データとIT技術を使ってビジネスを変革させるDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)は、中小企業においても避けては通れない喫緊の課題です。
しかし、現代社会においては技術は日々進歩しており、また市場のニーズも大きく変化し続けています。
そのため、企業がDXで競争力を維持し、新しい市場ニーズに応え続けるためには、DXの最新トレンドや傾向に注目していなければなりません。
そこでこの記事では、2023年の主要なDXトレンドに焦点を当て、これらのトレンドが中小企業にどのような影響を及ぼすかを探ります。
AIと機械学習の進化
AI(人工知能)と機械学習は、近年大きく発展している分野です。
ビジネスへの影響はさらに大きくなり、これらの技術の恩恵はデータ分析、製品開発、顧客サービス、業務自動化など、あらゆるジャンルに広がっています。
特に、ChatGPTやMidjourneyをはじめとするAIツールが、近年のビジネスモデルを大きく変える可能性のあるテクノロジーとして注目を集めているのは周知のとおりです。
AIは、「大量のデータを素早く処理し、パターンを認識して具体的な行動を取る」という点に関しては、人間を遥かに超える能力を持っています。
こうしたAI特有の能力を使うことにより、我々はこれまでにない速度と精度で意思決定を行うことができるのです。
機械学習は、厳密にはAIの一部ですが、なかでも経験から学び、結果を改善する能力を持つものを指します。
そのため、機械学習はタスクの効率化や予測分析の向上などの面で大きな成果をあげることが可能な技術です。
このように、AIや機械学習は業務効率化をはじめ、様々な面でメリットがある有効な施策ですが、導入にあたってはいくつか越えなければならない課題があります。
- まとまった額の初期費用がかかる。
- 導入後も適切なデータの収集と管理体制の構築・維持が必須。
- AIや機械学習を使いこなせる専門的なスキルを持つ人材の確保が求められる。
これらの条件をクリアするのが困難な中小企業では、なかなか導入が進んでいないという実態があります。
しかし、それは導入が不可能であることを意味するものではありません。
例えば、中小企業がAIや機械学習を導入する際の、最初の一歩としては、手頃な価格のAIツールやサービスを活用することも考えられるでしょう。
クラウドベースのAIソリューションなら、初期コストを大幅に削減し、設定と管理の負担を軽減することができます。
また、外部企業とパートナーシップを結んで社内で不足している専門知識を補ったり、スタッフの教育システムを開発して社内AIチームを作ったりすることも検討するべきです。
いきなり大掛かりなAIや機械学習を導入することは難しくとも、可能な範囲で利活用したり、中長期的な視点で人材育成に着手したりすることは、これから先のビジネスシーンで中小企業が活躍していくために欠かせない重要な取り組みなのです。
クラウドネイティブ技術の普及
変化のペースが速いITテクノロジーの中で、アプリケーションを設計・構築・運用していく際には、ニーズに合わせた柔軟で迅速な開発が求められます。
そこで求められているのが、クラウドネイティブ技術であり、クラウドネイティブ・アプリケーションの開発です。
クラウドネイティブ技術とは、クラウド環境での利用を前提としたアプリケーションの設計と運用を指しています。
クラウドネイティブのアプリケーションを開発するということは、クラウドの特性を活かし、大規模で複雑なシステムを柔軟に管理することが可能な環境を設計することを意味しているのです。
クラウドネイティブ・アプリケーションは、従来のハードウェアに依存したシステムと比べて、次のようなメリットがあります。
- スケーラビリティ:クラウドネイティブ・アプリケーションは、「マイクロサービスアーキテクチャ」というパターンに基づいて構築されており、アプリケーションが独立した小さなサービスに分割されています。そのため、使用するサービスごとに需要に合わせた個別のスケールアップ、スケールダウンが可能です。
- 柔軟性と速度:「マイクロサービスアーキテクチャ」の仕組みにより、アプリケーションの更新や改善を柔軟かつ迅速に行うことができます。これにより、企業は市場の変化に迅速に対応し、競争力を維持することができます。
- 信頼性:クラウドネイティブ・アプリケーションの中には、障害が発生したコンポーネントを自動的に再起動または再配置する機能を持ったものもあります。そのため、障害が発生してもサービスを続行する能力が高く、ダウンタイムのリスクを低減し、ビジネスの継続性が保たれるため、ハードウェアに比べて信頼性が高まります。
一方で、クラウドネイティブへの移行は一定の技術的な課題を伴っています。
