愛と復讐の狭間で生きる男に救いはあるのか。第2次大戦、ナチス支配下のポーランド、そしてドイツ。ユダヤ人としての素性を隠して生きている美青年フィリップが、復讐、愛、死、孤独、そして時代に翻弄されながら、もがき生きていくー。
1961年にポーランドで発刊後、その内容の過激さから、すぐ発禁処分に。やがて、60年の時を経た2022年にようやくオリジナル版が出版。
ポーランド人作家レオポルド・ティルマンド実体験に基づく自伝的小説『Filip』(※日本未刊行)をもとに描かれた映画『フィリップ』が全国公開中です。本作を手がけたミハウ・クフィェチンスキ監督にお話を伺いました。
――監督は原作を知人からすすめられたそうですが、読んだ時にどの様な想いで映画化したいと考えましたか?
「良い映画にしたい」との想いでした。本を読んだ時に、主人公のその独特なシチュエーション、つまり、よその国で自分がユダヤ人でありながらナチスドイツに暮らさないといけないという緊張感のある状況に惹きつけられました。周りの人に何も本当のことを話せない彼が感じたその孤独感が魅力的というか、その孤独感を映画にしたいと思いました。
その本を読んだ10年前ほど前に、私自身も孤独について色々考えさせられた事情がありました。家族がもう亡くなって自分が1人になった場合はどのように乗り越えればいいんだろう?とか。彼が置かれている状況とは比較にならないものですが、孤独について共感があったのです。
――自叙伝的小説となっていますが、凄まじい出来事の連続でした。
まずお話しておきたいのは、この作品は「本を映画にした」と思わないでほしいのです。本は本であって、映画は別物です。この主人公の孤独、 孤独的な生活、それが1番私の中でインスピレーションになっいて、また私の周りにですね、そういう孤独的な生活を送ってる人が見えてきた時期であったんです。たまたま当時のポーランドで自分の周りにそういった孤独的な生活送っている人たちが多く見えてきたのです。「孤独的な生活を送っているのはあなただけじゃないよ」と映画を通して伝えた句なったのです。
――小説を忠実に映像化しようとした部分と、映画ならではのアレンジを加えたいなと思った部分を教えてください。
著者が書いた様々な出来事を映画では省略しないといけないんです。100パーセントのストーリーから、20パーセントに圧縮しないといけない。彼はドイツの高級料理店でいわば奴隷の様に使われているわけですが、そのシーンは残したいと思いました。私は新しく書き直したっていうのは、彼の精神的な、内面の部分です。自分の感情とか、苦しい思いとか、それを私が新しく書き直して映画にしたところです。
――脚本の執筆に時間をかけられたそうですね。
10年ほどかかりました。ただ、書くことに苦労したのではありません。脚本を書きながら、並行して資金集めをしましたが、そこに苦労したのです。脚本を書き替えながら、そしてまた予算集めに奔走する。それの繰り返しで、気が付いたら10年が経っていたのです。
――悲しいことに今も世界で戦争は起きていますから、本作の様な歴史を背景にした物語も他人事ではないなと感じました。
ありがとうございます。でも、私はこの作品が歴史的映画として見られることを望んでいません。歴史的背景はあくまでもバックグラウンドであり、フィリップの内面をクローズアップした人間ドラマとして作りました。でも、彼と現代の人の精神状態は近いものがりますよね。映画の中でフィリップはダンスホールでトレーニングを繰り返します。現在、ロシアとウクライナの戦争があり、ウクライナの難民が他の国に行ってストレスを抱えていたら、それはどこかで発散しないとやっていけません。人間というのは時代が変わっても精神的なものに変化はなく、あくまでも一人の人間であると思うのです。
――今日は素敵なお話をありがとうございました。
<story>1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、恋人サラとゲットーで開催された舞台でナチスによる銃撃に遭い、サラや家族、親戚を目の前で殺されてしまう。2年後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのレストランでウェイターとして働いていた。自身をフランス人と名乗り、戦場に夫を送り出し孤独にしているナチス将校の妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていた。孤独と嘘で塗り固めた生活の中、プールサイドで知的な美しいドイツ人のリザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会い、愛し合うようになる。しかし戦争は容赦なく二人の間を引き裂いていく…。
(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022