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【新作アニメ捜査網】第32回 チバ重役枠と『フリージング』アニメ化の意義


新作アニメ捜査網

皆様、こんにちは。「新作アニメ捜査網」では、2011年の新作アニメに関する記事の1発目として、『フリージング』を取り上げたいと思います。
『フリージング』はキルタイムコミュニケーションの雑誌『コミックヴァルキリー』に連載されている林達永(原作)、金光絃(作画)による漫画をテレビアニメ化した番組です。

本作の物語は、多摩都市モノレール沿線にあるゼネティックスという士官学校を舞台に進行します。


実は現在放送中のテレビアニメ『とある魔術の禁書目録II』の舞台も多摩都市モノレール沿線であり、同一の場所で同時並行して2つの物語が進行していると思うと感慨深いものがあります。
下に掲載したのは、私が撮影した多摩都市モノレールの駅の様子です。『フリージング』のオープニングと見比べてみてください。

フリージングフリージング

『フリージング』の世界では、ノヴァという怪物が地球を滅亡の危機に陥れており、ノヴァと戦う少年少女を養成する学校がゼネティックスです。
物語の中心人物となる少年・アオイ=カズヤ(声・市来光弘)は、かつてノヴァとの戦いで姉(声・能登麻美子)を亡くしましたが、ゼネティックスで姉と瓜二つの容姿を持つ先輩・サテライザー=エル=ブリジット(声・能登麻美子の1人2役)を見つけ、交流を深めることになります。

この原稿を書いている時点で第7話まで放送されていますが、物語の基本はゼネティックス内で繰り広げられる女生徒同士の抗争であり、テレビアニメ『百花繚乱 サムライガールズ』(後でまた触れます)において天草四郎という外敵が迫る中、学園内で抗争していたのと似たような構図となっています。

本作の放送スケジュールは以下の通り。2011年1月から、AT-Xや独立UHF局等で放送されています。

▼放送スケジュール

AT-X土曜 09時30分 ~ 10時00分
千葉テレビ放送日曜 24時30分 ~ 25時00分
テレビ神奈川日曜 25時30分 ~ 26時00分
テレビ埼玉月曜 25時00分 ~ 25時30分
東京メトロポリタンテレビジョン火曜 25時30分 ~ 26時00分
テレビ愛知火曜 25時58分 ~ 26時28分
サンテレビ水曜 26時10分 ~ 26時40分

この番組は、放送開始前から、インターネット上の巨大掲示板2ちゃんねるや、ソーシャルネットワーキングサイトのツイッターで、2ちゃんねる用語で言うところの「チバ重役アニメ」として話題となりました。

2ちゃんねる上のアニメファンは、2ちゃんねる特有の用語として、「チバ重役枠」「チバ重役アニメ」という言葉を使っています。

本稿では、『フリージング』の特徴を明らかにするために、「チバ重役アニメ」の特徴について論じ、それによって『フリージング』というテレビアニメの歴史的背景を明らかにしたいと思います。

2ちゃんねる用語で言うところの「チバ重役枠」というのは、千葉テレビ放送の日曜深夜12時半の枠を指す言葉であり、この枠は、サンテレビ水曜深夜2時10分(但し『ゼロの使い魔』は水曜深夜2時5分)、テレビ神奈川日曜深夜1時半、テレビ埼玉月曜深夜1時(『まりあ†ほりっく』以前は金曜深夜1時半、『プリンセスラバー!』までは金曜深夜1時)、東京メトロポリタンテレビジョン火曜深夜1時半の枠と対応しています。
東海地方では、『まりあ†ほりっく』まではテレビ愛知木曜深夜1時58分、『タユタマ』『プリンセスラバー!』は中京テレビ月曜深夜3時15分、『聖剣の刀鍛冶』は中京テレビ月曜深夜3時12分、『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』以降はテレビ愛知火曜深夜1時58分の枠と対応しています。

因みにチバ重役枠で放送された『まりあ†ほりっく』の続篇となる、2011年第2クールの新番組『まりあほりっく あらいぶ』は、テレビ東京木曜深夜2時15分の枠に移転することが決定しています(その他の地上波放送局はテレビ大阪、テレビ愛知)。

