まずはこの動画を観てほしい、立体音響技術を用いて録音されたこの映像は、カメラの回転に合わせて聴こえる楽器の音の位置が変化していくので、まるで実際の現場で聴いているようなリアリティを感じることができる。
VR空間の中で歩いたり、振り向いたり、座ったりすることができるようになった今、コンテンツに更なる没入感を加味するためには、プレイヤーの動きに合わせて音の聴こえる位置も自在に変えられる技術が必要であり、立体音響はこのニーズに応えるものだ。
FacebookやYouTubeなどのプラットフォームはすでに立体音響に対応しており、VRの進化と共にニーズが高まっているが、当記事では立体音響を構成する技術の紹介と、高まるニーズについて紹介したい。
立体音響を構成する2つの技術
ゲームや映画、360度動画などにはすでに立体音響が採用されているが、この技術は大きく2つに分けることができ、それぞれ「シーンベース方式」と「オブジェクトベース方式」と呼ばれる。
シーンベースオーディオ
シーンベースオーディオ(Scene-Based Audio)は音場全体の音声を記録する技術で、おもに360度動画に使われている。
この方式はヘッドトラッキングのみに対応しており、つまりヘッドセットを着けて森林の360度動画を観た場合、頭を回転させれば鳥の鳴き声や木々のざわめきなど、それぞれの音の発する場所は変化するが、ポジショントラッキングには対応していないため、動き回っても音が聴こえる位置は変わらない。
また、あくまで音場全体の音をBGMとして録音しているため音が平面的で没入感に欠けるという点もある。
VRに深い没入感を与えるには音声をより立体的にし、頭と身体の動きに応じて音声が聴こえる場所が変化する必要があるが、このニーズに応えるのが「オブジェクトベース方式」だ。
オブジェクトベースオーディオ
オブジェクトベースオーディオ(Object-Based Audio)とはオブジェクト単位で音を配置し、位置情報と共に記録、再生できる技術で、当記事のトップに掲載した動画に使用されている技術もオブジェクトベース方式によって録音されたものだ。
この方式で録音された音声は再生時に動的制御をすることが可能で、ヘッドトラッキング、ポジショントラッキング両方に対応している。
たとえば6DoF(6自由度方向=前後左右上下)に移動が可能なゲームをプレイしている時にキャラクターがプレイエリアの中を移動している場合、キャラクターが発する足音やセリフが、キャラクターの位置に応じて自在に変化する。
また、プレイヤーがプレイ中に腰をかがめたり、身体を左右に傾けた場合も、プレイヤーの身体の動きに応じて聴こえる音の位置が変化する。
空間上で自由に音を動かすことができるオブジェクトベース方式は、様々な6DoF対応のVRコンテンツがリリースされる昨今、そのニーズは高まっているが、普及を阻む要因の一つに、立体音響に対応したオーディオフォーマットが存在しないことが挙げられる。
しかし、現在LAに拠点を置くG’Audio Lab社が開発したオーディオフォーマットであるGAO形式が発表され、これはシーンベース方式、オブジェクトベース方式両方に対応しており、G’Audio Lab社のディレクターであるBrooklyn Earick氏は、GAOフォーマットを用いたデモについて以下のように語る。
VRの普及と共に高まる立体音響のニーズ
立体音響を駆使したVRコンテンツをプレイしていると、その立体感ゆえに、それぞれの音がまるで実際にその場に実際に存在するように感じられる。
これからのVRコンテンツにおいて立体音響は欠かせないものになるであろうし、その他にも音楽や映画などのコンテンツに与える影響が大きいことは明らかであり、普及のためのプラットフォームの整備が望まれる。
現在、YouTubeとFacebookが立体音響に対応しており、今年の3月、Vimeoが360度コンテンツに対応した際、同社のプラットフォームが立体音響に対応することを求めるリクエストが大量に寄せられ、Vimeoは同社のブログにおいて声明を発表し、同社は現在立体音響に対応すべく準備を進めており、近いうちに対応するとの意向を示した。
このようなVRオーディオの進化は多くの人々にかつてないクオリティの体験をもたらすものであり、開発者やクリエイターには革新的なコンテンツを制作するための協力なツールになることは明らかであり、VRの高解像度化と立体音響技術の進化は、これから何年にも渡って続いていく進化の、ほんの始まりにすぎない。
参照元:VRScout
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