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上野千鶴子氏の東大祝辞から考える、日本人の「性差」と「性差別」




東京大学入学式での、上野千鶴子名誉教授の祝辞が反響を呼んでいますね。東大の学部学生のうち、女子学生が占める割合は「20%」として、「大学に入る時点での隠れた性差別」は、東大も例外でないと発言。 



 



「男性の価値と成績の良さは一致しているのに、女性の価値と成績の良さとの間には、ねじれがある」と表現し、4年制大学進学率が男子(55.6%)より女子(48.2%)が低いのは、成績の差ではなく「『息子は大学まで、娘は短大まで』でよいと考える親の性差別の結果」と断じました。



 



親の性差別が女子の選択肢を狭める。



 



一昔前の話のようにも感じますが、親の言葉かけから、「女子はこんなもの」と無意識に意識づけられることは、あるかもしれない、と自分の子ども時代を思い出しました。



 



 



■「女の子だから、浪人はダメ」という父の言葉



 



私が性差というものを初めて意識したのは、高校1年の頃。「女の子は浪人すると、就職の時に不利になるから、大学は現役で合格しないといけない」と父に言い聞かせられた時でした。なぜ「女の子は浪人してはいけない」のかは腑に落ちないものの、言われるがまま塾に通い始め、その意識はずっとつきまとっていたと思います。



 



実際、浪人していたらテレビ局への就職に不利だったのかと言えば、おそらく関係なかっただろうと今は思います。報道記者になった後も、女性だからといって不利益を被った経験は一度もありませんでした。夜勤も、政治家への夜討ち朝駆け取材も、容疑者宅の張り込み取材も、男性記者と何ら差はありませんでしたし、私もそれを望んでいました。それでも、父の言葉の記憶から、「女性だから」という何か特別な制限が、いつか来るのでは、という身構える気持ちはありました。



 



 



■「女性だから」とあきらめた仕事もあるけれど



 



「もしかしたら不利益があるかも」と予防線を張りたい親心は理解できます。むしろ私にとっては、「性差による制限があるかもしれない世の中に生きている」と知っていたことは有用でした。自己防護のために、男性と変わりなく実績を出すよう心掛けることが出来ましたし、自分が上司の立場になった時に、性差別のない環境を作るよう意識的に動くことができたからです。



 



報道記者時代、一度だけ、「女性だから」という理由で諦めた仕事がありました。アフガニスタン紛争当時、戦禍の地で奮闘するアフガン女性たちを単独取材する企画書を書いた時です。当時の上司は企画自体は評価してくれましたが、「女性が行くのは危険」だとして、当時の現地での女性の扱いがいかに差別的で攻撃的なものであるかを私に説明しました。身の安全のために行くべきではない、という「根拠」を知らされた私は、納得してその取材を諦めました。「性差別」とは全く思いませんでした。



 



 



■性差ではなく個人差で、生き方を選べる社会に



 



出産で女性器を使う以上、性による差があるのは当然です。「性差」なのか「性差別」なのかの違いは、そこに「根拠」があるか、その根拠に「本人が納得しているか」に寄ると私は考えています。問題なのは、性差を利用して、「根拠もなく」「隠れて」差別的な扱いをすることでしょう。



 



一般社会の中で存在する性差別の背景には、「女だから出産と子育てによって、キャリアを中断するだろう」という、「根拠の乏しい」「勝手な決めつけ」が多くを占めているのではないでしょうか。



 



出産は女性にしかできませんが、子育てでは、男女が出来ることは同じです。裏を返せば、今の日本社会がいまだに「子育ては女性がすべきもの」という意識と、「子育てとキャリアを両立しにくい」仕組みであることが、差別意識の根底にあるとも言えるでしょう。



 



つまり、両立がしやすい社会を作ることができれば、性差別も成立しにくくすることができるはずです。だからこそ、働き方改革は「過労死を防ぐため」だけでなく、「出産・子育てと両立しやすい」形にまで、抜本的に進めることが必要なのです。



 



女性の中には産まない人生を選択する人もいれば、男性の中にも家族との時間を確保した働き方を希望する人もいるでしょう。女性の「男性化」を求めるのではなく、男性も女性も、それぞれの生き方、働き方が尊重される社会。性差ではなく、個人差によって、生き方を選べる社会に一歩でも近づいていきたい。上野千鶴子さんが投げかけたボールを、私はそんな風に受け止めました。


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