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世界中の鳥が「1日平均50分長く歌う」現象が生じている その原因は?


「最近、鳥の声を聞く時間が長くなった気がする……」と感じているなら、それは気のせいではないかもしれません。

実際、世界中の鳥たちがかつてよりも平均で1日あたり50分も長くさえずっていることが明らかになったのです。

南イリノイ大学(Southern Illinois University)の研究チームは、世界各地の583種の鳥類に関する数百万件以上の音響データを用いて、鳥たちのさえずり開始と終了の時刻を解析しました。

その結果、さえずりが長引く背景には、私たち人間が作り出した“ある環境要因”が深く関わっていることが分かりました。

この研究成果は、2025年8月21日付で科学誌『Science』に掲載されました。

目次

  • 夜になっても「明るい街」とそれがもたらす「体内時計のゆがみ」
  • 世界中で鳥たちのさえずりの時間が長くなっている

夜になっても「明るい街」とそれがもたらす「体内時計のゆがみ」

現代社会では、夜になっても街灯や建物の照明が煌々と輝いており、本来であれば暗くなるはずの夜空が、まるで昼間のように明るく照らされてしまうことがあります。

これは「光害」と呼ばれる現象で、近年、都市部だけでなく郊外や自然保護区にまで影響を及ぼしている深刻な環境問題です。

地球上の多くの生物は、太陽の昇り沈みに基づいた「概日リズム(サーカディアンリズム)」を頼りに活動しています。

光と闇の切り替わりが、起床や休息、食事や繁殖などのタイミングを決定づけており、これは人間を含むほぼすべての生命体に共通するメカニズムです。

しかし人工の光が夜を侵食すると、この自然なリズムが狂ってしまいます。

例えば、日没後も周囲が明るいままだと、鳥たちの体内時計は「もう朝だ」と錯覚してしまい、通常よりも早く活動を始めたり、夜遅くまで活動を続けてしまう可能性があるのです。

今回の研究では、こうした光害が鳥類の行動にどのような影響を与えているのかを明らかにするために、科学者たちは世界中の鳥たちのさえずりパターンに注目しました。

解析に使われたのは「BirdWeather」という科学プロジェクトのデータです。

このプロジェクトでは、世界中のバードウォッチャーが自宅の庭などに生態音を録音できる装置を設置し、その音声データが中央のデータベースに送信されます。

研究チームはこの膨大なデータのうち、583種の鳥において、さえずり開始(朝)に関する260万件以上、さえずり終了(夕方)に関する180万件以上のデータを分析対象とし、各地点の光害レベルと照合しました。

その上で、鳥の行動にどれだけ影響があるのか、さらにその傾向が種によってどう違うのかを詳細に調査しました。

世界中で鳥たちのさえずりの時間が長くなっている

解析の結果、光害の強い地域では、鳥たちのさえずりが平均で50分長くなっていることが判明しました。

具体的には、そうした地域に住む鳥は、暗い地域の鳥に比べて18分早く朝に鳴き始め、32分遅く夜に鳴き終えるというのです。

興味深いことに、光害の影響はすべての鳥に均等ではなく、特定の特徴を持つ鳥ほど強く影響を受けていることがわかりました。

研究チームによると、目が大きい、開けた場所に巣を作る、渡り鳥である、分布域が広いなどの特性を持つ鳥が、特に大きく行動を変えていたといいます。

さらにこの影響は、特に繁殖期に顕著であることも分かりました。

繁殖期は鳥にとってもっともエネルギー消費が大きく、休息が不可欠な時期です。

そのため、活動時間が伸びることで体力が消耗しやすくなるかもしれません。

それでも研究チームは、現段階で、この変化が鳥にとって良い結果になるのか、悪い結果になるのか、それとも無関係なのかは、まだはっきりしていないと述べています。

活動時間が延びることで、採食時間が増えたり、求愛・縄張りの主張といった繁殖行動が活発になる可能性もあるからです。

実際、鳥類には「片方の脳だけを眠らせる(半球睡眠)」という能力を持つ種もおり、活動中でもある程度の休息が取れる可能性があります。

つまり、光害によって延びた活動時間がもたらす影響は、種や環境条件によって正にも負にもなりうるというのが現時点での結論です。

この研究の限界として、影響の因果関係がすべて明確に解明されたわけではないこと、また個体の健康状態や繁殖成功率などの「長期的な適応度」への影響については今後のさらなる研究が必要であることが挙げられます。

とはいえ今回の研究は、これまで断片的に語られてきた光害の影響を世界規模で体系的に示した初めての成果として大きな意味を持ちます。

そして研究者たちは、今後このデータの蓄積が、気候変動対策と同様の「国際的な光害対策」につながる可能性を強く示唆しています。

研究チームは結論として、「夜の暗さの取り戻すことは21世紀の保全における最重要課題であり、国際的な協力が必要だ」と述べています。

果たして私たちは、夜空に本来の暗闇を取り戻すことができるのでしょうか。

鳥たちのさえずりが告げているのは、もしかすると“自然のリズム”が失われつつある未来への警鐘なのかもしれません。

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参考文献

Birds are singing almost an hour longer each day: Here’s why
https://newatlas.com/biology/birds-singing-longer/

Light pollution makes birds across the world sing for longer each day
https://www.eurekalert.org/news-releases/1094950

元論文

Light pollution prolongs avian activity
https://doi.org/10.1126/science.adv9472

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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