人生を舞え。ぶざまにかっこよく。
さえない中年男性たちがシンクロナイズドスイミングで人生を再スタートさせる、スウェーデンの実話をもとにした映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』が大ヒット上映中です。
キラキラしてない、良い体でも無い(笑)、そんなおじさん達が一生懸命奮闘する姿は感動必至。決して押し付けがましくない人生賛歌な素晴らしい映画に仕上がっています。本作を「私がときめく“ウォーターボーイズ”はこっち!」と絶賛しているのが、女装家・執筆家のブルボンヌさん。大学生時代にゲイ雑誌の編集に携わり、現在はバー経営や、様々なメディアで活躍されている人生経験豊富なブルボンヌさんに映画の見所を教えていただきました。
――映画拝見しましたが、すごく楽しくて。感動しました。ブルボンヌさんが本作でお好きなポイントはどんな所ですか?
ブルボンヌ:スポ根ドラマ的な、勝利に向かって頑張っていく王道の展開は誰しもが感動出来るポイントだと思うんだけど、それ以外にも哲学的な言葉や素敵な演出がたくさんあって、フランス映画らしいエッセンスも素晴らしいの! 難解な単館系映画は苦手って人でも、深みのある小洒落た作品が好きな人も、どちらも楽しめそうなのがこの映画の見事なところだと思うわ。
――確かに、両立している所がすごいですよね!
ブルボンヌ:あとはジェンダー表現の面白み。「ユルい体型のおっさん達がシンクロをやる」って設定が面白いのって、「今まで女がやってきたことを、男がやるのは恥ずかしい、笑える」って思ってるから。女がパンツスーツを着るのはカッコいいのに、逆はこっけいな扱いになるのって、男に近づくのがかっこいいって発想がベースにある。でもこの映画では、不器用だし無様に見えるおっさん達が、最後には輝いてカッコいいシンクロ姿を見せてくれる。イケメンの若い男の子たちがキラキラボディで成功するわけじゃないから、余計に心に刺さるのよね。おじさん一人一人のキャラクターの描き方も、皆さんやけにリアルだったのにも驚きました。
――本当にリアルですよね。私は特に最近元気の無い方には刺さりまくるなと、感じました。
ブルボンヌ:そうそう、今は男が弱っちゃってる時代だなと感じている人って多いと思うんですよ。バブル期には「俺はこんなに立派な地位だ」とか「良い車やプレゼントが買えるんだぞ」っていう、分かりやすい男性の自信の証があった。それって実は薄っぺらいもので、そんなのに頼る必要も無いんだけど、オトコ性ってベタなものにすがりたくなるのよ。そんな証が今はどんどん無くなって、どういう風に自分に自信を持っていいのか見失っている人が増えた。この映画の中でも、仕事や家庭、それぞれの事情で弱ってる男達が出てきて、それををビシバシ鍛えて新しい価値観で自信を取り戻させるのはキッツい女性たちっていう構図も、時代を反映してるわよね。
――ビシバシ、思い切りやられていましたよね。
ブルボンヌ:女性コーチがおっさんたちに浴びせる罵詈雑言、完全にアウトなレベルのモラハラでしょ。でもその車椅子のコーチに対しておっさんがする悪ノリ仕返しもヤバすぎ。最近のネットニュースみたいに、その部分だけ切り取られたら、どっちサイドも炎上必至なんだけど、劇中の彼らはそれくらいの覚悟と信頼関係があって成り立っているのよね。こういう、コンプライアンスに縛られて本音も伝えづらくなってる現実世界に物申してくれるのも、映画作品らしいありがたい表現だなと思いました。経済でも弱って、伸び伸びした表現すらも封印されてって、いろいろ元気なくしてるおっさん世代の方も多いと思うけど、考え方、やり方次第でいくらでも世界は違って見えるようになるもの。まさに、アンタただ沈むの?それとも楽しく泳ぐの?ってタイトル通り。この映画は、弱った皆さんにとっての愛ある鬼コーチ!
――最近元気の無い方、『シンク・オア・スイム』を観ましょう! ところで、映画の登場人物の様に経験豊富なブルボンヌさんですが、これまでの人生を振り返って転機ってどんな時でしたか?
