
八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助の襲名披露興行が東京・歌舞伎座で5月2日から始まります。
3月31日昼には神田明神で「お練り」を行い、夜には1500人が集まった「襲名を祝う会」が開催されるなど、大きな盛り上がりを見せています。1年前の5月の歌舞伎座「團菊祭」では、2023年4月15日に82歳で亡くなった四代目市川左團次の一年祭追善狂言として息子の市川男女蔵が歌舞伎十八番の「毛抜」の粂寺弾正を演じました。父が左團次襲名公演で演じて、当たり役とした狂言で、孫の男寅も錦の前役で出演し、いい供養になりました。
八代目菊五郎の襲名披露興行に、左團次の名前がないのは、ちょっと寂しいですが、「勧進帳」では團十郎の弁慶、菊五郎の富樫に、男女蔵は四天王の一人の常陸坊海尊を演じ、男寅は「京鹿子娘道成寺」に所化役で出演します。常陸坊海尊は父左團次もよく演じていた役です。
左團次といえば、明治時代に活躍した初代は人気・実力を兼ね備えた歌舞伎俳優として、9代目團十郎、5代目菊五郎とともに「團菊左」と並び称されました。二代目は新作歌舞伎に積極的に取り組み、翻訳劇にも挑戦した進取の精神に富んだ名優でした。三代目は菊五郎劇団の重鎮で、日本俳優協会の会長を務めました。四代目も菊五郎劇団で修行を積み、おおらかな芸風で記憶に残る俳優でした。「助六」の意休、「髪結新三」の家主長兵衛、「身替座禅」の奥方玉の井など、敵役から老け役、女形まで幅広い役柄を演じました。そして、襲名披露などの口上では型通りのあいさつで終わる俳優が多い中、サービス精神が旺盛な四代目は奔放な発言で大いに笑わせてくれたものです。存命なら、八代目菊五郎の口上にも並んで、楽しくて面白い口上を披露してくれたでしょう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)