記念すべき第100回を迎える夏の高校野球甲子園大会ですが、高校野球も決して永遠ではないかもしれません。
中学校軟式野球部員の減少が止まらないのです。日本中学校体育連盟(東京)が加盟校を対象にした調査によると、軟式野球部の部員数(男子)は、2009年度「30万7053人」から減少傾向で、2017年度は「17万4343人」にまで減りました。最も古い統計の2001年度は「32万1629人」だったので、約20年でほぼ半減。更にここ数年の減少率は急速化しているそうです。
このまま行くと10年後には中学軟式野球部員0人になるという人もいます。まぁ、その見解は言い過ぎかもしれませんけど、でもそれくらい野球人口が減ってしまう可能性はあるということです。
野球離れが深刻...
— 全国高校野球観戦部@ (@AJ_HS_BB_WC) 2018年5月13日
あと10年で中学野球は全滅する!?
中学校の軟式野球部員は7年間で12万人減少した。このペースで行くと、野球部の中学生は10年後には0人になる計算だそうです。 pic.twitter.com/yNouebRGXh
上のグラフは、サッカー部員が野球部員を逆転したものですが、よくみるとサッカー部員も減少しています。実は、少子化の進行で他の競技の男子部員総数も、2001年度より約2割減っているそうです。
ただ、そもそも部員数が多かった野球部員数の減少はひどくて、例えば、甲子園のお膝元で野球が盛んな兵庫県でも軟式野球部員は2010年度から8年連続で減少中。2001年度は1万5484人いたのが、2017年度は9020人と4割以上減りました。
ちなみに、全国的に高校野球部員も2015年から3年連続で減少しています。中学で野球をしていないと高校で野球を続ける子は少ないので、高校球児はもちろん、その先の大学や社会人、そしてプロ野球の人材も減ってしまう。日本の野球そのものの存続がキケンなのです。
続けられない環境
中学校の野球部員がなぜ減るのか? その原因についてリサーチしてみました。硬式球を扱うシニアとかボーイズに流れている傾向もあるようです。が、野球人口が全体的に減少傾向にあると捉えて、いちばん大事なのは、“小学生時期に野球を選択し、続けるか”でしょう。子どもが野球を好きになって続けたいという意志を保たれるかです。
関連した単語でネット検索してみると沢山ヒットします。専門家や野球ファン、指導者の方などが、様々な角度から原因や見解を述べている記事を見ましたが、大凡すべてが当てはまると思いました。
多い意見を簡単に挙げると・・・
《野球人口が減る理由》
・「昔と比べて野球ができる場所が減った」
30年ほど前から、周囲に“キケン”として公園などで野球もキャッチボールも禁止という場所が増え、ボール遊びそのものが制限されたことが最大の原因かもしれません。近くに空地や公園などがなくても、昔は家の前の道でキャッチボールをしたり、軟らかいカラーボールで野球をしていたものですが、それも近所迷惑とか危ないとかで、そんな光景も見なくなりました。TVゲームの普及で単純に外で遊ぶ子どもも減りましたし…。
・「昔と比べてスポーツの選択肢が増えた」
五輪で日本人選手が活躍し、さまざまな競技にスポットが当たったことから子どもが興味を持つスポーツが多種多様になりました。そして、そのスポーツができる場所も全国的に増えています。最初は野球をしていても、自分は上手じゃない、活躍できないと感じたら、他のスポーツがしたいと思うのも当然。(逆に他のスポーツを諦めて野球を始めるパターンもあると思いますが)。
・「昔と比べてテレビで野球を見る機会が減った」
という声も多いのですが、地上波ではすっかり放送されなくなったプロ野球もBSではよく見られます。高校野球も甲子園大会は全試合地上波で観られます。それでも野球人口が増えないのは魅力がないのか。これはシビアに厳しいです。
・「少年野球チームの親のお茶当番がイヤ」
この意見は結構多いです。野球に限らず、サッカーなど多くのスポーツで親の当番はあって、これがストレスとする親は多いとか。
「当番」はチームのサポート役で、親が持ち回りで練習などに顔を出しドリンクタンクなどを用意します。他には、ケガの手当てなど様々な雑用を賄います。親は、それ自体が面倒だったり、参加したくてもできなかったり、親同士で上下関係ができたり…。
これが原因で親が子どもに「チームを辞めて」と言うケースもあるそうです。子どもが可愛そうですよね。なので最近は当番制を廃止しているチームが増えているようです。むか~しは少年野球で当番なんてありませんでしたけどね。
――――― と、いろいろ考えられますが、みなさんはどう思いますか?
