バスに乗って移動するだけで、まるで物語の主人公になったかのような体験ができる──そんな一風変わった観光ツアーが、大阪でまもなくスタートします。実際の車窓から見える景色に、デジタル映像が重なることで、目の前の世界が変わって見える。しかも、ガイドはAIキャラクターと人間ガイドのダブル体制で、その時だけのライブ感を楽しめるというのです。
このユニークな取り組みは、「The XR RIDE(エックスアール・ライド)」と名付けられたライブ型のXRバスツアー。第一弾として、大阪の街を舞台に「大阪弁」をテーマにしたエンターテインメントツアーが、2025年7月から始まります。車内は最先端のディスプレイで360度が映像に囲まれ、AR技術によって現実の風景に物語が重なる仕掛け。演出を手がけるのは、テクノロジーとクリエイティブに強みを持つ株式会社KAKUSINです。
観光とテクノロジーを融合させることで、地域の魅力をより深く、より楽しく伝える新たな試み。この「XRバスツアー」が、今後の観光体験をどう変えていくのか注目が集まります。
「移動手段」を「物語体験」に変えるXRバスツアーの仕組み

「The XR RIDE(ザ・エックスアール・ライド)」は、株式会社OUGIが企画し、東京のクリエイティブカンパニーKAKUSINがコンテンツ制作を手がける、まったく新しい観光エンターテインメントです。単なるバス移動ではなく、乗客自身が物語の登場人物として没入できる“ライブ型の体験ツアー”という点が大きな特徴です。
制作を担ったKAKUSINは、XR技術やUI/UX設計に強みを持ち、プロジェクションマッピングやARグラスを活用した体験型コンテンツの実績もあります。本プロジェクトでは、そのノウハウを活かし、ツアー全体のコンセプト設計から演出、映像制作に至るまでを一貫して担当しています。
ARで広がる360度の世界 ガイドもAIと人間の“共演”

「The XR RIDE」の最大の特徴は、移動するバスそのものがエンターテインメント空間に変わるという点です。バスの車内は、正面や天井、左右の窓すべてがディスプレイ化されており、360度を映像で囲まれる構造になっています。特に窓は透過型ディスプレイになっており、実際の大阪の街並みに、リアルタイムでAR映像が重なって映し出されます。現実とデジタルが融合した視覚体験は、まるで映画やゲームの中に入り込んだような感覚を生み出します。
さらに印象的なのは、案内役として登場する「ガイド」の仕組みです。本ツアーでは、AIキャラクター「TEMPURA(テンプラ)」と、人間ガイド「AMI(アミ)」の2人が、乗客と対話しながらストーリーを進めていきます。TEMPURAは遠隔操作型のAIで、セリフに合わせてリアルタイムで表情や動作を変化させ、参加者とコミュニケーションを図ります。一方で、AMIは実際にバスに同乗し、観客とのライブな掛け合いを担います。
このように、リアルとバーチャルが重なり合う演出が、移動中の40分間を単なる「移動」ではなく、かけがえのない「体験」へと変えてくれるのです。
観光の課題にXRで挑む 実証実験としての側面も

「The XR RIDE」は、単なる新規コンテンツの提供にとどまらず、観光業が抱える課題へのアプローチとしても注目されています。背景にあるのは、訪日外国人観光客の増加と、地方における観光人材の不足という構造的な問題です。特に、英語や中国語など多言語対応ができるローカルガイドの確保は、多くの地域で大きな課題となっています。
今回のプロジェクトでは、AIキャラクターによるガイドシステムとXR演出を組み合わせることで、ガイド不足を補いつつ、地域ならではの魅力を視覚的・物語的に伝える手法が採用されています。この仕組みによって、従来の言語の壁やガイド人材への依存から一歩進んだ観光体験の提供が可能になります。
KAKUSINとOUGIは、この取り組みを「実証実験」と位置づけており、大阪での運行を起点に、今後は他地域への展開も視野に入れています。最新技術と地域の物語を組み合わせた観光モデルとして、持続可能な観光の形を模索する取り組みでもあるのです。
大阪弁が“魔法の言葉”に変わるユニークなツアー演出

「The XR RIDE」の第一弾コンテンツとして運行が始まるのが、「The Magic Words ‘OSAKA-BEN’ Bus Tour」です。2025年7月16日から、大阪・梅田を出発点とした約40分間の周遊ツアーがスタートします。コースは中之島エリアや大阪城周辺を通過し、再び梅田に戻るルートとなっており、大阪を象徴するスポットを巡る構成です。
このツアーの特徴は、テーマに「大阪弁」を据えている点です。乗客は、AIキャラクター「TEMPURA(テンプラ)」と人間ガイド「AMI(アミ)」の2人と一緒に、大阪ならではの5つの“魔法の言葉”を学びながら街を巡ります。会話や演出を通じて言葉の背景や文化に触れられる構成になっており、単なる観光ではない「言語と感情の体験」が提供される点がユニークです。
また、ツアーは全編英語と中国語に対応しており、インバウンド向けに特化した設計となっています。外国人観光客にとっては、言葉を通して大阪の魅力をより深く理解できる貴重な体験になるといえるでしょう。
開催は週3回 少人数制でじっくり楽しめる約40分間の旅

「The Magic Words ‘OSAKA-BEN’ Bus Tour」は、2025年7月16日(水)から同年10月29日(水)まで開催予定となっており、1週間に3回、各日4便のスケジュールで運行されます。乗車定員は1便あたり9名と少人数制で、ゆったりと演出に集中できる構成です。
出発・集合場所は「うめきたグリーンプレイス バス駐車場(予定)」で、コースは梅田周辺を起点に中之島エリア、大阪城エリアをめぐる約40分の周遊ルート。演出は全編英語および中国語に対応しており、インバウンド観光客にも配慮された内容となっています。
URL:https://ose.ougi-japan.com/xrride/
テクノロジーが描く“物語としての観光”という新たな可能性
観光のあり方が大きく変わろうとしている今、「The XR RIDE」はその最前線に立つ取り組みの一つといえそうです。リアルとバーチャルを重ね合わせることで、従来の“見る”観光から、“感じて没入する”観光へと価値をシフトさせる試みは、特に都市部やインバウンド需要の高いエリアにおいて、新たな体験創出のモデルとなるかもしれません。
また、ガイド不足や言語対応といった地域の課題に対して、AIとXR技術を使って補完するという構造は、単なるテクノロジー活用を超えた社会的意義を感じさせます。体験の質を高めながら、観光の担い手不足という現実にもアプローチする点は、多くの地域にとってもヒントになるのではないでしょうか。
「移動手段」でしかなかったバスが、「物語を旅する空間」へと変わる。その変化が、今後の観光体験のスタンダードになる日は、そう遠くないのかもしれません。