監督・脚本:石橋夕帆、主演:唐田えりか、共演:芋生悠で贈る映画『朝がくるとむなしくなる』が現在上映中です。
「たとえわたし一人いなくたって、世界は回っていく」と人生に諦めを感じている一人の女性が、疎遠になっていた元同級生との偶然の再会をきっかけに、自分らしさを取り戻していく再生の物語。日常の中で積み重なる小さな幸せと、大人になってから少しずつ育まれる友情に、静かに胸を打たれる本作。日々心を消耗して生きる人々にそっと寄り添う、爽やかな感動作となっています。
石橋夕帆監督と主演の唐田えりかさんにお話を伺いました。
──本作とても楽しく拝見させていただきました。爽やかで優しいお話ですが、唐田さんは完成した作品をご覧になった時にどの様な感想を持ちましたか?
唐田:脚本を読ませていただいた時と同じで、あたたかい空気が流れている作品だなと思いました。
石橋:自分で監督しといてあれなのですが、めちゃくちゃ好きな映画です(笑)。この作品は見る時のコンディションというか、元気さの度合いによっても感じ方が変わりそうだなとも思っていて。何度観ても発見がありそうだなと思います。
唐田:芋ちゃんとのシーンが私自身も本当に好きで、もう感覚で体に残っているので、観るだけで現場での心情がすぐに思い出せるほどです。芋ちゃんとはもともとお友達だったので、こうして共演出来たことが本当に嬉しかったですし、現場に入る前は少し気恥ずかしさもあるかなと思ったのですが、そんなこともなく、すんなりお芝居に入ることが出来ました。
石橋:おふたりとも、良い意味でいつものままの状態でいてくださって。本当に自然に、肩肘張らずに現場に立ってくださったのがまず嬉しかったです。
──2人で居酒屋で飲んだ後に、加奈子の実家で飲み直すシーンが本当に素敵ですよね。希が何か悩みを言ったわけではないのに、加奈子が「大丈夫?」と聞くシーンが胸に刺さりました。
石橋:普段抱えている悩みを人に打ち明けるって、なかなか日常生活の中で出来ることではないと思うんですね。希のようにモヤモヤとした感情を抱えている人が身近な誰かに「大丈夫」と存在を肯定してもらうことが、この映画で描きたかったことの一つでもあります。「大丈夫」という言葉ってある種、暴力的でもあると思っていて。「大丈夫?」って聞かれたら「はい、大丈夫です」って言うしかないよなって。でも、相手を心配してるがゆえに出てくる言葉でもあるから、その細やかなニュアンスをふたりの素晴らしい演技で体現していただけて良かったです。あとは、加奈子の部屋という環境ですね。“加奈子がそこで生きてきた”ということが滲み出てる空間だからこそ、希も気持ちを言えたのかなと。
唐田:家が時間を重ねていて、部屋自体が“生きている”というか、リアルさをすごく感じました。あのシーンは、当初脚本ではああいうテンションではなくて、さらっと終わるはずだったんです。でも、私も芋ちゃんも希と加奈子であると同時に、自分たち自身でもある感じだったので、芋ちゃんから「大丈夫?」という言葉をもらった時に感極まるものがありました。自然に感情があふれたシーンでもあるので、すごく思い出深いです。
──唐田さんが涙をこぼされるシーンは本当に感情豊かですよね。
唐田:私はめちゃめちゃ不器用なので、涙を全然コントロール出来なくて。頭で考えちゃうと出来なくなっちゃうので、あのシーンの撮影ではスタッフの皆さんも出来るだけ部屋から出てくれて、芋ちゃんとの覚悟で挑んでいました。
石橋:現場で芝居をするとき、雑念を取り払えるような環境作りはしたいなとは思っていて。撮影に入る前に唐田さんと「希はこういうことを考えていて」「ここではこういう感情で」というお話がしっかり出来たので、いざシーンに入る前には感情にブレーキがかからないように、私からはあまりあれこれ伝えすぎないように気をつけました。
──このシーンもですが、全体的にセリフがとても自然で「あるある」と思うことばかりだったのですが、監督はこうしたセリフをどの様に生み出していらっしゃるんでしょうか?普段からメモをしたりしていますか?
