『アンチヴァイラル』『ポゼッサー』のブランドン・クローネンバーグ監督最新作、クローンに自身の罪を償わせるという背徳スリラー『インフィニティ・プール』が4月5日より公開。劇中に登場する印象的な“仮面”のデザインを手掛けたリチャード・ラーフォーストにメールインタビューを行った。
画像:『インフィニティ・プール』 “仮面”をつけて犯罪行為に興じるセレブリティ
リチャード・ラーフォーストは、2013年に日本公開された映画『武器人間』で知られる映画監督兼アーティスト。死体と機械をつなぎ合わせたユニークな“武器人間”が数々登場する同作は根強いファンを持ち、4月26日にはヒューマントラストシネマ渋谷にて一日限りのリバイバル上映が予定されている。
ラーフォーストのいちファンである「ホラー通信」記者は、彼にメールインタビューを行う機会を得た。デザインの依頼を受けた際のエピソードから、今後の監督作の予定まで語ってくれており、互いをリスペクトし合うブランドン・クローネンバーグとの友情が垣間見える回答をいただいている。
画像:映画『武器人間』 ラーフォースト自らデザインした武器人間のひとつ、“モスキート”
また、今回のインタビューに加えて他の質問にも回答している別バージョンと、ラーフォーストが描き下ろした美麗なコミック風イラストが『インフィニティ・プール』のパンフレットに掲載されている。こちらも是非チェックを!
リチャード・ラーフォースト メールインタビュー
ホラー通信:あなたのInstagramでブランドン・クローネンバーグ作品への参加を知り、「夢のコラボレーションだ!」とワクワクしました。今回のオファーが来たときのお気持ちは?
ラーフォースト:UFOを見るために友人とキャンプをしていたステキな夜、ブランドンのプロデューサーから電話をもらったんです。僕はブランドンの大ファンで、特に『ポゼッサー』が大好き。以前ファンタジア国際映画祭で彼と話したこともあったから、迷わずこのプロジェクトに飛び込むことに決めました。彼の力になれるなんてこんなに嬉しいことはありません。ちなみにUFOは見られませんでした。
ホラー通信:以前インタビューで“影響を受けた映画”について伺った際、ブランドンの父親であるデヴィッド・クローネンバーグの作品を真っ先に挙げていました。その事は今回のコラボレーションに特別な感慨を与えたのでしょうか?
ラーフォースト:僕はブランドンをひとりの人間として見ていて、彼の父親と比べたことはありません。確かにデヴィッド・クローネンバーグの影響を受けてきたけれど、今ではむしろブランドンの影響をより強く受けています。父親とは関係なく、ブランドンは彼自身が真のアーティストなんです。
画像:『インフィニティ・プール』メイキング写真 仮面をつけたアレクサンダー・スカルスガルド
ホラー通信:“クローンに罪を償わせることができる”という異様な法律のあるリゾート地を舞台にした『インフィニティ・プール』ですが、ストーリーに対する第一印象はどんなものでしたか?
ラーフォースト:人類そのものと同じくらい古くからある問題を扱っていると思います。西側諸国の旅行者は発展途上国で失礼な態度をすることがよくあり、そこでは贅沢と過度な消費が蔓延しているように見えてうんざりします。クローンという概念は、大量生産や単なるコピーのコピーとしての我々の存在によく似ていて、心に響きました。この予言めいたコンセプトは現在の我々の行動にまで及び、もはや人類の衰退が避けられないことを強調しています。僕の好みにぴったりのテーマです。
ホラー通信:ブランドン・クローネンバーグ監督はあなたの想像力を制限しないためにマスクのデザインに関するリクエストをしなかったそうですが、どのようにイメージをふくらませたのですか?
ラーフォースト:ははは。おかげで深みにハマりましたよ。全方位からアイデアを練っていたのですが、彼と長い時間を過ごしてその好みを知るにつれ、彼の繊細かつ複雑な心を深く掘り下げていくことになりました。アーティストのユニークな想像力を探求するこのプロセスは、僕が仕事で最も喜びを感じる部分です。その間に“焼けた顔の横に繊細な花を並べる”というコンセプトが浮かび、すぐにこれは重要なイメージだと気付きました。挑戦的な仕事でしたが、そのプロセスは爽快で、方向性が明確になった瞬間に最高潮に達しました。
焼けた顔と安っぽい花の装飾を使うことが重要だと分かってからは、僕はそれらの顔を奇形的な切断の絵画として見るようになりました。そして、統一感を出すためにすべてのマスクが互いに似ているように整えていったのです。これは一番楽しい作業でしたね。なかでも“マネー・マウス”のマスクが一番のお気に入りになりました。
画像:『インフィニティ・プール』に登場する仮面 “マネー・マウス”
ホラー通信:完成した映画の感想を教えて下さい。マスクの登場シーンはいかがでしたか?
ラーフォースト:不安を煽るようなカメラアングルのオープニングから一気に魅せられました。あまりの面白さにびっくりしましたよ。撮影監督のカリム・ハッセンの仕事ぶりも素晴らしく、僕の手掛けたマスクたちが印象的にスクリーンに登場していてゾクゾクさせられました。特にトリップシーンでの使われ方は本当に不穏です。
ホラー通信:あなたのダークで美しいアートが大好きです。映画以外にも、影響を受けたものやあなたの作風を見つけるのに役立ったものはありますか?
ラーフォースト:ありがとう! 僕の創作のダークサイドに影響を与えたのは、人生において乗り越えるのが大変だった過去の経験です。アートを制作することは、これらの課題に対処する自己表現の一形態として役立ちました。恐怖に正面から立ち向かうことで強くなれたし、自分の恐怖を「ワースト・ケース・シナリオ」というグラフィック・ノベルに昇華することも出来た。映画におけるインスピレーションの源はデヴィッド・リンチで、アートにおいてはサルバドール・ダリです。僕も自分自身をシュールレアリストだと思っていて、ありがたいことに僕にはそれを活用する才能がありました。
ホラー通信:またご自身で映画を監督する予定はありますか?
ラーフォースト:現在『メビウス』というSF映画に取り組んでいて、すでにポストプロダクションに入っています。ブランドンが共同プロデュースをしていますよ。この作品はガスライティングをテーマにしていて、有害な人間関係が僕たちの知る現実に影響を及ぼすということを明らかにしていきます。地に足の着いたSF映画として始まり、物語が進んでいくにつれて段々とシュールになっていく。僕の以前の作品とは趣が違うけれど、皆さんにはきっと気に入ってもらえるでしょう。
『インフィニティ・プール』
4月5日(金)新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開
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