アプリケーションの再設計、スキルの開発、セキュリティの管理などには、高度で専門的なスキルが求められるのです。
これらの課題を克服するためには、外部の専門企業とパートナーシップを結ぶことで専門知識を得たり、クラウドサービスプロバイダから提供される教育プログラムを利用したりすることが有効でしょう。
サイバーセキュリティの強化
サイバー犯罪の脅威は、日毎に増しており、サイバーセキュリティの重要性は世界規模で高まっています。
サイバーセキュリティを強化し、企業の情報やデータを悪意ある攻撃から守るための戦略と技術を得ることは、企業がDX推進に取り組むには必須です。
中小企業がサイバーセキュリティを強化するためには、次のような戦略を取るのが良いでしょう。
- スタッフ教育:サイバーセキュリティは、従業員1人ひとりの行動に大きく依存します。定期的な教育とトレーニングを行い、従業員がフィッシング詐欺やマルウェアに対する警戒感を持つことが重要です。
- セキュリティソフトウェアの更新:最新のセキュリティソフトウェアは、新たな脅威に対する保護を提供します。そのため、全てのデバイスとシステムに最新のセキュリティアップデートが適用されていることを常に確認しなければなりません。
- 強固なパスワードポリシー:パスワードはデータ保護の最初の防衛線です。従業員に対しては、複雑で独自のパスワードを設定すること、そして定期的にパスワードを変更することを推奨するとともに、実効性を高めるための施策も検討する必要があります。
- 認証確認の工夫:パスワードだけでなく、もう1つの要素(SMSによるコード認証など)を必要とする二要素認証、あるいは同じ要素を2回用いる二段階認証など、認証方法を一手間加えたものとすることで、認証強度は高まります。また、万が一、パスワードが漏洩した場合でも、不正アクセスを防げる可能性が高まります。
- バックアップとリカバリープラン:データの喪失や不正アクセスが発生した場合でも、重要な情報を復元することができるように、定期的にデータのバックアップを行い、リカバリープランを策定しておくことが重要です。
これらの対策は、中小企業がサイバーセキュリティのリスクを管理し、ビジネスの継続性を保つための基本的なステップです。
企業の規模や業種によっては、さらなる対策が必要になる場合もあるかもしれません。
何よりも最も大切なのは、サイバーセキュリティが絶えず進化する分野であることを理解し、常に最新の脅威と対策について学び続ける意識を持つことに他なりません。
ハイブリッド勤務とリモートワーク
コロナ禍において、日本でも多くの企業が働き方を変化させてきました。特に、多くの企業で採用されたのが、リモートワーク環境の構築です。
しかし、コロナ禍が一定の落ち着きを見せ始めた2023年においては、再びリモートワークからオフィスへの出勤に働き方を戻している企業も少なくないでしょう。
しかし、経済産業省のDX推進策を例に取るまでもなく、リモートワークを含めた働き方の多様化は、DX推進を成功させる大きなカギの1つです。
リモートワークをコロナ禍の特別対応として考えてしまうのではなく、せっかく導入した環境を上手く利用していくという視点を持たなければなりません。
そこで今注目を集めているのが、オフィスへの出勤とリモートワークを組み合わせた「ハイブリッド勤務」という働き方です。
オフィスと家、あるいは他の場所での仕事を組み合わせた働き方は、従業員の働き方により高い柔軟性を提供することができるため、多様な人材を確保しやすくなります。
このトレンドは、中小企業にとっても大きなメリットをもたらします。
ただし、ハイブリッド勤務を成功させるには、次のような適切なテクノロジーと戦略の採用が不可欠です。
- テクノロジーの選択:リモートワークをサポートするためには、適切なテクノロジーが必要です。クラウドベースのプロダクティビティツール(Google Workspace、Microsoft 365など)、ビデオ会議ツール(Zoom、Microsoft Teamsなど)、プロジェクト管理ツール(Asana、Trelloなど)が一般的に利用されます。
- コミュニケーションの確保:リモートワークでは、直接的に顔を合わせてコミュニケーションを取ることが難しいため、明確で効果的なコミュニケーションが取れるかが重要となります。定期的なチームミーティングの開催、クリアなタスクの割り当て、期限の設定などを通じて、チームの生産性を維持します。
- セキュリティの確保:リモートワークでは、データの安全性が重要な課題です。VPN(Virtual Private Network/ネットワーク内に別のプライベートなネットワークを仮想的に作りだす仕組み)の利用、デバイスのセキュリティ強化、従業員のセキュリティ教育などを通じて、リモートでの作業に安全性をもたらします。
