「長髪高校球児」なるワードが、にわかにネット上をにぎわせているようだ。どういうことなのかといえば、読んで字のごとくで、たとえば、慶応高校(北神奈川)は「長髪でも勝てることを証明しよう」と“脱・坊主頭”のヘアスタイルで、甲子園球場で行われている第100回全国高校野球選手権大会の初戦を突破した。大会2日目(8月6日)の第4試合において延長14回、甲子園初のタイブレークで惜しくも敗れた旭川大高(北北海道)も、高校野球界では前代未聞的な「丸刈り禁止令」という規律を設けていることで大きな話題を呼んだ。
前述二校の“プレーヤーサイドの言い分”を紹介してみると、以下のようになる。
(文春オンラインより抜粋)「高校野球にはいろんな誤解がありますよね。坊主じゃないと、ちゃんとしていないように思われるとか。うちは常に『エンジョイベースボール』というのを掲げているのですが、楽しむと言うと楽な方向へ行ってると勘違いされる。でも楽しいことのためじゃないと、辛いことに耐えられないじゃないですか」(慶応高校野球部・赤松部長)
「信念があって坊主にしているなら、それはいいと思います。でも、なぜそうさせられているかわからないのであれば、かわいそうですね」(慶応高校野球部2年・杉原壮将選手)
(東スポより抜粋)「勝つためにやったことです。坊主禁止にしたら、選手が『どんな髪型にしたらいいんだろ?』『長さはどれくらいにしたらいいんだろ?』と考えますよね。それって意外と難しいんですよ。(中略)そうすれば(部員たちも)球児にふさわしい髪型ってなんだろうと懸命に考える。面倒になったら坊主にするのが一番ですから。でも、それができない。とにかく選手が考えることが大事なんですよ。サイン通り動いていたって勝てない。選手が(試合の局面で臨機応変に)どうするかを考えないと」(旭川大高野球部・山本部長)
「高校球児の丸坊主」に対するアンチテーゼの提起は、じつのところ漫画界ではけっこう昔から成されていた。もっとも代表的なのは1998年から2003年まで週刊少年ジャンプにて連載していた『ルーキーズ』で、登場人物の“球児”たちは、長髪はおろか金髪・リーゼント・モヒカン……ほか、およそ「らしさ」とはかけ離れた個性的なヘアスタイルを貫き、甲子園出場を果たしている。私のバイブルである高校野球漫画『ラストイニング』でも、主役高校のライバル高のエース・明石くんはサラリと風になびくロン毛をトレードマークとしている。まあ、漫画の場合、全員が坊主頭だと顔と体型だけで登場人物を描き分けるだけの画力が必要になってくる……といった“裏の事情”もあるのだけれどw、それを差し引いても先駆的な試みだったと言えよう。
たしかに「高校球児の長髪は挑発的(※←一応「長髪」と駄洒落ている)でヘタレなファッション」だと見なされている側面は、平成も終わりを告げようとしている今でも根強く残っている。越境入学から熱中症まで……さまざまな問題が山積みされながらも、その大半が棚上げ状態となっている高校野球だが、私は「規則」ではなく「風潮」によって、ただなんとなくのんべんだらりと“伝統化”している丸坊主文化に一石を投じることこそが、歴史に縛られて身動きが取れない“昭和生まれの一大イベント”に風穴を開ける突破口になりうるのでは……と思っている。
「学生野球漫画の金字塔」と呼ばれる、あの名作『キャプテン』で、前キャプテンの丸井が、集まった部員の前で髪の長い新一年生を指しながら戒めたとき、新キャプテンのイガラシは「別に(長髪が)邪魔だったら勝手に切るでしょ」といった風に、さり気なく反論するシーンがあったが、これが描かれたのは、もう40年以上前にもなる1970年代の話である。そして、慶応高校にも旭川大高にも「邪魔になるほどの長髪」な球児は一人もいなかった……。