予備校講師でタレントの林修氏がテレビ番組「林先生が驚く初耳学!」で取り上げた新書「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」が話題を呼んでいる。
タイトルの通り日本の未来の年表について記したもので、その内容は大まかにいうと、日本が抱える「少子化」と「高齢化」という2つの問題の影響によって今後大幅に人口が減少し、さまざまな問題が生ずる…という内容。正直なところ、読んでいて明るい気持ちになれる書籍ではないのだが、今後、日本に住む誰もが対峙しなければならない問題なので、全日本人必読といっても言い過ぎではない書籍だ。
ところで、書籍に書かれている「少子化」「高齢化」に伴う諸問題は、この書籍ではじめて明るみになったというわけではない。以前からこうした問題は検討され、完全には解決できないまでも、問題を軽減しようと対応してきた人たちがいる。そして、問題の解決手法の中には、VR/ARを手法として取り入れているものもある。
そこでこの記事では、日本の未来に待ち受けている問題について、VR/ARを使ったどのような対策が行われているのかについてまとめたい。
日本の未来における問題とその処方箋「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)
VR/ARを使った対策の事例に進む前に、「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」で書かれている、「日本の未来における問題」について軽く触れておきたい。
まず、この書籍が未来の年表の根拠としているのは、国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(平成29年推計)」だ。「日本の将来推計人口(平成29年推計)」は平成27年国勢調査の結果をもとに推計されたもの。世の中には様々な予測が存在しているが、人口の予測については、もっとも正確性が高いと言われている。人間が生涯に子どもを生める数というのは大きく変わらないので、戦争や大災害のようなことが発生しない限り、概ね推計通りの結果となるからだ。
では、人口が減っていくことが確実だとして、人口が減ることでどんなデメリットがあるのか?…というと、パッと出てくるのが消費者が減少することにより、ビジネスが成立しにくくなること。このビジネスの中には、生活を支える電気・水道などの社会的インフラももちろん含まれている。…つまり、人口が減ると社会的なインフラを支えることが困難になってくるのだ。
書籍内の年表の細かな内容は、実際に書籍を読んでいただきたいが、表紙にも書かれている年表上の大きなトピックを上げていくと、他にも「2027年 輸血用血液が不足」「2033年 3戸に1個が空き家に」「2039年 火葬場が不足」「2040年 自治体の半数が消滅」といったものがある。
一方、書籍ではただただ未来に起きると推測される出来事を書き連ねるだけでなく、後半に「日本を救う10の処方箋」と題して解決策も提示されている。とはいえ、いずれの解決策も「これで解決、すべてが丸く収まる」という極端な解決策ではない。人口が減っていくという未来を大きく変えることは不可能なので、なるべく発生する問題を軽減しようという、いわば、撤退戦のための戦略となっている。先に書いた通り、人口は短期間に大きく変動するものではないため、これは仕方がないことだ。
この記事で扱う、VR/ARを用いた様々な取り組みもまた、問題をダイレクトに解決するものではなく、問題を少しでも軽減するための手法といえる。しかし、それであっても我々が少しでもよい未来を迎えるためには必要な取り組みといえるだろう。
老々介護の問題をサポートするVRデバイス/コンテンツ
書籍を通じて書かれている大きな問題が、「高齢化」によって高齢者の割合が増えることにより、介護の問題が発生すること。
高齢者を介護する者もまた高齢者という「老々介護」の問題や、そもそも介護士の人数が不足することなどだ。
こうした問題にVRを使って取り組んでいる事例には、次のようなものがある。
VRを使って認知症を発見する仕組み「Rendever」
高齢者が高齢者を介護する「老々介護」では、重度認知症の高齢者を、軽度の認知症の高齢者が介護する…というケースが発生しうる。
現在のところ、認知症は治療が難しいとされているが、早期発見するための取り組みは進められており、その中にはVRを手法として使ったものも存在。
「Rendever」もそのひとつで、VRで旅行気分を体験させつつ、体験者の行動をモニタリング、モニタリング内容を診断に用いることで認知症の早期発見へとつなげようというものだ。
視線によるコミュニケーションを可能とする分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」
高齢者が介護を必要とするのは、高齢になればなるほど体の自由がきかなくなるからだ。
筋肉はもちろんのこと、視力や聴力も衰え、歯の数も減って言葉を明瞭に発しにくくなるため、コミュニケーションをとることすら難しくなってしまう。
こうしたケースで力を発揮するのが分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」だ。
「OriHime(オリヒメ)」は、オリィ研究所が提供する遠隔でコミュニケーションをとることができる分身ロボット。