さて、この枠で放送された番組は幾つかの共通点を持っています。以下に列挙します。

▼チバ重役枠の共通点

☆特徴その1・メディアファクトリーが製作委員会に出資している
<<該当する作品>>
『一騎当千』(2003年第3クール)
『ゼロの使い魔』(2006年第3クール)
『一騎当千 Dragon Destiny』(2007年第2クール)
『ゼロの使い魔 双月の騎士』(2007年第3クール)
『プリズムアーク』(2007年第4クール)
『アヤカシ』(2008年第1クール)
『ゼロの使い魔 三美姫の輪舞』(2008年第3クール)
『まかでみ・WAっしょい!』(2008年第4クール)
『まりあ†ほりっく』(2009年第1クール)
『タユタマ ‐Kiss on my Deity‐』(2009年第2クール)
『プリンセスラバー!』(2009年第3クール)
『聖剣の刀鍛冶』(2009年第4クール)
『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』(2010年第1クール)
『一騎当千 XTREME XECUTOR』(2010年第2クール)
『オオカミさんと七人の仲間たち』(2010年第3クール)
『百花繚乱 サムライガールズ』(2010年第4クール)
『フリージング』(2011年第1クール)
☆特徴その2・地上波最速放送は千葉テレビ放送
<<該当する作品>>
『ゼロの使い魔』
『一騎当千 Dragon Destiny』
『ゼロの使い魔 双月の騎士』
『プリズムアーク』
『アヤカシ』
『ゼロの使い魔 三美姫の輪舞』
『まかでみ・WAっしょい!』
『まりあ†ほりっく』
『タユタマ ‐Kiss on my Deity‐』
『プリンセスラバー!』
『聖剣の刀鍛冶』
『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』
『一騎当千 XTREME XECUTOR』
『オオカミさんと七人の仲間たち』
『百花繚乱 サムライガールズ』
『フリージング』
☆特徴その3・豊かな肉体を持った女性キャラクターが登場する
<<該当する作品>>
『一騎当千』
『一騎当千 Dragon Destiny』
『ゼロの使い魔 双月の騎士』
『プリズムアーク』
『ゼロの使い魔 三美姫の輪舞』
『まかでみ・WAっしょい!』
『プリンセスラバー!』
『聖剣の刀鍛冶』
『一騎当千 XTREME XECUTOR』
『百花繚乱 サムライガールズ』
『フリージング』
☆特徴その4・激しい戦闘シーンを含んでいる
<<該当する作品>>
『一騎当千』
『Fate/stay night』(2006年第1クール~第2クール)
『一騎当千 Dragon Destiny』
『プリズムアーク』
『アヤカシ』
『聖剣の刀鍛冶』
『一騎当千 XTREME XECUTOR』
『百花繚乱 サムライガールズ』
『フリージング』

基本的には「チバ重役枠」で放送されたアニメが2ちゃんねる上で「チバ重役アニメ」と呼ばれていますが、必ずしもそれだけではなく、「チバ重役枠」以外の枠で放送されたUHFアニメのうち、製作委員会にメディアファクトリーが出資し、豊かな肉体を持った女性キャラクターが激しい戦闘シーンを繰り広げるアニメも「チバ重役アニメ」と呼ばれています。
例えば『一騎当千 Great Guardians』(2008年第3クール)『クイーンズブレイド 流浪の戦士』(2009年第2クール)『クイーンズブレイド 玉座を継ぐ者』(2009年第4クール)等が該当します。

ではなぜこの枠はチバ重役枠と呼ばれるようになったのでしょうか。
その由来は、2007年4月8日(日曜日)にありました。その日、千葉テレビ放送では本来であれば深夜11時半から『陸上防衛隊まおちゃん』、12時から『らき☆すた』、12時半から『一騎当千 Dragon Destiny』、1時半から『sola』が放送されるスケジュールとなっていたのですが、この日は統一地方選挙があり、その報道特別番組を控えていたことから、夜7時半から『陸上防衛隊まおちゃん』、8時から『らき☆すた』、8時半から『sola』が放送され、『一騎当千 Dragon Destiny』は前日の深夜3時5分に飛ばされました。
このような状況が2ちゃんねる上で話題となり、これ以降、千葉テレビ放送の日曜深夜12時半の枠は、同局の重役が会議の議題にする枠というネタ(無論ジョークであり、フィクションです)が2ちゃんねる上でお約束となりました。そして「チバ重役枠」という呼び名が2ちゃんねる上で定着したのでした。

ところで「チバ重役アニメ」のスタッフの顔触れを見ると、或る系譜があることに気付きます。以下に、特に注目すべきスタッフの名前を挙げておきます。

▼チバ重役枠アニメの注目すべきスタッフ

『一騎当千』
監督・渡部高志、シリーズ構成・吉岡たかを
『一騎当千 Dragon Destiny』
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、シリーズ構成・吉岡たかを、キャラクターデザイン/総作画監督・りんしん、各話演出・ふくもとかん/他、各話作画監督・宮澤努/他、各話原画・梅津泰臣/他、エンディング作画監督・うるし原智志
『一騎当千 Great Guardians』
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、シリーズ構成・赤星政尚、キャラクターデザイン/総作画監督・りんしん、エンディング絵コンテ・梅津泰臣、各話絵コンテ/演出・ふくもとかん/他、各話作画監督・宮澤努/他
『一騎当千 XTREME XECUTOR』
制作協力・アームス、キャラクターデザイン・りんしん
『クイーンズブレイド 流浪の戦士』
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、キャラクターデザイン/総作画監督・りんしん、音楽・横山克、各話絵コンテ・ふくもとかん/うるし原智志/他、各話作画監督・宮澤努/他
『クイーンズブレイド 玉座を継ぐ者』
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、キャラクターデザイン/総作画監督・りんしん、シリーズ構成・吉岡たかを、音楽・横山克、各話絵コンテ・杜野幼青/他、各話演出・ふくもとかん/他、各話作画監督・宮澤努/他、エンディング作画監督・うるし原智志
『百花繚乱 サムライガールズ』
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、キャラクターデザイン/総作画監督・宮澤努
『フリージング』
監督・渡部高志、シリーズ構成・赤星政尚、脚本・赤星政尚/吉岡たかを、キャラクターデザイン/総作画監督・渡辺真由美、音楽・横山克