- ワークライフバランスの保持:特に在宅でのリモートワークの場合は、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。働きすぎを防ぐためにも、明確な勤務時間を設定し、従業員にきちんと休憩時間を取らせることも重要です。
これらの要素を考慮することで、中小企業でもリモートワークの導入と管理を成功させることができるでしょう。
持続可能なDXとエコテクノロジー
「持続可能なビジネス」というテーマは、DXにおいても重要な視点です。
企業が継続的に活動し、さらに進化し続けるためには、持続可能なDX推進施策を考えていかなければなりません。
特に現代社会では、SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるように「持続可能な社会の構築」に注目が集まっており、企業にも環境や人権への配慮など、社会に対する責任を果たすことが求められています。
持続可能なビジネスにおいては、環境に与える影響を最小限に抑えつつ、テクノロジーを活用して効率と生産性を向上させることが重要です。
こうしたエコテクノロジーの進化に対応するには、次のような点に注意してDXを進めるのが良いでしょう。
- エネルギー効率の向上:温室効果ガス削減が地球規模での課題である中、できる限りエネルギー効率を向上させることは、CSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)の点でも欠かすことができません。オンプレミスのサーバーよりも大幅にエネルギー効率が高いクラウドサービスの活用は、中小企業が環境に配慮しつつITインフラを最適化するためには欠かせない施策です。
- 電子廃棄物の削減:ハードウェアのライフサイクルを延ばすことで電子廃棄物を削減することも、重要なエコテクノロジー施策です。故障やアップグレード時に部分的な交換が可能で、全体を捨てる必要がないモジュラー設計のデバイスを使用するなどの施策は、その一例です。
- リモートワークと環境負荷:リモートワークやフレキシブルな働き方(ハイブリッド勤務)は、通勤による二酸化炭素排出量を削減するだけでなく、オフィスのエネルギー消費も減らします。
- サステナビリティの評価と報告:多くの組織は、持続可能な事業運営を評価するためのフレームワークを使用しています。こうしたフレームワークを活用することで、中小企業でも自社のサステナビリティの取り組みを客観的に評価し、進捗を確認・報告することができます。
持続可能なDXは、ビジネスの持続性と地球の持続性を同時に追求するための重要な手法です。
適切なテクノロジーと戦略を活用すれば、中小企業でも中長期にわたる持続可能なDXを進め、ビジネスの競争力をさらに高めることができるでしょう。
まとめ~2023年のDXへの視点
ITテクノロジーは常に進化し続け、DXを取り巻く環境も絶えず変化し続けています。特に2023年の今は、次の5つが主要なトピックになっています。
- AIと機械学習の進化
- クラウドネイティブ技術の普及
- サイバーセキュリティの強化
- ハイブリッド勤務とリモートワーク、
- 持続可能なDXとエコテクノロジー
それぞれのトレンドが中小企業のDX戦略に大きな影響を与え、DX戦略成功への道筋は、こうしたトレンドに対応できるか否かに左右されるといっても過言ではないでしょう。
しかし、これらのトレンドを単に追いかけるのではなく、企業の特性やニーズに応じた適切な方法で取り入れなければなんの意味もありません。
例えば、ある企業にとってはAIの導入が最優先事項かもしれませんが、別の企業ではリモートワークの環境を整備することが最も重要な課題となるかもしれないのです。
トレンド動向を成功に結びつけるためには、常に新しい技術や市場の動向を学び続け、変化に対する柔軟な思考を持つことが求められます。
これは、トレンドになっているDX施策についての知識を深め、新たなツールやサービスを試し、失敗から学んで改善するというプロセスも含んでいます。
DXとは単なるITテクノロジーを採用したデジタル化のことを指すのではなく、時に企業文化の変革をも求められるものです。
従業員が新しい技術を受け入れ、それを最大限に活用するためには、組織全体でデジタルファーストの思考を育て、継続的な学習と成長を奨励することが重要となるでしょう。
そのためにも、経営者やITリーダーは、DX推進をリードし、全社一丸となって取り組むことに責任を持ち、その役割をまっとうしなければなりません。
どれだけ優れた技術や膨大な情報があったとしても、結局はそれを扱う「人」次第で結果は大きく変わります。
本記事で紹介した要素なども十分に加味した上で、ぜひとも「今、そこにあるDX」を成功へと導いてください。
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