細胞を擬人化して描き、その斬新かつユニークな設定が大きな話題を呼んだ漫画『はたらく細胞』(著者:清水茜、講談社「月刊少年シリウス」所載)。原田重光・初嘉屋一生・清水茜が手掛けたスピンオフ作品『はたらく細胞BLACK』の2作品が原作となり、シリーズ史上初となる人間の世界もあわせて描き、日本を代表する超豪華キャスト×スタッフ陣によって実写映画化!映画『はたらく細胞』が大ヒット公開中です。
人間の体の中を舞台に繰り広げられる<世界最小の物語>を、日本映画最大のスケールで描く本作。監督を務めた武内英樹さん(『翔んで埼玉』『テルマエ・ロマエ』)と、本作を監修した明星智洋医師にこだわりについてお話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見させていただきました。映画の原作となった『はたらく細胞』の存在をご存じでしたか?医師の明星さんからご覧になって面白いなと感じた部分を教えてください。
明星先生:もちろん知っていて、原作漫画を読んでいました。内容が専門的だなという印象でしたね。漫画やアニメは子供向けの部分もありつつ、内容は医者とか医療従事者が読んでもタメになるなと思っていました。例えば映画にも登場するNK細胞やマクロファージがどういう働きかをするかを僕らは医学書で学びますが、一般の方にもわかりやすく表現しているので素晴らしいですよね。
――映画における「医療監修」とはどんな作業を指すのでしょうか?
武内監督:もちろん僕ら映画スタッフも勉強はしているのですが、医療従事者ではないので、医療的な部分で描きたいことがちゃんと正しく伝わっているのか、というのを確認してもらうのが、医療監修の一番大きい作業です。間違った情報を流さないために、全てのシーンで協力していただいています。本作は体内の色々な組織内部のことを扱うので、全部見てもらっています。阿部サダヲさん演じる茂がトイレを我慢するシーンでは、肛門内部ではこういう風に細胞がはたらいて成立しているとか、薬を投与したり放射線を浴びる体内ではどんなことが起きるかとか、そういったことを全て確認していきます。
――明星先生は、どういった経緯で本作の医療監修を務めることになったのでしょうか?
武内監督:本作では様々な細胞や病気について取り扱っているので、明星先生のほかにも、一般内科の先生に医療監修に入ってもらっていました。今回は、原作にない体の外、人間側のドラマパートを映画オリジナルで描いていて、化学療法を受けたりするキャラクターが出てきますので、血液疾患や腫瘍の専門医である明星先生にも、監修に入っていただいた形です。
明星先生:その描写にがっつり入らせていただきました。僕が参加した時にはすでに撮影も半分ぐらい進んでいたんですが、台本があったにも関わらず、撮影現場で最適なセリフに変えていただくこともたくさんありました。病院のシーンでも、演者さんたちが医療関係者の役を演じ慣れているわけじゃないと思うので、実際の医者はどういう風に動いていくかとか、セリフや動きの細かいところまで全部こだわって監修しています。
他にも健康診断の数値はこの年代ならこれぐらいだろうとか、急変したシーンで酸素を何リットル投与するとか、この場面では脈拍は112ぐらいあるのが正常だろうとか、そういう細かい所も即興で調整していました。撮影現場にいる時は、僕が常に監督の隣に座らせていただいて、監督も「はい、カット」とおっしゃった後に僕の方にも「これでいいですか?」と聞いてくださり、すごく尊重していただき感謝です。
武内監督:そうやって先生のご協力を得て、よりリアルなシーンに仕上げていきましたね。特に映画の後半は、結構病気にまつわるシリアスな展開も出てくるので、実際に患者さんが映画をご覧になった時にどう思われるのかなというのは、ずっと気になっていたんです。センシティブな部分だからこそ専門の先生にしっかり監修いただいて、その上で、最終的に希望を持てるような展開にするように心がけました。
――お2人はすでにご友人としても親交を深められているそうですが、今回の映画で初めて知り合われたのでしょうか?
明星先生:本作では、僕が勤務している江戸川病院でもロケを行ったのですが、そのロケハンに武内監督がいらっしゃった時に初めてお会いしました。その時、僕は一番風格がある方が監督かなと思って、全然違う方に名刺を渡しちゃったんですよ(笑)。
武内監督:あの人はカメラマンさんです(笑)。
明星先生:そうそう、現場で一番喋らない人が実は監督だったという(笑)。こうして映画の医療監修をさせていただくのはとても貴重な機会だったので、武内監督には本当に感謝しています。個人的に永野芽郁さんと阿部サダヲさんのファンだったので、近くでご本人の演技を見られたのもすごく嬉しかったです。
武内監督:こちらこそ、的確なアドバイスをたくさんいただけて感謝しています。明星先生は本当にアクティブで、フットワークの軽い面白い方なので、撮影が終わってからも何度も飲みに行かせてもらっています(笑)。
明星先生:ちなみに武内監督は、この作品がきっかけで、僕の患者さんになったんですよ。
武内監督:そうです、明星先生は僕の主治医です!バイタルチェックしていただいたり、色々サポートいただいて、健康的に10キロ痩せられました。プライベートでも医療監修していただいています。
――すでに武内監督の健康状態にもお詳しそうな明星先生ですが、先生からご覧になって、監督の体内ではどの細胞が1番大変そうだと思いますか?
