“魔女”をテーマにした初長編のホラー映画『ウィッチ』で、絶大な支持を集めたロバート・エガース監督。ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーを主演に迎えた最新作『ライトハウス』が7月9日より公開となる。日本公開にあたり、監督がZOOMインタビューに応じてくれた。
エガース監督の2作品には共通する部分がある。『ウィッチ』では、村を追われた敬虔なキリスト教信者の一家が、孤立した生活のなかで数々の不幸に見舞われ、狂気に陥っていく。本作『ライトハウス』では、孤島での勤務についた2人の灯台守が、嵐によって島に閉じ込められ、狂気の淵に立たされる。2作続けて隔絶された状況下での狂気を描いている点について監督は、「予算の関係でロケーションをひとつにしなければならなかったという面もある」としつつも、「『鬼婆』(監督:新藤兼人)をはじめ、そういう題材の映画は沢山あるけれど、そういった状況下での狂気が“究極的な緊張感”を作り出すと思うんです」と明かす。
本作の実質的な主人公は、ロバート・パティンソン演じる新人の灯台守イーフレイムだ。初めて灯台守の仕事についたイーフレイムは、勤務初日からベテランのトーマス(ウィレム・デフォー)とそりが合わず衝突する。過酷な肉体労働、居心地の悪い共同生活。待望の勤務最終日がやって来るが、凄まじい嵐によって迎えの船が来ることはなかった。帰りたくても帰ることができない状況下。現実と幻想とが狂気によって入り混じり、観客も混沌とした世界に飲み込まれていく。
エガース監督「イーフレイムの心のなかで起こっていることを観ている人に経験してほしかったんです。まあ、よく分からない、ヘンな映画を作りたかったっていうだけなんだけれども(笑)。チャールズ・ディケンズの書く物語のような素晴らしいプロットの映画を観たいときもありますが、あるときには、『ロスト・ハイウェイ』(監督:デヴィッド・リンチ)のような不思議な映画を観たいときもありますよね。なにが起こっているのか分からないけど楽しい、というような。ディケンズとはレベルが違うかも知れないけども、そういう“ヘンな映画”が作りたかったのです」
頑固で粗野な老いたベテラン トーマスと、同じく頑固だがナイーブで影のある若者イーフレイム。彼らを演じるウィレム・デフォーとロバート・パティンソンはあまりにもぴったりな配役だ。映画全編にわたってほぼこの2人しか登場せず、役柄と同じく俳優としての先輩・後輩にあたる2人の演技合戦も大きな見どころとなっている。
エガース監督「実はあて書きはしていないんですよ。彼らを想定せずに脚本を書いていました。ですが脚本を書き上げてすぐに「あの2人がいいな」と思ったんですね。出演打診をしてOKがきたときに、脚本を少し練り直しました。ウィレムの役柄はわりとあのままなんだけど、ロブ(ロバート・パティンソン)の役のほうは彼の強みを加味しました。トーマスは分かりやすいキャラクターだけど、イーフレイムのほうは謎が多いんですよね。ロブから「ここはいいけどここはうまくいっていない」というフィードバックがあったので、それを反映させて練り上げていきました」
トーマスとイーフレイムは対称的なキャラクターだが、演じる俳優2人も対称的な役作りをしていたことを監督は明かす。また、エガース監督の行ったあまりにも細かい“演技のリクエスト”についても教えてくれた。
エガース監督「ふたりともまったく違うタイプの役者で、それぞれ違うやり方で役に入っていましたね。ウィレム演じるトーマスは独特のアクセントを持つ役柄なので、そこにフォーカスしてもらっています。ウィレムはもともと歯並びがよくないのですが、下の歯は偽の歯をつけて、より歯並びを悪くしていますね。あとは灯台守についてのドキュメンタリーを観てもらったりしたんですが、ウィレムはあまり私に色んなことを言われたがらなかったので、私から何かを言うのはそれくらいにしておきました。
でもロブのほうは私からのアドバイスをすごく欲しがっていましたね。「あれはどうなの?」「これはどうなの?」とたくさん質問をしてきた。ですが私は「どれでもいいよ、自分で選んでください」とも言いました。この役柄の内面的なものというのは、このストーリーではあまり私が考えなくてもいいと思ったんですね。内面的な動きというのはロブに任せるけれど、こちらからテクニカルな部分のアドバイスはさせてくれと言いました。本当にうざったいくらいに細かく、「そこの3番目の言葉は10%くらい遅くして」とか、「その言葉の最後の部分はこのくらいピッチを上げて」とか、そういうリクエストをしました。そういうのって本来役者はすごく嫌だと思うんですけど、ロブは舞台出身ということもあって、細かいリクエストがうまく機能していました。ロブは、初期の方のテイクではかなり爆発的にやるタイプだったんですね。それは私の求めるものと違うことが多かったので、うまくいくまで更に15テイク重ねることもありました。ロバートの本能的に感じていることのほうが、私の想定していたものよりもいいということもあったけれど。
ふたりとも共通していたのは、“シーンのためなら自分を全部捧げてなんでもやる”、というところですね。そういう面ではとても満足の行く撮影でした。現場自体はとても大変な撮影でしたけどね」
本作では、サイレント映画の時代を思わせるほぼ正方形のスタンダードサイズのスクリーン、モノクロの映像が用いられているのも特徴的だ。単に古い映画の雰囲気を付加するためかと思いきや、この映画においてこのスタイルがあまりにうまく機能していることに驚かされる。通常の映画に比べて極端に“狭く”感じるスクリーンサイズは、孤島での閉塞感を観客にも追体験させ、モノクロの映像は蠱惑的な灯台の“灯り”を最大限に強調し、より強烈に感じさせるのだ。
エガース監督「そうなんです。スタンダードサイズの利点について付け加えるなら、閉所恐怖的な感じに加えて、クローズアップが活きるという面もあります。それから垂直の建物、灯台の高さを感じさせるのにも有効なんです。写真を撮るとき、皆さんはあまりアスペクト比を気にしないですよね。どんなアスペクト比で撮ってもいいわけで。そういう考え方をすると、スタンダードサイズで撮ることにもあまり制限は感じませんでした。もっとスペースがほしいと思うことはあったかな……いや、無かったかもしれない。逆に、2:1で撮ったときに、「横のスペースが余計だな」と思ったことがあるくらいですね。
モノクロの映像については、非常に古いアンティークのレンズなどを使ったことで、より強い光が必要になったんですね。露出をしっかり出すために照明がもっと必要だった。それが唯一の制限だったかもしれません。特に内部を撮るときに、たとえばランタンを間に置いてテーブルに座って――というときに、ものすごく明るいんですよ。ハロゲンランプで600ワットくらいなので、お互いの、役者の顔が見えないくらい明るかった。それがちょっと制限にはなったけれど、他の面ではほとんど制限を感じなかった。この映画にはとても効果的な選択だったと思いますね」
エガース監督は、ホラー映画のオールタイム・ベスト3本を教えてもらう恒例企画「人生のホラー映画ベスト3」にも参加してくれた。こちらは後日ご紹介する。
『ライトハウス』
7/9(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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