搭載されたカメラやマイク、スピーカーを使ってインターネット越しに操作、周囲を見回したり、周囲の人と会話することができる。
また、「OriHime eye(オリヒメアイ)」というデバイスと連動させることで、視線の動きを使って「OriHime(オリヒメ)」にボディランゲージをさせることも可能だ。
弔いの概念を変える!?ARサービス
「2039年 火葬場が不足」というトピックでは、火葬場のみならず斎場や霊園の不足についても述べられている。
高齢者の割合が増えていけば、比例して弔事も増加する。その一方で、火葬場や斎場や霊園といった施設は気軽に増やすことができない。施設にまつわるイメージによって、周辺住民に反対されてしまうことが多いからだ。
とはいえ、実際に火葬場が不足すれば、これまでのように一人ずつ荼毘に付すのではなく、何人かをまとめて荼毘に付す…といったケースも出てくる。また、霊園が不足すれば、合同で弔うとか、或いは埋葬は行わず散骨する…といったケースも増えていくだろう。つまり、弔事に関する我々の中のイメージ…そもそもの概念を変更する必要が出てきそうだ。
ARでのお墓参り「SPOT MESSAGE」
弔事の概念を変えるサービスというのは既に存在しており、「SPOT MESSAGE」もそのひとつだ。「SPOT MESSAGE」は、指定のスポットでメッセージを公開することができるというスマートフォン向けのARアプリで、利用方法のひとつとして葬祭用途が提案されている。
自分のお墓をスポットとして、遺言メッセージを残しておくことで、お墓参りに訪れた遺族に対して、生前の思いを伝えることができる。つまり、死後も遺族とのコミュニケーションが可能となるわけだ。
「SPOT MESSAGE」はまだ、墓地と結びついたサービスになっているが、いずれ霊園の不足が深刻な問題となった折には、遺骨は散骨し、墓地はリアルではなく完全にバーチャルな世界で持つ…という状況になるかもしれない。
東京一極集中を軽減!地域振興を目的としたVR/ARコンテンツ
人口が減少していけば、自治体の中には維持できなくなるところも出てくる。ちなみに、2017年4月の時点で秋田県の人口は100万人を割った。自治体を支える人口が減少を続けているというのは、未来の話ではなく今ここにある問題なのだ。そして、このままいけば、「2040年 自治体の半数が消滅」ということになる。
消滅までいかずとも、自治体を支える人口が減少していけば税収は減り、減った分のコストを国民全体で負担する必要が出てきて、我々の負担は増えていくことになる。仮に自治体が消滅して都市部に残る人口が移動した場合、都市部では過密化が起こり、住宅問題や子育て環境の問題が悪化してしまう。
こうした状況を防ぐためには、地域振興によって地域を活性化させ、人口の東京一極集中を防ぐ必要がある。
VRによる観光コンテンツ提供サービス「Panon Library」
VRは地域振興のソリューションとして活用されることが多い。地域ならではの風景、イベントなどをVR写真やVR動画として配信し、地域の魅力を訴求することに繋げるのだ。もちろん、その地域に観光客を引き付ける魅力的なコンテンツが存在することが前提となるが、存在する場合、VRの持つ臨場感によって通常の写真や動画以上の訴求力を発揮できる。
「Panon Library」も、VR写真・VR動画を用いた観光コンテンツ提供サービスで、北海道内に特化した360°写真・動画を配信している。今後はVR内から物販や交通機関のチケットやホテルの予約が可能になれば、さらに観光客を誘引できるのではないだろうか。
「新世紀ヱヴァンゲリヲン」とコラボした「箱根補完計画 ARスタンプラリー」
アニメ「新世紀ヱヴァンゲリヲン」の舞台となった第3新東京市やネルフ本部が存在する箱根は、「新世紀ヱヴァンゲリヲン」とコラボして「箱根補完計画 ARスタンプラリー」というARイベントを実施した。
アニメをはじめとするフィクション作品の舞台となった土地であれば、作品とコラボレーションすることで、「聖地巡礼」を目的とする観光客を誘引することが可能だ。この際、フィクションと現実の土地を結びつけるソリューションとして、VR/ARほど最適なものはないだろう。
まずは知ることから!知ることで行動が変わるはず
「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」は、一度読んでみることをオススメする。正直なところ、読んだところで、個人で何かできるかといえば、できることはほとんどない。だから、結果的に「読んで何になる?」という気分になるかもしれない。
しかし、知ることで、少し行動が変わるということはあるんじゃないだろうか。出勤前にアフリカの子どもたちの貧困に関するニュースを見たから、なんとなく、コンビニでお釣りを寄付する気になった…。その程度のことでも、人数が多ければ、変化を呼ぶきっかけになるだろう。
この記事を見た誰かが、地域振興が大事だと知ったから、次の社内プレゼンでARスタンプラリー企画を提案してみた…その企画が、もしかしたら、とある自治体の人口減を軽減させるかもしれない。小さな可能性かもしれないが、そもそも未来なんて小さな可能性の塊だ。
是非あなたも書籍を読んで、考えてみてほしい。
引用元:「日本の将来推計人口」
引用元:Panon Library
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