ブルボンヌ:私は年男…年オネエ?な亥年の48歳なんだけど、時代的にも、田舎ではゲイだって周りに打ち明ける事も出来なかったのね。思春期に同級生の男子を好きになって自分がそうだって気付いたけど、周りに拒絶されるのが怖くて。大学で上京した時に一気に花開いたというか。ゲイなんて人に言えないと思っていた岐阜のオタク少年だったのが、同じ仲間に会えたり、クラブやバーの盛り場を知って、「ゲイでいることって、オネエでいることって楽しいじゃん!」って思えたの。それまで世の中の風潮に何となく思わされていた「ゲイってダメなこと」ってことよりも、「これでいい!」と実体験から感じ始めたことが、まず一つの転機ですね。
――素敵です…!
ブルボンヌ:「こうじゃなきゃダメ」って縛りに苦しめられる人って多いと思うのよ。ゲイだけじゃなくて、「お母さんがそんなこと」とか「男たるもの弱音を吐くな」とか。みんなで高めた理想像からの引き算で自分を過小評価しちゃうのね。
――色々な環境の方に当てはまる事ですよね。
ブルボンヌ:2番目の転機は、女装です。一般の人があまり知らない事実として、女装家やドラァグクイーンなんて言われるゲイベースの女装は「普段は男性ゲイとして生活してる人のパートタイムの変身表現」ってこと。そしてゲイ業界は男が好きなだけに、筋肉やヒゲや短髪などの男性性賛美が圧倒的。つまり、女装ってのはゲイの中での非モテ行為なの。笑ってもらえるけど勃ててはもらえない、ちょっと女芸人さん的な立ち位置。自分も楽しいし周りも喜んでくれるけど、演れば演るほどモテなくなっていく。モテないってやっぱりしんどいんですよ。私もスキモノなので、初めてのお相手にはなるべく女装だってバレないように必死でしたね。でもそのうち、女装仕事を知っても気にせず好きでいてくれる人も少しはいるって分かった。「女装してるとか無理」って思うような人とは、隠して付き合ったとしてもその先うまくいかないんだから、「早々にふるいにかけられて良かったわ」くらいに強がって思えるようになりました。ゲイで女装な自分に納得していこうと。
――それもやはり「こうあるべき」という固定観念からの脱却なのかもしれませんね。
ブルボンヌ:「ガジェット通信」の読者さんにはオタクの方も多いかしら、と思ってるんですけど、オタクの方って他者とのコミュニケーションが苦手な人も多いじゃない? 上手に自分の気持ちを伝えられないけど、好きなことにはとことん想いを注ぐというか。この映画は、そんな不器用さを愛ある目線で包んでくれてると思うの。
――ブルボンヌさん、実は相当なガジェットオタクとのことですが!
ブルボンヌ:そうなのよ~。私は日本で3番目くらいのゲイ向けパソコン通信ネットを、シスオペっていんですけど設立運営してたんです。そこで目立ったことで、当時『バディ』というゲイ雑誌に大学生エディターとして携わらせてもらったのが始まり。DOS/Vパソコンも自作しまくってたし、HP200LXとか一通り手出してたんでガジェットオタクの古参だと思います。こういう風貌だと、女子っぽいスキルを期待されてお料理やファッションの事を聞かれがちなんだけど、実はそんなことより、ゲームとかガジェットの話がしたい人なの!最近はOsmo Pocketを買ってジンバルが女装の顔面も認識して追っかけてくれるかを試してるわ(笑)。あとXBOX ONEやPS4にくわえてXやPROも買い足してるガチオタよ!誰かそっちの仕事も呼んで!
――パソ通やDOS/Vなど、懐かしい!と思った、読者さんも多いと思います! 今日は大変楽しいお話をどうもありがとうございました!
ブルボンヌ/女装パフォーマー
大学在学中の90年代初頭からゲイ向けのネット運営、ゲイ雑誌主幹編集、女装パフォーマンス集団主宰を経て、新宿2丁目のセクシュアリティMIXバー『Campy!bar』グループをプロデュース。TV・ラジオでのMCや連載・講演、全国のプライドイベントなどでLGBTや男女問題をテーマに発信中。
※11月リニューアルオープンの渋谷PARCO内に、ブルボンヌさんがプロデュースする新宿2丁目の人気バー『Campy!bar』の3号店がオープン!
ブルボンヌ (@bourbonne_campy)
https://twitter.com/bourbonne_campy [リンク]
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』大ヒット上映中!
http://sinkorswim.jp
(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
―― 面白い未来、探求メディア 『ガジェット通信(GetNews)』