東京都と神奈川県を走る私鉄の京浜急行電鉄(京急)が、4つの駅の駅名を一挙に変更すると発表して話題になった。京急のニュースリリースによると、創立120周年記念事業として、沿線地域の活性化を目的に、町名や地域シンボル、利用者の利便性などを総合的に判断し、2020年3月に変更するという。
以前京急では、沿線の小中学生を対象に「わがまち駅名募集」を行なっていて、ここで集まった意見を参考に、総合的な観点から決めたとのこと。これまた話題になったJR東日本山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」よりは、理に叶った理由ではないかと思う。
具体的には大師線の「産業道路駅」を「大師橋駅」、本線の「花月園前駅」を「花月総持寺駅」、「仲木戸駅」を「京急東神奈川駅」、逗子線の「新逗子駅」を「逗子・葉山駅」に、それぞれ変えるという。
産業道路駅は、大師線の連続立体交差事業によって地下駅になるのを機に、地元シンボルのひとつでもある橋の名前に変更するというもの。たしかに産業道路という道路は全国各地にあり、地名ではなく道路名だから場所を特定しにくい。大師橋のほうがはるかに分かりやすい。
花月園前駅は、かつて駅前にあった遊園地の名前が由来。遊園地閉鎖後は競輪場になったがそれも閉場したので、曹洞宗大本山として有名な寺の名前を入れるようだ。總持寺駅は第2次世界大戦中まで、京急鶴見駅と花月園前駅の間に存在していたので、花月園前とセットで復活ということになるかもしれない。
仲木戸駅は京急の沿線案内によると、江戸時代に将軍の宿泊施設である神奈川御殿があり、柵を作った門を設けて警護したことが地名の由来とされる。しかしJR京浜東北線・横浜線の東神奈川駅が隣接しており、乗換駅として認められているほど。地名も今は東神奈川なので変更に至ったようだ。
最後の新逗子駅は、観光地として知名度の高い逗子に葉山を加えることで、三浦半島のさらなるイメージ向上と利用者増加を図る狙いがあるようだ。新逗子は羽田空港からの直行電車の終着駅でもある。行き先としてこの駅名が表示されれば、葉山方面へ行く電車であることをアピールできそうだ。
■駅名変更の理由はいくつかのパターンがある
ただし歴史を振り返れば駅名の変更は、それほど珍しい出来事ではない。たとえば京急では、今回変更が発表された新逗子駅は、もともと京急逗子と逗子海岸という2つの駅の間の距離が近かったことから、列車の編成が長くなるのを契機に併合して新逗子になったという歴史を持つ。
産業道路駅のある大師線の港町駅と鈴木町駅は、第2次大戦までは駅前にある会社の工場の名前を取って、コロムビア前駅、味の素前駅だった。外来語禁止や防諜上の理由から地名にしたそうだ。ちなみに鈴木町という地名は、味の素の創始者が鈴木三郎助であることに由来している。
関西では京都と大阪を結ぶ京阪電気鉄道が、京都市内の鴨川脇地下を走る本線の四条を祗園四条駅、五条を清水五条駅に、いずれも2008年に変えている。京急の逗子・葉山駅と同じように観光客への分かりやすさを考慮したようだ。
またJR西日本大和路線の終着駅は、昔は湊町と名乗っていたが、1994年に近くにある私鉄のターミナルに合わせてJR難波と名を変えている。こちらは仲木戸駅のパターンに似ている。
筆者が幼少期によく利用していた駅も、最近名前を変えた。埼玉県草加市にある東武鉄道スカイツリーラインの獨協大学前駅だ。ここは2017年まで松原団地駅だった。かつては松原団地という、完成時は東洋一のマンモス団地があって、筆者もそこに住んでいた。
ところが最近ひさびさに現地を訪れると、団地は老朽化でほとんど取り壊され、モダンなマンションに姿を変えていた。団地がないのに松原団地駅なのはおかしい。一方やや遅れて開学した獨協大学は順調に発展していた。現場に行くことで駅名変更の理由が理解できた。