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視覚障害のあるお客さまにお話を聞きました アクセシビリティ[前編]


ゼロバンク・デザインファクトリー(※)の長島です。フロントエンドエンジニアとして働いています。

※ゼロバンク・デザインファクトリーは、ふくおかフィナンシャルグループの一員で、みんなの銀行のバンキングシステムを開発しています。

みんなの銀行では、“アクセシビリティ”を「より多くのお客さまが、より多くの利用環境から、より多くの場面や状況で情報やサービスにアクセスできること」と捉えて、取組んでいます。主にスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)における挙動改善を目的とし、2023年1月から定期的にリリースしています。

アクセシビリティをテーマに綴る連載2回目では、視覚障害のあるお客さまにご協力いただいたユーザーインタビューとユーザビリティテストを、フロントエンドエンジニアのキム・ジョンア、デザイナーの鶴大輝とともに実施しましたので、その実施前の状況、実施の経緯、実施後の感想や変化について振り返りながら、前編・中編・後編の全3回に分けてお伝えします。

ユーザーインタビュー・ユーザビリティテスト「実施前の状況」

長島 まずユーザーインタビュー前の状況ですが、2021年の10月頃から、フロントエンドエンジニアとデザイナーが参加するミーティングや社内LT(Lightning Talks)大会みたいな場で、「アクセシビリティはみんなの銀行のミッションを支える品質特性なので、これから頑張っていく必要があるよね」という話をし始めた記憶があります。

そこでお2人にお聞きしたいのですが、それ以前は、アクセシビリティについてどのようなイメージを持っていましたか?

アクセシビリティに対して抱いていたイメージ

 以前から、スマホアプリやWordのようなソフトを触っている時に、アクセシビリティ関連の表示が出たりするのは記憶にありました。触ってみたら枠線が出てきて、指で操作するんだろうな、と。

目が見えにくい方や障害のある方を含め、みんなが使えるようになるとか、見えにくいものを見やすくするとか、何となくふわっとしたイメージを持っていました。

VoiceOverでみんなの銀行アプリのトップ画面を操作すると、金額の周りに黒い枠線が表示される。

 それで社内のアクセシビリティ勉強会に参加してみたのですが、インクルーシブデザインやユニバーサルデザインと類似の概念で、何らかの障害のある方たちが触ってみた時に、「伝わりやすくする」「使いやすくする」ものと改めて理解したところでした。

長島 なるほど。イメージは以前から持っていたんですね。

 ただ、自分含めてですが多くは、「じゃあ説明してよ」と言われたら、「なんかたまにWordの下に出てきたり、スマホアプリで出てきますよね」という感じの説明になる人がほとんどなのでは。

長島 そうですね。そういうイメージを持っている人もいるでしょうし、全く意識していない人もいるかもしれないですね。

スマホを使い込んでいて、設定メニューをよく見る人だと、「アクセシビリティって何だろう」と気付いたりするのかもしれません。キムさんはどうですか?

キム 私は入社前、面接の時から「アクセシビリティの仕事はしたい」と話していましたので、入社後すぐに社内の勉強会に参加しました。

初めてアクセシビリティという概念に接したのは、だいぶ前になります。Web(※)ではなく、バスや電車など公共交通機関のアクセシビリティでした。

※みんなの銀行アプリはWebViewという技術を用いて作られています。詳しくは、以下のゼロバンク・デザインファクトリー株式会社のQiitaをご覧ください。

キム 昔、イギリスに住んでいた時期があったのですが、車椅子の方やベビーカーを押している方が、介助者なしで一人でバスを利用している姿をよく見かけていたんです。当時はまだ、韓国や日本では見られない姿でした。

なぜだろう?と思って韓国や日本のバスを観察していたのですが、バスの乗り口・降り口に大きな段差(ステップ)があって、車椅子やベビーカーでの利用は難しかったんですよね。最近はノンステップバスも増えてきているようですが。

そういうところから少しずつアクセシビリティについて考えるようになって、自然と今のフロントエンドエンジニアという仕事につながっていきました。

長島 今の仕事に就かれたのにはそうした背景があったんですね。イギリスのバスは、どのような形になってるんですか?段差がないんですか?

キム バスの床面が低く設計されていてバス停との段差がなかったり(ノンステップバス)、車いすやベビーカーがスムーズに乗り降りできるようにスロープが装備されています。運転手さんが自動(または手動)でスロープを操作しますが、乗降自体は、利用者自身で行えるようになっています。

長島 日本や韓国では、まだ古いタイプのバスも走っていますが、運転手さん(や乗務員さん)が手動でスロープを設置し、利用者の乗り降りをサポートするイメージがあります。イギリスの「自動」というのは、ボタン操作などでスロープが出てくるようなイメージですか?