明星先生:それはもう肝臓でしょう!(笑)肝細胞。お酒には気を付けないといけませんよね、お互いに。
武内監督:映画『はたらく細胞』では深田恭子さんが肝細胞を演じていますけど、僕の体内でも、肝細胞ががんばっているはずです!
――医療従事者の立場から完成した映画をご覧になって、いかがでしたか?
明星先生:この映画では、細胞たちが活躍する体内の様子と、芦田愛菜さんや阿部サダヲさん演じる人間たちの外の様子、両方が描かれます。それがリアルタイムで映し出されるので、例えば日胡(芦田さん)がくしゃみをした時に体内ではどういうことが起きているのかというのを、体の中と外を行ったり来たりしてみせることで、すごくわかりやすく描いているんです。体の仕組みがわかって、これが本当にタメになるんですよ。僕は3回ぐらいこの映画を観ていますが、細かいところまで「こういう設定になっているんだ」と発見がありましたね。これからご覧になる方は、ぜひ繰り返し観て体内の勉強していただきたいなと思いました。
――改めて本作の医療監修で苦労した点はどんなところですか?
明星先生:色々あったのですが、映画の中で登場する言葉の意味の確認が、結構大変だったかもしれません。本当にその使い方で合っているのか、医学書を紐解きながらチェックしていきました。100点の答えを出さないといけないので、あらためて基礎的な勉強をし直したりもしましたね。劇中のセリフではだいぶ端折られているところを補填したり、基礎的に難しい文言の言い回しを調整したりしています。「これは実際には違うのでは」というシーンがあったとしても、原作のことも尊重しつつ、監修した上で物語として成立させられるように監督と相談していきました。
――明星先生のお気に入りのシーンはどこですか?
明星先生:ダントツで阿部サダヲさんのトイレ我慢シーンですね(笑)!トラックを運転している途中に催してしまって、漏れそうになるのを我慢している茂(阿部さん)の様子と、彼の肛門で細胞たちが悪戦苦闘している様子が交互に描かれるシーン。あそこはやっぱり面白いですし、外せないですよ。
武内監督:あのシーンは、サンディエゴ アジアンフィルムフェスティバルでインターナショナルプレミア上映をしたときも、海外のお客さんに大ウケだったんです。もうめちゃくちゃ笑ってましたね。体のメカニズムは世界共通だからこそでしょうね。どの国の人が観ても、やっぱりこのシーンは理解できるし、人類70億人何度も経験していることじゃないですか(笑)。だから、こんなに世界中で共感できるシーンってないんじゃないかなと思いました。
明星先生:あのシーンは映画オリジナルなんですか?
武内監督:僕と脚本家の徳永友一さんと一緒に考えたんです。トイレを我慢するシーンなら子供にもわかるし大好きだから、ああ、肛門のシーンはありだなと。そこから作っていったシーンでしたね。
――現在大ヒット中の本作ですが、年末年始にこの映画をご覧になる観客の方々にメッセージをお願いします!
武内監督:年末年始と言うと、やっぱり暴飲暴食に走りがちな季節ですが、体内の細胞たちは本当に大変で、ヘロヘロになっているはずです。この映画を観たら、はたらく細胞たちを大切にしたくなると思いますので、ぜひ休肝日を設けるなど、お酒を控えていただくと良いと思います。ぼくも頑張ります(笑)!
明星先生:映画公式Xで行っている「はたらく細胞チャレンジ」という企画を監修しています。
https://wwws.warnerbros.co.jp/saibou-movie/challenge.html [リンク]
毎日体が健康になることをやっていきましょうということで、10個のミッションに挑んでいただくんです。お酒を控える、緑黄色野菜を積極的に食べるなどのミッションもあるので、みなさんにもぜひ挑戦していただきたいですね。
あと、思いっきり笑うと免疫が上がるというエビデンスがあるんですよ。例えばお笑いライブを見る前と見た後の患者さんで、体内のNK細胞の活性化を見たという結果もあって。ちゃんと論文化されているんです。「笑って、泣けて、タメになる」この映画を観て、ぜひたくさん笑って免疫アップにつなげてください!
◆武内英樹 監督
1966年10月9日生まれ、神奈川県出身
【代表作】
2009年・2010年『のだめカンタービレ』シリーズ、2012年・2014年『テルマエ・ロマエ』シリーズ、2018年『今夜、ロマンス劇場で』、2019年・2023年『翔んで埼玉』シリーズ、2021年『劇場版 ルパンの娘』、2024年『もしも徳川家康が総理大臣になったら』
◆明星智洋 先生
江戸川病院 特任副院長 兼 腫瘍血液内科部長 兼 がん免疫治療センター長 兼 プレシジョンメディスンセンター長
https://www.edogawa.or.jp/%E8%A8%BA%E7%99%82%E7%A7%91%E3%83%BB%E9%83%A8%E9%96%80/%E8%85%AB%E7%98%8D%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%86%85%E7%A7%91/%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E7%B4%B9%E4%BB%8B/%E6%98%8E%E6%98%9F%20%E6%99%BA%E6%B4%8B
『はたらく細胞』
メガヒット公開中
(C)清水茜/講談社 (C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社 (C)2024 映画「はたらく細胞」製作委員会
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