
<第34回日本映画プロフェッショナル大賞授賞式>◇31日◇東京・テアトル新宿
昨年、日本映画界を席巻した「侍タイムスリッパー」の安田淳一監督(58)が、24年8月17日に同作を全国1館で上映するなどし、特別賞を受賞した東京・池袋シネマ・ロサの矢川亮支配人に花束を贈呈した。
授賞式後には「碁盤斬り」の白石和彌監督(50)と「ここは日本映画の最前線」と題した対談を行った。その中で、京都で米作り農家を営みながら映画製作を続ける立場から、日本国内で米の高騰が続き、この日から政府が随意契約で放出した備蓄米の店頭での販売が始まったことに関して意見を求められた。
安田監督は「僕、今日、京都から朝、田んぼの見回りをして、水漏れがあり、あぜを確認してから来ました」と口にした。その上で「炎上しがちな問題なので、ちょっと言葉を選んで」と言いつつ、米問題について語り出した。「古古古米というのはですね…本当に安く取引されるのは僕らも知っていまして。1キロあたり10何円くらいのを5キロ2000円で…」と説明した。
そして、根本的な問題として「米農家は、作れば作るだけ赤字になっているのが全国的な現状。90何%は赤字。赤字やから、やる人がいなくなって、どんどん耕作地放棄地が増えていく中で、生産量が減っての米不足である高騰。そこを解決しないと繰り返す」と断じた。「去年、夏に1回、米不足になった時に、来年も、もう1回、米不足になって高騰すると言ったらそうなった。担い手がいなくて高騰すると言っていた。(的中し)自分でも驚いている」と口にした。
さらに「10年も20年も前から、将来の担い手がいなくて、米が高騰するとずっと言われてきた中、政策としてケアせず、こうなった」と、国の農業政策を批判。「具体名を出すと…小泉さんがマスコミによって、やみくもにヒーロー化されているなぁという感じを受けていて。そもそも、小泉さんがおられる与党が延々、農政を失敗してきたから、こうなった。マッチポンプみたいな印象を持っている」と、随意契約による政府備蓄米放出を決めた、小泉進次郎農相(44)と自民党を痛烈に批判した。
安田監督は「僕はずっといろいろな商売やってきて、米を自分で作り出したのは3年目」と、23年に父が亡くなり、米農家を継いだ身であることを、改めて説明。その上で「おやじの背中を見てきて、『主食は誰が作る?』と。海外から輸入するようなことになってしまえば、食料、主食の主権をなくし、外国の言いなりになってしまうのは避けたい、という使命感で作ってきた」と父や先達の米農家の思いを代弁した。
その上で「国政農政に振り回されて、こういう状況になっている。正直、どうしようもない」と指摘。「簡単に大規模農業すれば、コストバランスが良くなると言うけれど、言っている相手が(農政で)失敗を重ねた相手やから…。勧められても、助け船を出すでもなく、できませんと放棄した耕作地が、干からびるのを待っている感じやから」と、政府を重ねて批判。「ずっと、だまされてきたとまでは言わないけれど(農政が)失敗してきた相手に言われていることは、素直に聞き入れられない」と訴えた。「日本映画の最前線」から「日本の米の最前線」へと一時、テーマは変わったが、客席から拍手が起きた。
期待される新作について。大手映画会社から話はあったか? と聞かれると「大手から、チョロチョロと。でも、銀行の預金が7000円を切った。そろそろ、他の金で撮らせて欲しい」と本音も吐露。白石監督から「今度こそ、撮影所にお金出して撮らせてもらう話が、私が出す話になっていると言っていた」と舞台裏トークを“暴露”されると「なんで、僕が払う話になってるんですか? と…怖いわ」と笑った。