以上のように、何人か重複しているスタッフがいることが分かります。
例えば『フリージング』の音楽を作曲しているのは横山克ですが、イベント等で配布された『フリージング アニメ化記念無料小冊子』では横山の代表作が『クイーンズブレイド』であると記されています(メディアファクトリーの都合もあろう)。
また、うるし原智志は、『フリージング』のアニメには関わっていないようですが、『コミックヴァルキリー3月号増刊 フリージング特大号』でサテライザー先輩のポスターを描いています。

「チバ重役アニメ」のスタッフというのは、実は1990年代から、豊かな肉体を持った女性キャラクターと激しい戦闘シーンが登場する大人向けのOVAを作ってきた人達でもあります。以下に、「チバ重役アニメ」のスタッフが作ったOVAを幾つか例示します。

▼チバ重役枠アニメスタッフが手がけたOVA

OVA『セーラー戦士 ヴィーナス・ファイブ』(1994年発売)
監督・ふくもとかん、キャラクターデザイン・りんしん
OVA『ミッドナイトパンサー』(1998年発売)
アニメーション制作・アームス、監督/脚本・杜野幼青、キャラクターデザイン/作画監督・りんしん
OVA『ワーズ・ワース』(1999年発売)
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、監督・ふくもとかん、脚本・杜野幼青、キャラクターデザイン/作画監督・りんしん
OVA『メゾフォルテ』(2000年発売)
アニメーション制作・アームス、プロデューサー・越中おさむ、原作/脚本/キャラクターデザイン/作画監督/監督・梅津泰臣、原画・渡辺真由美/他
OVA『luv wave』(2000年発売)
脚本・吉岡たかを
OVA『ロマンスは剣の輝きⅡ』(2001年発売)
プロデューサー・越中おさむ、監督/脚本/絵コンテ・杜野幼青

次に出演者に目を向けてみましょう。
『一騎当千』シリーズに出演した声優のうち、甲斐田裕子、生天目仁美、高橋美佳子、喜多村英梨は『クイーンズブレイド』シリーズにスピンオフ出演(ここで言うスピンオフは、特に昭和のテレビ業界で用いられた用法としてのスピンオフ)し、更に『クイーンズブレイド』シリーズから田中敦子が『一騎当千 XTREME XECUTOR』にスピンオフ出演。『クイーンズブレイド』シリーズから『百花繚乱 サムライガールズ』へは釘宮理恵と立木文彦がスピンオフ出演しています。

『クイーンズブレイド』シリーズは大沢事務所所属の川澄綾子&能登麻美子がダブル主演していますが(但しタイトルクレジット上では能登は5番手扱い)。2人とも何曲ものアニメソングを歌ってきた経歴の持ち主であることから、『クイーンズブレイド 流浪の戦士』では川澄、能登及び平野綾の3人がエンディング主題歌を歌いました。

では『フリージング』は誰が出演しているかというと、やはり大沢事務所所属の能登麻美子&花澤香菜がダブル主演(但しタイトルクレジット上では花澤は6番手扱い)。その他、『一騎当千』シリーズから喜多村英梨、甲斐田裕子、渡辺明乃、浅川悠、『クイーンズブレイド』シリーズから釘宮理恵と斧アツシ(及び喜多村と甲斐田)、『百花繚乱』から小清水亜美(及び釘宮)が出演しています。『フリージング』でも、『クイーンズブレイド』みたいに能登と花澤の2人が主題歌を歌えばよかったのに、とも思いますが、残念ながら主題歌を歌うのは別の人です。

チバ重役アニメの出演者

以上に見たように、2011年第1クールの新作テレビアニメ『フリージング』は、数年間に亘って続くアニメ界の歴史的伝統を背景にして作られた作品であり、或る種のアニメ文化の継承者と言えるのです。

■ライター紹介
【コートク】

本連載の理念は、日本のコンテンツ産業の発展に微力ながら貢献するということです。基本的には現在放送中の深夜アニメを中心に当該番組の優れた点を顕彰し、作品の価値や意義を世に問うことを目的としていますが、時代的には戦前から現在まで、ジャンル的にはアニメ以外のコンテンツ作品にも目を向けるつもりでやって行きたいと思います。そして読者の皆さんと一緒に、日本のコンテンツ産業を盛り上げる一助となることができれば、これに勝る喜びはございません。

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By おたくま経済新聞編集部 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/4147686.html
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