キム はい、そうです。

動画はロンドンを走るバスの様子。TIME 0:25頃に乗降時に利用するスロープが紹介されている。
出典:Accessible London with TGA Mobility and TfL

長島 EUだと法律の義務付けもあって、日本や韓国よりアクセシビリティへの意識が高く、対応が進んでいるのかもしれないですね。

キム 以前、長島さんが、病院のナースコールのボタンのアクセシビリティについて、社内のSlackに投稿されたじゃないですか。そういうのって、1回気付いた経験があると、日常のあらゆるところにアクセシビリティの課題があることに気付いてしまう。

写真は病院のナースコールボタン(写真は許諾を得て使用しています)。

長島 確かにそうですね。鶴さんにも分かるように補足すると、以前私が入院していた時の話なのですが、病院のナースコールのボタンが興味深く感じて、写真を撮ったんですよね。

「(文字が書いてある)上面のボタンを押す」、「側面のレバーを握る」、「先端のボタンを押す」という3通りの方法で、看護師さんを呼ぶことができるデザインになっています。

ユニバーサルデザインとアクセシビリティは近しい概念ですが、どちらかといえば、ユニバーサルデザインは1つのデザインで色々な人が使えることを目指すもので、アクセシビリティはより多くの場面でより多様な能力を持つ人が使えることを目指すものと理解しています。

このナースコールのボタンのように色々な形状を用意することによって、「握ることはできるけど手を細かく動かすことができない」場合や、「消灯後などの暗くてよく見えにくい」場合でも、看護師さんを呼べるんですよね。ユニバーサルデザインとアクセシビリティが交差する、面白い例だと思います。

 僕もそのSlack投稿は見た記憶があります。

長島 みんなの銀行はすべてのサービスがスマホで完結するという特徴を持っていますが、銀行に関係するところでいうとATMだったり、他にも日常生活の中で「アクセシビリティが課題となる場面」は少なくない。今キムさんがおっしゃった通り、いろんなところにあるものですよね。

色々なサービスや機能を使っているということは、そもそも「アクセスできている」ということだから、そこにはアクセシビリティが存在するんですよね。いろんなところに普遍的にある、というのが面白いポイントだと思いました。

ユーザーインタビュー・ユーザビリティテストを実施した経緯

長島 アクセシビリティが「みんなの銀行のミッション実現に欠かせない品質特性である」というのとはまた別軸ですが、2021年、みんなの銀行のサービス提供開始のほぼ同時期、障害者差別解消法が改正されました。

障害者施策|政策統括官(共生・共助担当) –内閣府
https://www8.cao.go.jp/shougai/[リンク]

また、金融庁が金融機関を監督する際の指針をまとめた文書の中でも、障害のある方(や高齢の方)等がATM、インターネットバンキングを円滑に利用できるよう配慮しているかという趣旨の記述があります。

主要行等向けの総合的な監督指針 : 金融庁
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/[リンク]

こういった法令や監督省庁の指針を背景に、みんなの銀行ではまずアプリのスクリーンリーダーでの操作にフォーカスして、アクセシビリティの取り組みを開始することになりました。

「何から始めたらいいのか分からない」という状態だったので、株式会社ディーゼロ 執行役員の平尾ゆうてんさんを社外講師としてお招きし、みんなの銀行の社内勉強会を2022年1月から6月にかけて開催しました。

そこで分かったことをベースに、順次アプリの改善をリリースし始めたんですが、勉強会の参加者には、日常的にスクリーンリーダーを使っている人がいなかったんですよね。開発とテストの時に使うだけで。

そのため本当にスクリーンリーダーを使って生活している人にとって、自分たちが加えている改善が「本当に効果があるのか」分からず、手探りのまま取り組んでいた部分もありました。

そのような状況だったのですが、ある日お客さま窓口宛に、視覚障害のあるお客さまからの『声』が届きました。一部抜粋してご紹介させていただきます。

アプリのアクセシビリティ対応をしていただき、ありがとうございます。私は視覚に障害があり、Androidで利用できるTalkBackという画面を音声で読み上げてくれるアプリを利用しています。初期の頃のバージョンはなんとか使えてはいたものの、使いにくく感じていました。今のバージョンは矢印アイコンなどに代替テキストが設定されていなかったりするなど、少し使いにくい点はありますが、かなり使いやすくなって感謝しています。改めてお礼させていただきます。今後も使いやすいアプリになっていくことを期待しています。ちなみに、上記でドラッグ&ドロップはやりにくいと書いたのは、画面を目視で確認できないため、どのあたりまで移動したらよいかわからないためです。アプリのアクセシビリティ対応していただき、ありがとうございます。
視覚障害のあるお客さまから寄せられた『声』(一部抜粋)

長島 お客さまから貴重なお声をいただいたので、改善中の箇所のユーザビリティテストへのご協力をご相談させていただき、鶴さんと一緒に進めることになりました。

使っていただけたことが嬉しくて、私はお客さまに他の導線も使えるか見ていただこうと考えていたんですが(今振り返ると少し先走り過ぎていました)、そこを鶴さんと相談する中で、「まずは利用状況から確認していきましょう」と。

このお客さまが、お金をどのように使われていて、そのお金を使うっていう流れの中で、みんなの銀行がどういう状況なのかについての理解がまず必要なんじゃないかと提案いただき、ユーザーインタビューを実施するまでの準備を鶴さんにリードしていただきました。

おわりに

今回は、ユーザビリティテスト実施前の状況や実施に至るまでの経緯についてお届けしました。続く中編では、デザイナー、フロントエンドエンジニアそれぞれの立場で見えた気付きと学びについて3人で振り返ります。

※この記事はオウンドメディア『みんなの銀行 公式note』からの転載です。

(執筆者: みんなの銀行)

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