誰にも真似できない独特のコメディセンスで数々の作品を生み出し、熱狂的なファンを獲得してきたコメディの鬼才・三木聡監督の約5年ぶりの最新作『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』がいよいよ公開となります。
本作は、”声帯ドーピング”というオキテ破りの方法によって”驚異の歌声”をもつ世界的ロックスター・シン(阿部サダヲ)と何事にも逃げ腰で、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)が、”声帯ドーピング”のやりすぎで崩壊寸前となった、シンの最後の歌声をめぐって、謎の組織から追われる様をハイテンションで描くロック・コメディ。”声帯ドーピング”なる不思議な単語が出ているが、本作の脚本を担当したのも三木聡監督。一体、三木監督とはどのような人物なのでしょうか?
■「ダウンタウンのごっつええ感じ」、「タモリ倶楽部」、「笑う犬の生活」……三木聡監督は記憶に残るあのTV番組を手がけてきた放送作家だった!
映画監督の前は、放送作家として活躍していた三木聡監督。キャリアはなんと大学在学中から、手がけた番組は「ダウンタウンのごっつええ感じ」「タモリ倶楽部」「笑う犬の生活」「トリビアの泉」「ヨルタモリ」など、どれも記憶に残る錚々たるTVバラエティ番組。多くのお茶の間の心を掴んできた三木監督だが、放送作家としてだけでなく大竹まこと、きたろう、斉木しげるからなるコントユニット・シティーボーイズのライブの作・演出を担当するなど、活動は広いのです。そして2005年以降『イン・ザ・プール』を皮切りに『亀は意外と速く泳ぐ』『転々』『インスタント沼』などの長編映画、深夜帯の放送にも関わらず高い人気を得たドラマ「時効警察」シリーズなどを手がけてきた、まさにコメディのプロであるといえるでしょう。
■なぜこんなにもやみつきになってしまうファンが続出!? 映画評論家・松崎健夫さんが語る三木聡監督の魅力
三木聡監督作品といえば、ファンの間では”ユル系”や”脱力系コメディ”と称され愛されています。キャラクターの衣装や小道具、独特の会話のテンポやセリフに隠された小ネタなど、とにかく情報量がたっぷり。しかし不思議なことに一度観てしまうと、やみつきになってしまうファンが続出…なぜこんなにも三木監督作品はやみつきになってしまうのか!? 映画評論家の松崎健夫さんに三木監督の魅力について伺ってみました。
Q:松崎さんの考える三木聡監督の魅力とはずばり、どんなところでしょうか?
ときに人生哲学をも感じさせる台詞の応酬や、その台詞に仕掛けられた小ネタやギャグ。そして、独特の間によって生まれるリズムだと思います。観客はそれらを「少しへんだぞ」と感じつつも、「どこか心地よい」とも感じる。秒単位ではなく、コマ単位にまでこだわった微妙なバランスがポイントです。さらには、美術にも小ネタやギャグが仕掛けられていて、何度も繰り返し観たくなるような楽しみがあるんです。
Q:三木監督にとって本作は「集大成であり、次の段階に行くにあたって様々な新しいことを体験した映画」だそうですが、この映画で新たに松崎さんが発見された三木監督の魅力はありますか?
三木監督の作品は、どちらかというとミニマムな世界を描いてきました。例えば、『亀は意外と速く泳ぐ』(05)や『転々』(07)では、主人公の日常を中心にしながら、その周囲で巻き起こる小さな出来事を綴っていますよね。それを、少し斜めからの視点で描く。ところが今作では、主人公の精神的な成長にあわせて、舞台となる場所も出来事もどんどん広がってゆくんです。描かれる<世界>の広がりは、これまでにない新しい魅力になっています。
◆Q:松崎さん的『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』の見所を教えてください。
吉岡里帆さんの<声>に対する演技アプローチです。彼女は蚊の鳴くような小さな声で喋るため、聞き取るのも困難。ところが物語が進むにつれて、彼女の<声>は厚みを帯びてゆきます。<声>に厚みが生まれることで、歌声に対する声量も増してゆくのですが、”声が大きくなる”ということとは少し異なるのがポイント。映画というのは、物語の順番通りに撮影するわけではありません。ランダムに撮影される現場で、吉岡さんはどのように<声>をコントロールし、違和感なく自然に<声>の厚みへ対して徐々に変化を与えていったのか?その役作りは驚嘆に値するので、ぜひ注目して頂きたいですね。
(映画評論家・松崎健夫)
三木監督も自身の集大成であるという映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』は10月12日(金)に公開。三木監督のファンも、三木監督作品初心者の人も、映画館で観ない理由を探すな!!
(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
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