でも、なんだかんだ言ったって他のスポーツ競技者からしてみると、「それでも競技人口もファンも多い人気スポーツだろ」と言われそうです。そうなんです、おかしいですよね? プロ野球の観客動員は毎年微増していますし、甲子園の高校野球だって毎年盛り上がります。人気はあるのに競技人口が減っているんです。
野球人口を増やすためにすべきこと
危機感を覚えるべきは日本野球機構(NPB)です。オフシーズンなどで子ども達に野球教室を開くことはかなり昔から行っていますが、今重要な課題は「子どもをいかにして野球に取り込むか」でしょう。実は、「こりゃヤバい」と思ったのか、2016年から新しいことを始動しました(遅いけど)。
まず、「ベース・ウォール」という壁の設置です。
NPB 「ベース・ウォール」寄贈 県総合運動公園 投球練習や壁当て遊びに https://t.co/gsnDHqAnJR#香川#地域pic.twitter.com/jva6haVjjC
— OLIVE (@kagawaolives) 2017年10月22日
現在、全国の約10ヶ所の小学校などに寄贈しています。この壁にボールを投げて跳ね返ってきた球をキャッチしまた投げるという繰り返し、いわゆる“壁当て”ができるのです。近年はそれができる家のブロック塀すら少なくなりました。壁相手に一人で遊ぶより、誰かとキャッチボールがしたい、バットで球を打ちたい、試合がしたい、というふうに友達と野球の輪が広がって行くと素晴らしい。
更にもう一つ、「野球遊び」です。
これは、今年5月に明治神宮外苑室内球技場などで初めて試みたイベント。未就学児(幼稚園児)を集め、野球の「握る」「投げる」「捕る」「打つ」「走る」などの多彩な動きを体験し、楽しんでもらうことで幼児期の発育・運動能力発達の一助となることを願って催したもの。
また、この楽しみ方のマニュアルを様々な野球関係者に伝え、今後広めて行けるよう指導しました。NPBに、参加した園児の保護者から、「子どもが家に帰ってきて『野球選手になる』と張り切っています。楽しい時間をありがとうございました」という嬉しい連絡が届いたそうです。今後も継続してゆくことが大事です。
道具をプレゼントして!
低年齢層に野球の魅力を伝え競技人口を増やす目的のイベントは、アイディアを出してもっとやってほしいです。
そこで提案があります。それは、子どもたちへ野球道具のプレゼントです(記載を見つけられなかったので行っていたらすみません)。スポーツには道具が必要ですし、道具を手にとってこそ始められるものです。しかも野球は道具が沢山必要なスポーツです。
そこで野球遊びに参加した子どもやベース・ウォールを設置する小学校に道具を提供して欲しいのです。特に学校には沢山のグラブ、ボール、バット、そしてキャッチャーミットとマスクは最低限必要。ベースや審判の用具など、すぐにでも試合ができる用具一式を無償で提供すれば、必ず野球が大好きになる子どもは増えるはずです。
コミッショナーに期待したい
先日、とある企業の代表が「プロ野球球団を持ちたい」と発言し世間を賑わせました。このマガジンサミットでも去年、“16球団構想をシミュレーション”した記事を出しました。野球人口は減りつつも、子どもたちの「夢はプロ野球選手になる」という数はまだ上位なのです。その受け皿を増やせば野球人口はきっと増えるでしょう。
しかし、「球団を持ちたい」という報道に、NPBはなぜなんのリアクションもしないのでしょうか? 特に、昨年就任した斉藤淳コミッショナーが前に出て、堂々とリーダーシップを発揮できるチャンスなのに。
そもそもこの方、野球界については素人のようです。何かの記事で見ましたが、就任してから「NPB職員などに野球界のレクチャーを受けていろいろ驚いた。球界の現状把握に努めている」「野球人口が減少している。どうやって活性化するか。小・中、高校・社会人、プロまでひとつのグループで機能しなくてはいけない」
もう何人ものコミッショナーが同じことを言っていますが、またこの人もか、と思いました。でも、野村證券副社長などの経歴を持つ経済界の重鎮です。この経歴に恥じない偉業をNPBでも成し遂げてくれると期待しています。
野球ファンの中には、斉藤コミッショナーを知らない人も多いはず。そこで、まずは自分が決めた野球界活性化のマニフェストを掲げ、またその策まで具体的に示して欲しいと思うのです。任期は3年以上ということですが、目標を達成するまでは辞めない覚悟で責務を全うして欲しいです。
とにかく、NPBさん、もっともっと危機感を持たないと、このままじゃ数十年後には本当に高校野球もプロ野球もできなくなり、日本から野球が消えてしまいますよ。
- ホームラン 2018年7月号 (2018年06月20日発売)
Fujisan.co.jpより