「オリーブの木に食べさせていただいて、この島で生きている」
香川県・小豆島(しょうどしま)でオリーブ染め工房を主催する、高木加奈子さんの言葉だ。
染色のためだけにオリーブの木を切るようなことはしたくない、という。そのため、オリーブ剪定後の枝を捨てずに煮出し、布を染める。煮た後の枝葉も捨てず、土に還して栄養にする。
捨てない。最後まで生かしきる。小豆島では、今まで捨てられてきたものを活用し、最後は土に還す、いわゆる循環型農業が営まれている。そのおかげだろうか。小豆島を旅していると、なんだか、自然とのつながりを思い出せる気がして落ち着くのだ。そんな旅のようすを、今回はご紹介したい。
「どうやったら食べてくれよるかな」オリーブ牛誕生物語
オリーブオイルをしぼった後は、ペースト状のオリーブ果実が残る。それを捨てず、肉牛のエサとして活用することで、オレイン酸たっぷりのブランド和牛“オリーブ牛”を作り出したのが、小豆島オリーブ牛研究会会長・石井正樹さんだ。
オリーブ果実を食べて育った牛なら、オリーブオイルのようにあっさりした脂で、香りも良い。だが、オイルをしぼった後のオリーブをそのまま与えるだけでは、牛たちが食べてくれない。
「2日経っても、3日経っても、食べてくれんわさ。どうしたら食べてくれよるかな、思て」
石井さんは悩んだ。そんな中、近所のおばあさんが渋柿を干しているのを見て、ひらめいた。ペースト状のオリーブ果実を乾燥させれば、オリーブの甘みが引き出せるのではないか?
オリーブを煎ると、カラメルのような香りがつき、牛たちが餌箱をなめつくす勢いで食べるようになった。
「(今までは)ベロで、ピュッとよけよったものを、(煎ると)パッと食いついてくれよって……」
料理:島宿 真里(http://www.mari.co.jp/)
こうして育ったオリーブ牛は、オリーブの抗酸化作用を引き継いでいる。香川県の調査によると、和牛平均を100とした場合、オリーブ牛のカルノシン(抗酸化成分)含有量は2倍、グルタミン酸(旨味成分)は1.5倍となっていたそうだ。
かつて産業廃棄物だった搾油後のオリーブペーストが、今では、おいしい牛のごはん。オリーブを食べた牛のふんも、オリーブ畑に還元され、また次のオリーブを育てる栄養になる。巡る命に思いを馳せて、オリーブ牛を味わうのは、格別の体験だった。
オリーブ牛公式サイト:
http://www.olive-wagyu.com[リンク]
島の色を染める。オリーブを原料とした草木染め、オリーブ染め
オリーブオイルやオリーブ牛を産む果実を育てるためには、オリーブの剪定が必要になる。切り落とされたオリーブの枝を、捨てずに活用することはできないか。そんな想いが産んだのが、冒頭でご紹介した“オリーブ染め”だ。
染色法の違いで、同じオリーブの枝葉からこんなにも様々な色が引き出される。オリーブ染め考案者・高木加奈子さんは、この色を「島色」と呼び、「陽光」「春音」といった島の自然にちなむ名前をつけている。
そんなオリーブ染めの糸を、他の草木の色と組み合わせ、ひと針ひと針手縫いした、“オリーブ島てまり”。
オリーブ染めの衣服・糸・小物類・島てまりは、小豆島のショップ兼工房「木の花(このはな)」で購入できる他、通信販売も受け付けている。また、2017年11月26日(土)27日(日)には、オリーブ収穫祭の一環として、小豆島オリーブ公園内のハーブクラフトショップ「ミロス」にて、オリーブ染めの体験教室も行われる予定だ。
小豆島公式サイト/オリーブ収穫祭(染色教室詳細):
http://www.town.shodoshima.lg.jp/olive_station/oliveshuukakusai-h29.html[リンク]
オリーブ染め工房 木の花
http://www.olive-konohana.com/[リンク]
百年めぐる、オリーブのいのち
オリーブオイルにオリーブ染め、オリーブ牛。その他、小豆島では、オリーブ茶、オリーブシロップ、オリーブ化粧品、オリーブハマチ、観光オリーブ園、オリーブ豚など、様々な形でオリーブを活用し、その過程で出る家畜のふんや剪定後の枝葉を土に還すことで、またオリーブを育てている。
小豆島のオリーブは、もともと明治41年(1908年)日本政府の政策で栽培が開始されたものだ。日本の地にオリーブを根付かせるには、小豆島の人々の並々ならぬ努力があった。百年近い時が経ち、今では、何も無駄にせず生かしきるオリーブ加工技術を、世界随一の水準に高めている。
香川県高松市の中華料理店「北京」(http://pekin.co.jp/)でいただいた、オリーブ豚料理。料理人の方は、「生産者に会うと、料理の下準備をしていても、食材を無駄にしないようにしたいという気持ちになる」というお話をなさっていた。
生産者、小売業者、流通業者、料理人、そして食べる人。多くの人が関わって、一皿の料理ができる。
大地、オリーブの木、果実、オイル、その残りを家畜のエサにしたもの、そして、おいしいお肉。芽吹いたオリーブは、オイルからオリーブ牛までたくさんの食材を生み出し、やがて土に還り、そしてまた次の木が芽吹く力になる。
そうした自然の大きなつながりの中に自分もあるのだと思うと、おいしいものを、もっとおいしく感じる。巡り巡って命があるのだということを、小豆島で、思い出させてもらった気がした。
オリーブ豚:
http://www.sanchiku.gr.jp/whats/olive/pork/[リンク]
香川県観光協会公式サイト|小豆島:
https://www.my-kagawa.jp/shodoshima[リンク]
文・写真・イラスト:牧村朝子
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(執筆者: 牧村 朝子) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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