三笠書房から4月22日に刊行予定の書籍『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(著・神田裕子氏)をめぐる表現がSNS上で物議を醸す中、同社および著者の神田氏が4月18日、公式声明を発表した。
■ 出版社「表現についてより一層の工夫を」
炎上の発端は、書籍のイラストや目次、帯の紹介文などの事前公開内容が、発達障害などの特性を持つ人々を「困った人」と表現していることにある。タイトルには「職場の困った人」と明記されており、さらに表紙の帯には「愛すべき」という表現が添えられていたものの、「職場にはびこる困った人」といった文章が掲載されていた。
中でも、強い批判を受けたのが、ASD(自閉スペクトラム症)をナマケモノ、ADHD(注意欠如・多動症)をサルなど、動物キャラクターに例えた表現だった。これが「揶揄的」「差別的」として受け取られ、SNSを中心に批判が広がった。
こうした事態を受けて三笠書房は声明で、「まずは事前告知の限られた情報の中で、ご不快な思いをされた方がいらっしゃった事実について、お詫び申し上げます」と謝罪。
本書の意図については、職場などの組織内で見られる「困った人」との関係性について、関わりを避けるのではなく、相手を知り、どう向き合えばトラブルを避けながら良好な関係を築けるか、という視点から執筆されたものであると説明している。
その上で、「困った人」を理解する手がかりとして6タイプに分類し、簡易的なチャートも掲載。それぞれの特徴の解説に加え、タイプ別の対処法や具体的な声かけ、さらには自分自身の感情のコントロール方法にまで言及しているという。
また、「診断行為に踏み込んでいるのでは?」などと指摘されていた「簡易診断チャート」については、「直ちに障害や病気という医療上の診断に繫がるものではないことは言うまでもなく、あくまでも相手を理解するための“目安”に過ぎません」と説明。
動物キャラクターの表現については、「“困った人”と“困っている人”という対比を人間の表情や姿勢等で表すことには限界があることから、“困った人”を愛らしい動物に置き換えるという表現にしました」と説明。
その上で改めて今回の件について謝罪、「表現についてより一層の工夫をしなくてはならないと考えている次第です」と締めくくった。
■ 著者・神田氏「知ることの大切さ」を伝えたかった
また、著者の神田裕子氏の声明のパートでは、「私自身も含めて、家族に発達障害の特性傾向が見受けられます。あくまでも自己判断ではありますが、他人事とはとらえられないと感じています」と述べ、その上で「そのため、差別意識や偏見などはまったくありません」と明言した。
本書の目的については、「障害があるなしにかかわらず、互いに理解し合って相手の嫌がることをせず、適材適所で働ける環境がほしい」という願いを込めたとし、「知ることの大切さ」を伝えるために執筆したと説明している。
また、「ASD」などの言葉に関しては、決めつける意図はなく、それぞれの特性を踏まえて「言動を事例としていくつか出しています」と述べており、著者自身が医師ではないため診断行為はできないとし、本書内でもその点を明記していると述べている。
動物キャラクターの使用については、「愛おしいもの、ピュアなものの象徴としてとらえており、差別的な意図はまったくありませんでした」と説明した。一方で、「ご不快な気持ちになった方々がいることは事実であり、表現方法について、もう少し慎重に検討を重ねるべきであったと思っています」と述べ、配慮の不足を認めている。
■ 外部スタッフへの責任否定と誹謗中傷への対応
さらに、三笠書房は追記として、今回の書籍制作に関わった外部のクリエイターやプロデューサーに対しても批判の声が寄せられていることを明らかにした。その上で、「本書の内容や表現上のディレクションに関しては、あくまでも出版社と著者が主体となって作り上げたものであり、外部スタッフに一切の責はありません」とし、関係者の責任を否定した。
また、SNS上では著者本人になりすましたアカウントによる誤情報やデマの拡散が確認されており、さらに著者の個人情報が晒された上、家族に対しても誹謗中傷が寄せられているという。
これに対し三笠書房は、「到底看過できない」として、関係機関と連携の上、法的措置を講じることを明らかにした。
なお、今回の声明では、出版の差し止めや内容の修正・変更については明記されておらず、当初の予定通り刊行されるものと見られる。
<参考・引用>
三笠書房「神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』について」