石橋:私は“日常あるある”が好きなので、監督や脚本を担当する時には積極的に取り入れたいなと思っています。たとえば普段街中を歩いていたり、電車に乗っていたり、喫茶店にいる時、聞いているわけじゃないのに他人の言葉がスッと耳に入ってくることってありますよね。そんな感じの、街中にあふれてそうな言葉選びを心がけてます。
唐田:分かります。イヤホンをつけていても、なぜか言葉が飛び込んでくる瞬間ってありますよね(笑)。監督の書かれたセリフは、言葉を発しながら何の違和感もないというか、「しっかり覚えなきゃ」と緊張した記憶がほとんど無いんです。
石橋:ありがとうございます。どういう言い回しが俳優さんの話し方や音感としてハマるかなということは脚本を書きながら考えているので、ストーリー、お芝居と合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
──本作にはモヤモヤした感情や、人のイライラした感情も描かれていますが、お2人が日常でちょっとした理不尽さを感じた時どうしていますか?
唐田:言葉の使い方が絶対に間違っていると思うのですが、「どうせ一期一会だし」と思うようにしています(笑)。
石橋:いいですね、その考え方!コンビニで疲弊している希にも教えてあげたい(笑)。私は精神的なストレスというよりも、撮影が終わったり、一つの仕事が終わって燃え尽きた時にはとにかく漫画を爆買いして読みまくります。
──素敵なお言葉をありがとうございます。そしてこの映画こそが、たくさんの人のモヤモヤを晴らしてくれるのではないかなと思います。
唐田:優しくて素敵な言葉がたくさん詰まっていて、背中をそっと押してくれるような作品だと思います。日常に疲れた人には特に色々なことを感じていただけると思うので、ぜひ映画館で味わってください。
石橋:希が抱えているような弱さや不器用さは決して悪いことではないですし、そんな自分を肯定してくれる相手がいたら、それはとても素敵な事で。朝が来ることがつらい時が、誰にでもあると思います。この作品を見て、少しでも良い明日を期待出来るような、そんな作品になっていたら嬉しいです。
──今日は楽しいお話をありがとうございました!
撮影:たむらとも
【STORY】会社を辞め、コンビニでアルバイトとして働く希。慣れない接客業に戸惑い、店長の冗談をうまくかわせない。実家から送られてきた大量の野菜をよそに、コンビニ弁当とカップ麺で食事を済ませる。母親には退社したことをいまだ伝えられていない。何も起こらない毎日。むなしい思いで、今日も朝を迎える。
そんなある日、中学時代のクラスメイトだった加奈子がバイト先にやって来る。思わぬ再会に、最初はぎこちなく振る舞う希であったが、何度か顔をあわせるうちに加奈子と距離を縮めていく。加奈子との偶然の再会で、希の日常が少しずつ動き出していく…。
唐田えりか
芋生悠 石橋和磨 安倍乙 中山雄斗 石本径代
森田ガンツ 太志 佐々木伶 小野塚渉悟 宮崎太一 矢柴俊博
監督・脚本:石橋夕帆
主題歌:「PHEW」ステエションズ 作詞・作曲:CHAN
プロデューサー:田中佐知彦|ラインプロデューサー:仙田麻子|撮影:平野礼|照明:本間光平|録音:柳田耕佑
美術:藤本楓 畠智哉|スタイリスト:小宮山芽以|ヘアメイク:赤井瑞希|助監督:内田知樹|編集:小笠原風
企画協力:直井卓俊|音楽:CHAN(ステエションズ)|スチール:岩澤高雄|ビジュアルデザイン:鈴木美結
配給・宣伝:イーチタイム|配給協力:FLICKK|宣伝協力:平井万里子|製作:Ippo
2022年/日本/カラー/76分/アメリカンビスタ/5.1ch
【公式サイト】 www.asamuna.com
【公式X】 https://twitter.com/asamuna1201
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