狂犬病ワクチン接種済みの犬を個体識別するテスト
狂犬病は今もなお、世界の多くの地域で毎年多数の犠牲者を出している感染症です。狂犬病による死者は年間推定6万人で、ほぼ全例がアジアとアフリカで発生しており、99%以上が犬に噛まれた結果です。
つまり人間が罹る狂犬病を抑えるためには、犬のワクチン接種が効果的であり必須であるということです。狂犬病が多く発生している地域では犬が放し飼いされていることが多く、どの犬がワクチン接種済みであるかどうかを識別することが簡単ではありません。
アメリカのワシントン州立大学、イギリスのグラスゴー大学、カナダのPiPマイペットテクノロジー社、タンザニアのイファカラ保健研究所の研究チームは、スマートフォンの顔認識技術を使って犬の個体識別を行なう方法をテストしました。
スマホアプリで顔認識やワクチン情報を登録
犬の顔を認識するスマートフォンアプリは、PiPマイペットテクノロジー社とワシントン州立大学の研究者が共同で開発しました。
このアプリで使用されている顔認識アルゴリズムは、顔の主要な構成要素を調べ、過去に保存された犬の顔のアーカイブ画像と比較することで犬を識別します。類似した構成要素の数が最も多い画像が「一致する可能性」として回答されます。
研究チームはこのアプリの効果を検証するため、タンザニアの農村部にある狂犬病ワクチン接種診療所を訪れた犬にワクチン接種を行ない、マイクロチップを装着、アプリを使って登録を行ないました。
狂犬病が多く発生する地域で実用的に広く使用するにはマイクロチップは高価すぎて現実的ではないのですが、ここではアプリの個体識別の効果を確認するために使われています。
その後、ワクチン接種を確認するための家庭訪問の際に、アプリケーションを使ってその犬がワクチン接種済みかどうかを調べ、マイクロチップの情報と照合して精度が確認されました。
犬の顔認識アプリの高い精度を確認
研究チームによる家庭訪問によって、ワクチン接種の有無を確認された犬は534頭でした。そのうちワクチン接種済みは251頭、ワクチン未接種は283頭です。
顔認識アプリを使って犬の識別を行なった結果は、ワクチン接種済みの精度は76.2%、ワクチン未接種の精度は98.9%という高い正確性を示しました。
ワクチン未接種の場合には、保存されているアーカイブ画像に一致するものがないので非常に高い精度となったのですが、接種済みの犬のうち誤って分類された約23%は、画像の質の悪さによるものと考えられています。
タンザニアの屋外の強い光や、獣医師に触られたり写真を撮られたりすることに慣れていない犬が多いため、犬の顔の写真を鮮明に撮影することは、私たちが考えるよりも簡単ではなかったようです。
顔認識アプリは今後少しの改良とオペレーターの訓練が必要ですが、手軽にワクチン接種済み犬の個体識別をするツールとして、非常に有望であることがわかりました。従来の首輪につけるワクチン接種済みタグなどと併用することで、さらに実用的になると考えられます。
この技術は、ワクチン接種済みの犬を識別するツールとしての可能性に加えて、家畜など他の動物種の疾病管理、動物を識別する必要がある研究目的での使用も期待できるとのことです。
まとめ
タンザニアにおける狂犬病ワクチン接種済みの犬を識別するためにスマートフォンのアプリの効果を検証したところ、高い精度が示され、実用化が期待されているという報告をご紹介しました。
感染症の集団免疫を獲得する目安はワクチン接種率70%と言われています。日本では登録されている犬のワクチン接種率は全国平均で70%に達していますが、犬を未登録で飼っている人も多いため、実際のワクチン接種率はもっと低い可能性が高くなっています。
日本では、狂犬病というと他人事のように感じている飼い主さんも少なくないのですが、発症すれば致死率100%の感染症がワクチン接種で確実に予防でき、なおかつ法律で定められていることですから、全ての飼い主さんに真摯に考えていただきたい問題です。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-49522-2
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