」
上出「持ち運べる食料は、がんばっても1週間分くらいが限界なんですよ。だから1週間に1回くらいは街に降りないといけない。これは山に入って5日目くらいに降りたマンモスレイクって街です」

大橋「もう本当にビールが美味しすぎて、脳天が泡立ちました(笑) お肉もいただいたんですけど、細胞が蘇るレベルでしたね。禁欲後のビールやお肉は中毒性がありますよ!」
レイクビューの絶景スポットを独占!

もちろん長いトレイルの道のりは、山だけでなく美しい湖に出会うことも。誰もいない湖畔のテント泊は最高だとか。
大橋「これはスコーレイクというところなんですけど、つづら折りを登りきった上に現れた湖です。こんなご褒美が待っているとは思わなかったので驚きました」
上出「この湖畔にテントを張ったんですけど、ご覧の通り、誰もいないわけです。だから湖に辿り着いたときに、ここで一夜を明かすのかって思ったら、すごい気持ちになりますよ」
大橋「こんなレイクビューの絶景を一望できるところを、私たちが独占しちゃっていいのだろうかって。本当に贅沢でした」

上出「そのときのテントですが、丈夫なDCF素材で作られています。防水性が高くて保水しないから、雨に濡れても軽さが変わらないんですよ。そこがナイロンとは違う部分。保水しないことは、あまり重要視されないけど、じつは大切なことなんです。
こうした道具選びも重要でもあり、楽しいことのひとつです。でも、このあたりは話し出すと止まらなくなるので(笑)」
テント泊にも明確なルールがあり。

テント泊をするときにも明確なルールがあるとか。それには環境保護の意味合い以上に、クマ対策がある。
上出「100フィート(30m)ルールというのがあるんですよ。テントを張る場所、食料を保管する場所、食べる場所を30mずつ開けた三角形を作らないといけないんです。クマがいる場所に僕たちが入っていくので、遭遇しないような工夫ですね。
とにかくテントを張った場所に、食料の匂いを残さないのが鉄則で、テントから風下に100フィート移動したところで食事をして、テントと食事場のどちらからも100フィート離れた正三角形の場所に、食料を保管してから眠るんです」
大橋「ここまで厳しく自然の環境を守ろうとしているということに、こちらも背筋が伸びますし、それなりの覚悟を持って山に入らないとなって気持ちになりました」
食料を入れて持ち歩く“ベア缶”は必須。

上出「これはベア缶と呼ばれるもので、クマが開けられないバレルなんです。ここに食料など、匂いが出るものをすべて収納しないといけないんです。これひとつで1週間くらいの1人分の食料が入るから、2人分で2個持っていきました」
大橋「登山口で、ルールが書かれた入山許可証といっしょに、これを持っているかどうか荷物チェックされるんですよ。しかも入山許可証は、道中でも抜き打ちでチェックされることもあるみたいで」
人には会わないけど、動物たちに遭遇できる?

ジョン・ミューア・トレイルは世界中から多くのハイカーが訪れているが、そうした厳しい入山規制のおかげもあり、歩いている最中に他のハイカーに会うことは珍しいとか。
上出「3〜4日に、1組のハイカーに会うくらいですね。そのあたりは日本のハイクシーンと違う部分かもしれないです」
大橋「これはマーモットですね。人には全然会わないけど、こういう動物たちには出会えます。あとは鹿とか」
上出「でも動物っていうか、サソリとかも出るんですよ。だからフロアレステントではちょっと心配になったりもしますね」
歩くことが好きならロングトレイルは楽しめる!

そしてトークは、先日行ってきたニュージーランドのトレイルで、遭難しかけたときの話も飛び出すなど、終始かなり濃い内容となった。
大橋「今日の話でロングトレイルに興味を持ってくださった方が増えるといいなと思います」
上出「アルピニズムと違い、歩くことが苦手じゃなければ誰でもできるし、最低限のルールを覚えるだけで、特別な技術も必要ないですからね」
大橋「私も特に運動神経があるわけではないので(笑)。 散歩やハイキングが好きな人であれば、きっと楽しめると思います!」

このトークをキッカケに、ロングトレイルに興味が出た人にオススメしたいのが、上出遼平さんの書籍『MIDNIGHT PIZZA CLUB』。
俳優の仲野太賀さんと写真家の阿部裕介さんと、いっしょに旅をした記録で、自分の足で世界を歩くことの魅力が詰まっている。
上出「本のタイトルは、この3人で結成した登山サークルの名前なんですけど、ネパールの山やアメリカの山、ニュージランドの山に行ったりしています。これは1冊目で、いま2冊目を執筆しているところなんですが、ぜひ読んでいただければと思います」
「みちのく潮風トレイルを歩いてみたい」

トークショーを終えた2人に、会場の様子や雰囲気、これから歩いてみたいトレイルについて聞いてみた。
–登壇前に会場を回られたみたいですが、気になるモノはありました?
上出「ステージでもお話させてもらったんですが、hinataストアで、油汚れを拭き取るオイルペーパーを買わせてもらいました。あとは中国のトレッキングポールのブランドが気になりましたね。先週、行ったユタ州のショーでも見かけたんですよ(笑)」
大橋「私はまだ少ししか見てなくて、これからゆっくり回ろうと思っていますが、スパイス系は気になりますね。あとはドライフード系とか。そのあたりのブースも充実していますよね」
–今後、歩いてみたい日本のトレイルや、オススメのルートを教えていただければ。
上出「今回の会場にもPRのブースがありましたけど、『みちのく潮風トレイル』は歩いてみたいです」
大橋「行きたいですね! これからゆっくりブースを見させてもらいます」
上出「これからやってみようって人には、尾瀬とかいいと思います。自然も綺麗だし木道だから歩きやすいし、山小屋もあるし。尾瀬はオススメかも」
大橋「尾瀬いいですね。前にいっしょに行って、すごくよかったです。ぜひみなさんも歩いてみてください!」
Photo/Fumihiko Ikemoto
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