岡田茉莉子(91)が29日、都内の国立映画アーカイブで行われた、東京国際映画祭との共催企画「TIFF/NFAJクラシックス 映画監督 吉田喜重『秋津温泉』トークショー」に登壇。満席になった客席を見て「こんなに、たくさんの方に見ていただいて…うれしく思います」と、感極まって涙した。
「秋津温泉」は、22年12月に89歳で亡くなった岡田の夫・吉田喜重監督の代表作の1つとして知られる、1962年(昭37)の松竹映画。岡田が、自らの映画100本記念に企画し、吉田監督に監督を依頼し、コンビの始まりとなった作品。47年に発表された藤原審爾の小説を実写化した。
岡田は「ずいぶん、昔のように感じますけど、20年くらい前のもの」と、軽くジョークを口にした上で「久しぶりに自分で見て、よくやったと思う」と感慨深げに語った。その上で、製作の経緯を明かした。
「私が東宝にいたころから、やりたくて何度もお願いしたけれどもダメと言われ、松竹に移っても映画にならないだろうと。100本記念映画をやるので、やりたいものをどうぞ、責任を負ってやれということなので、プロデュースからやらせてもらった。俳優、演出も一生懸命やってくれた」
吉田監督に依頼した理由を聞かれると「(原作が)古い話なので、若い監督がいい。会社に言ったら『彼は(原作のない)オリジナルしかやらないからダメ』と。お会いして、口説きました。時間がかかりました。(吉田監督が)『自分がやりたい『秋津温泉』でいいですか?』と言うので…」と説明。「どこにいても、やりたいことを精いっぱいやった人。ワガママじゃなく、理念が通っているので撮ってきたと思う。吉田さんは、良い監督だと思う…失礼しました」と、吉田監督の人間性を紹介しつつ、のろけ話を口にして照れ笑いを浮かべた。
聞き手を務めた舩橋淳監督(50)は吉田監督と親交が深く、松竹から独立した同監督が66年に設立した現代映画社の作品を、国立映画アーカイブに寄贈する話が始まっていると明かした。岡田は、舩橋監督から、吉田監督が亡くなって2年近く経過した事実を改めて紹介されると「ここ(国立映画アーカイブ)が好きで、自分の映画がかかることが好きだった。今日も来たかったでしょうね」とかみしめるように語った。そして「吉田が一番、喜んでいると思う。また、こういう機会があったら、皆さまとお目にかかりたい」と観客に呼びかけた。
特集上映企画「TIFF/NFAJクラシックス 映画監督 吉田喜重」は、11月3日まで国立映画アーカイブ2階の長瀬記念ホール OZUで開催。吉田監督の劇映画10本に、ドキュメンタリー映画3本を加えた13作品、12プログラムを全て英語字幕付きで上映する。