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誰よりも劣等感を抱いていた福田花音 “もうひとりのアイドル”の存在


 11月29日、1万人のファンを集めた武道館公演を最後に、アンジュルム・福田花音がグループおよびハロー!プロジェクトを卒業した。公演終盤、ファンに向けた手紙を読み上げ、「ある意味、ハロー!プロジェクトの歴史を変えちゃったと思います」と語った福田。ファンのことを「ヲタ」と呼び、「ライブは出勤」と言い切るなど、およそアイドルらしからぬ言動をたびたび見せ、よくも悪くもファンやスタッフをひやひやさせてきたことを自覚しての言葉だろう。

 彼女は、なぜ「ごく普通のアイドル」ではなかったのか? 「アイドル・福田花音」が形作られた11年間の歩みのなかには、常に「もうひとりのアイドル」の存在があった…。

 小学2年、モーニング娘。に憧れた福田花音は、「ハロー!プロジェクト・キッズオーディション」を受けるが、あえなく落選。ちなみに、同オーディションに合格したのは、嗣永桃子や鈴木愛理など、のちにBerryz工房と℃-uteを結成する豪華な顔ぶれ。

 その2年後、「ハロプロエッグオーディション2004」に合格。ともに合格した者のなかには、スマイレージ初期メンバー4人もそろっていた。当初からプロ意識が高く、自信満々で鼻っ柱も強かった福田だが、2009年、スマイレージを結成する頃には、少しずつ“劣等感”を抱くようになっていた。

 「スマイレージのメンバー発表のとき、私が最後に呼ばれた。その後、メンバー交代させられるなら私だと思った」

 「私以外の初期メンバー3人は、エッグの新人公演でもソロ曲をもらっていた」

 ミュージカル『白蛇伝』や、新ユニット「しゅごキャラエッグ!」に抜擢されるなど、「エッグ時代から、福田花音は抜きん出ていた」という多くのファンが持つ印象と、本人が抱いていた劣等意識とは大きなズレがある。

 目標や夢が大きいほど、思い通りにはいかないことの方が多い。それはごく当たり前のことで、多くの人はいちいち気に病みはしない。しかし福田は、「理想の自分」とそのときの状況に隔たりを感じるたびに、「こんなはずじゃない」という思いを積み重ねていき、抱く必要のないコンプレックスを自ら肥大させてしまったのかもしれない。

 その後、相次ぐ卒業により、残った初期メンバーは福田花音と和田彩花の2人となった。この状況も、福田の劣等意識を育てる要因になった。

 「ニコッて笑ったらなんでも許しちゃえるような可愛い笑顔と愛嬌はアイドル界、芸能界ナンバーワンだとおもうよ! 正直ずーっと隣にいてお仕事してきて劣等感しか感じたことがないくらいです」

 2013年8月1日、和田彩花の誕生日に際し、福田はブログでこんな言葉を贈っている。劣等感、コンプレックス。福田が和田を語るときに、たびたび用いる言葉だ。これは、単に和田の「笑顔と愛嬌」を羨んだだけではなく、ファンやスタッフの態度も影響していたに違いない。

 「同じことをしても、あやちょは怒られないで、私だけがスタッフさんから怒られる」

 こんな愚痴も、福田はたびたび口にする。学校や会社などでも、「怒られやすい人」というのはいる。厳しく叱ったら殻に閉じこもりそうな和田に対し、福田は叱りやすいタイプなのだろう。

 ファンも、和田の言葉には素直に従うのに、福田には反発することが少なくない。もちろん、福田に対する反感によるものではなく、福田のキャラクターならマジメに従うよりも、そういった「ネタ」や「ノリ」で対応した方がおもしろいと感じていたからだ。福田に対してなら、それが許されるだろうと。福田が過剰なコンプレックスを抱き、“こじらせて”しまったのは、スタッフやファンの責任でもあるのだ。

 さらに言えば、福田の個性的すぎる言動の数々も、和田への劣等感や周囲の反応に負けぬよう、「唯一無二」であることを求めた結果とも思える。

 卒業公演でも福田と和田のデュエットで披露した『ふたりはNS』(オリジナルは、元モーニング娘の久住小春と℃-ute・萩原舞のユニット「きら☆ぴか」)。この曲にもなぞらえ、福田と和田はお互いの関係を磁石のNとSに例える。確かに、歌詞にもあるように「正反対」に見える2人。だが、それだけではいまひとつしっくりこない。

 彼女たちの関係を別の例えで表すならば、「太陽と月」とも言うことができる。あくまでも天真爛漫、常に自分を信じて突き進む和田に対し、福田は不安定に満ちたり欠けたりしながら、笑顔と憂いを行き来する。

 この両者の違いは、どちらが優れているという話ではない。太陽の明るさや暖かさに、人は憧れを抱く。だが、ときには強すぎる熱から逃げ、光を照らさない太陽を恨みもする。ましてや、あまりにも強く輝く太陽を見つめ続けることはできない。人がなにかを想うとき、空を見上げ、じっと見つめるのはいつも月だ。まばゆいほどに光り輝く満月に高揚し、儚げに消えていく有明の三日月に寂しさを感じる。移り変わるその姿に、世の中や自分を重ね合わせることもある。太陽が沈んだあと、足元を照らしてくれるのは、やさしい月のあかりだ。太陽とは違ったやり方で、月も人を照らしているのだ。

 福田花音は、間違いなく唯一無二のアイドルだった。普段は見つめることができない太陽も、月面に反射する白い光としてならば、立ち止まって見続けることができる。

 本人がことさらにアピールすることはない(自覚すらしていないかもしれない)が、福田はいつでも周囲を見渡し、自身の言葉や態度によって、他のメンバーを浮かび上がらせてきた。これは、常に前を見て突き進み、いささか“天然”なところもある和田彩花にはない才能だ。

 事実、「2期メンバーの加入をすぐには受け入れられなかった」という福田の言葉に反し、当の2期メンバーたちは「福田さんのおかげで、グループになじむことができた」と口をそろえる。そんな福田だからこそ、いくら毒舌で突き放しても、後輩メンバーからは慕われ、ファンから愛されてきたのだ。

 今後は、作詞家としての道を進む福田花音。おそらく、いつでも夢だけを与え続けるような、安定感のある作詞家にはならないだろう。しかし、そもそも人の心は、満ちたり欠けたりするものだ。それを知る福田花音だからこそ書ける、唯一無二の歌詞があるはずだ。

【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第6回】

【記事提供:リアルライブ】
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