かつてない盛り上がりを見せる、ラグビーのワールドカップ(以下「W杯」)。日本代表がベスト8入りする歴史的快挙を成し遂げ、ラグビーファンだけでなく、今まで関心のなかった層にまで大会を歓迎するムードが広がっている。
各自治体もお祭りムードだ。今回、ラグビーの観戦を目的にした訪日外国人客は、40万人。W杯をインバウンドの絶好のチャンスととらえ、観戦以外にも、観光・食・温泉・文化体験など日本のさまざまな側面を楽しんでもらおうと、開催地をはじめ、全国でさまざまなイベントが催されている。
そんな中、スポンサーの権利保護や安全対策などを理由に、飲食物の持ち込みが原則禁止だったことで、食べ物やソフトドリンクが早々と売り切れ、「食べものがない」「お酒しかない」など開幕戦から苦情が殺到。組織委員会が急きょ一部方針を転換するなど、物議を醸したことは記憶に新しい。
ホスト国として、文化が違う人たちが大勢集まる場だからこそ、快適観戦環境を提供するための“おもてなし”も欠かせないだろう。
たばこもその一つだ。喫煙ルールは国によってずいぶん違う。特に参加国が多いヨーロッパでは、屋内は禁煙でも、屋外はOKというところも多い。そういった人たちが戸惑うことがないような仕組みづくりをはじめ、分煙ややポイ捨て禁止など、吸う人と吸わない人がどちらも気持ちよく観戦できるための最大限の配慮が必要とされる。
日本最古のラグビー専用スタジアムであり、“聖地”として知られる花園ラグビー場でも、W杯のために行った大改修と併せて、ラグビーグラウンドを模したユニークな広い喫煙所を設置。国内外の喫煙ニーズに応えた形だ。
実際、W杯をきっかけに開催地の喫煙マナーはどう変化しているのだろうか。東京(8試合)・横浜(7試合)に次いで3番目に試合数の多い、5試合が開催された大分でその様子を取材した。
大分での初戦、ニュージーランドVSカナダの観戦チケットを幸運にもゲットできた我々は、辛うじて予約できた朝6時の飛行機で東京から大分空港へ。
大分駅で私たちを出迎えてくれたのは、ラグビー選手をかたどったねぶた風の大型オブジェ「トライ」。
別府・湯布院といった有名温泉地を抱える大分県は、福岡県についで2番目にインバウンドが多い地域だったが、もともとは韓国や台湾、といったアジアからの観光客がメイン。それが今回のW杯ではヨーロッパやオーストラリアからの人が4倍に増加し、大変なにぎわいを見せている。
この変化に対して、例えば別府市はタトゥーがあっても入浴可能な別府温泉100施設を公開するなど、ワールドカップに向け、外国人観光客と地元の人々が気持ちよく交流できる独自の環境づくりに力を入れてきた。
別府市が作成した、タトゥーOKの温泉紹介。砂蒸し風呂で有名な“竹瓦温泉”や“別府海浜砂場”も入浴OK。
しかもあまり知られていないが、バリアフリーにも全国に先駆けて取り組んでおり、市営温泉や旅館でも、車いすで入浴できたりする。
喫煙関連では、コンビニ大手(ローソン、セブンイレブン、ファミリーマート、デイリーヤマザキ)が協力と提携し、受動喫煙防止に向け、県内253か所のコンビニ前の灰皿を撤去したというニュースが出たばかり。確かに、コンビニ出入り口近くに灰皿があるケースは多く、路上や駐車場にも面しているため、わりとダイレクトに煙をあびてしまうことも少なくない。
大分駅から電車でわずか15分の別府駅では、別府や湯布院を観光地として開発したことで地元では有名な“油屋熊八像”も、1年前から日本代表ユニフォーム姿でお出迎え。
空港からリムジンバスに乗り、最初に訪れたのは、大分駅周辺。コンビニを数か所回ってみると、すべてのコンビニではないが、たしかに「店舗敷地内での灰皿撤去」と書かれたポスターがドアのところに貼りだされている。
最初に訪れたセブン-イレブンにて、さっそく灰皿撤去のポスターを発見。すべてのコンビニに貼られているわけではなく、もともと灰皿を置いていたお店だけのようだ。
大分県民ならだれでも知ってるキャラクター“めじろん”を使うところに、県の本気度がうかがえる。あくまで“10月末までの期間限定”。11月以降は未定だ。
セブンのほか、ファミリーマートやローソンでも同様にめじろんポスターで灰皿撤去がPRされていた。
さらに大分駅周辺をぐるっとまわってみる。街中では至る所に「ここは禁煙・ポイ捨て禁止エリア」「指定喫煙スポット」を英語で示した看板があり、インバウンド対応がしっかりなされている印象。
指定の喫煙場所も英語表記ではないものの、至る所に設置されている。大分駅はもちろんのこと、飲食店がひしめくネオン街・都町(みやこまち)でも指定場所以外での路上喫煙は禁止となっている。
喫煙対策をひととおりチェックしたところで、そのほかのインバウンド対応を確認。大分駅から徒歩5分ほどにある若草公園のそばにマップを発見した。駅周辺には、このようなマップ付きの石のオブジェが点在し、現在地を案内してくれているのだが、実はここにも密かにインバウンド対応が。
マップ自体は日本語と英語で表示されており、QRコードを読み取ると、英語・ハングル・中国語・台湾語で主要な観光地や宿泊施設の案内を読むことができる。かなり力の入った作りで、外国人観光客が利用しやすいように、もっと目立っていいくらいだ。
ようやく夕方になり、いよいよスタジアム入り。会場の“昭和電工ドーム大分”(通称:ビッグアイ)は2002年の日韓ワールドカップに合わせて造られたもので、外周は約800m、延床面積は9.2ヘクタールで、可動席含めて4万人を収容できる。
小雨の中、スタジアムへ。開閉式屋根のため、試合自体は天候に左右されずに観戦することができる。
延床面積では、日本戦開催の東京スタジアムよりも大きいのだが、設置されている喫煙所は意外にも東側と南側の2か所のみ。
実際の喫煙スペースは街中にあるものよりは広いが、そこまで大きいというほどでもなく、数十人が入れる程度。試合前は混んだ様子はなく、この時は手狭な感じは全くしなかった。外から見えにくく、かつ空気の循環は良いように考慮された囲いが設けられている。
喫煙所は1本通路を挟んだ外側にあるため、煙はまったく気にならない。
しかし試合が始まり、ハーフタイムになると、状況は一転。どっと人が押し寄せ、またたく間に喫煙所はぎゅうぎゅう。外に行列ができるほどだ。特に、灰の出ないメリットからか、加熱式たばこを吸う人は、若干外にはみ出している人も見受けられた。警備員はその状況を見て「こりゃ狭いな……」と一言。
喫煙ニーズを低めに見積もってしまったのか、設置したスペースが小さすぎたため、結果的にマナー違反も見受けられる事態に……。2020年のオリンピックでは分煙どころか、すべての競技会場敷地内について、加熱式たばこを含めて完全禁煙とする「たばこのないオリンピック」にするとされている。しかし、実際問題としてタバコはお酒と同様の嗜好品。制限をかけすぎてストレスが噴出した結果、隠れて吸う、ごみが散らかるといったマナー違反者が現れ、会場周辺が荒れることがないといいのだが……。
ちなみに、会場にはお酒しか売っていないイメージだったが、ソフトドリンクもちゃんとあった。ビールは強気の1000円でした。
撮影:内海裕之
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