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夜の光で心臓病リスクが「40~50%も激増」過去最大規模の研究で判明


アメリカのハーバード大学医学部(HMS)やオーストラリアのフリンダース大学(FU)をはじめとする国際チームによって行われた大規模研究により、夜間に明るい光を浴びることが将来的な心臓病リスクや脳卒中を劇的に高めることが明らかになりました。

具体的には夜間に最も明るい環境で過ごした人は、暗い環境で眠った人に比べて心筋梗塞のリスクが最大47%、心不全のリスクが最大56%、冠動脈疾患や脳卒中のリスクも約30%高まっていました。

このリスク増加は医学研究において一般的に報告されている生活習慣による心血管疾患リスク増加幅と同等か、あるいはそれらに匹敵するほど重大です。

特に女性や若年層においてリスクの上昇幅が大きいことから、喫煙や高血圧と同じレベルで社会的に広く注意喚起をする必要があります。

「夜の明るさ」は、なぜこれほどまでに心臓病のリスクを高めてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年6月20日に『medRxiv』にて発表されました。

目次

  • 眠れない現代人が知らない『光』の真実
  • 眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係
  • 心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ

眠れない現代人が知らない『光』の真実

眠れない現代人が知らない『光』の真実
眠れない現代人が知らない『光』の真実 / Credit:Canva

夜、なかなか寝つけずにスマホを触っていたら、逆に目が冴えてしまった──そんな経験をしたことはありませんか?

実は私たちの体は、夜の暗さを感じると自然に「睡眠モード」に切り替わる仕組みになっています。

しかし、現代人の多くは夜間も強い光に囲まれて暮らしているため、本来なら暗くなると起こる体の「睡眠への切り替え」がうまく働かなくなっているのです。

人間の体は、地球が刻む昼と夜のサイクルに合わせて進化してきました。

日中に太陽の明るい光を浴びると、私たちの体は活動モードに切り替わります。

心拍数が上がり、血圧が上昇し、活動するためのエネルギーが全身に供給される仕組みです。

逆に、夜になると体は「睡眠モード」へと切り替わり、心拍数や血圧が下がり、心身が休息できるようになります。

この切り替えを司っているのが、「サーカディアンリズム(体内時計)」と呼ばれる体内のリズムです。

ところが、現代社会は夜になっても本当の意味で「暗く」なることがありません。

寝室の照明を消しても街灯やネオンの光が窓から入り込んでいたり、スマートフォンやタブレットの明るい画面がベッドの中でも手放せなかったりします。

実際、ある調査では寝る直前までスマホやテレビを見る人や、豆電球をつけて寝る人が全体の約40%もいると報告されています。

こうした夜間の「人工的な明るさ」が、私たちの体内時計を狂わせ、深刻な健康問題を引き起こす可能性が懸念されているのです。

実際、夜勤の仕事に従事している人や、慢性的に夜更かしをする人は、心臓病や糖尿病などの病気を発症するリスクが高いことが知られています。

また、ある実験では、寝室をわずか一晩明るくしただけで、睡眠中の心拍数が上昇したり、朝の血糖値のコントロールがうまくいかなくなったりすることが明らかになっています。

このことからも、「明るすぎる夜」が単に眠りを妨げるだけでなく、私たちの体そのものに直接的な悪影響を与えていることがうかがえます。

ただ、こうした夜間の光が、実際に長期間にわたって心臓病などの深刻な病気のリスクをどのくらい高めるのかは、はっきりしていませんでした。

そこで今回、アメリカのハーバード大学やオーストラリアのフリンダース大学を含む国際的な研究チームが、イギリスで行われた非常に大規模な調査を通じて、この疑問に挑みました。

夜間の光を浴びることが、実際に将来の心臓病リスクを高めるのでしょうか?

眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係

眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係
眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係 / Credit:Canva

夜間に光を浴びることは、本当に将来の心臓病リスクを高めるの?

答えを得るために、研究者たちはまず英国の大規模な健康調査プロジェクト「UKバイオバンク」に参加している約8万9千人(平均年齢62.4歳、女性の割合は57%)に注目しました。

これは、夜間の光と心臓病リスクの関係を調べた研究としては世界で最も大規模なものです。

実験は、参加者たちに専用の小さな光センサーを手首に装着してもらうところから始まりました。

このセンサーは周囲の明るさを記録するもので、参加者がどのくらい明るい環境で1週間を過ごしているかを詳しく記録しました。

研究チームはその後、このデータをもとに参加者を約8年(最長10年近く)にわたって追跡調査し、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳卒中などの病気が新たに発症するかを調べました。

その結果、「夜間の明るい環境」が確かに将来の心臓病リスクを高めていることが明らかになりました。

具体的には、夜間の明るさが強ければ強いほど、後に心臓病や脳卒中を発症する人が増えていたのです。

最も暗い環境で過ごしていたグループと比較すると、夜間に最も明るい環境で過ごした人では、心筋梗塞のリスクが最大47%、心不全は最大56%、冠動脈疾患は最大32%、脳卒中は最大30%も高くなっていました。

夜の明るさ、どれくらいから心臓に悪いの?

「明るい」と言っても一体どれくらいの光がリスクになるのでしょう?研究では、夜間の明るさを次の4つのグループに分類しました。

  • 最も暗い環境(0〜50パーセンタイル):約0.62ルクス
    (薄暗い月明かりがカーテン越しに感じられる程度)

  • やや明るい環境(50〜70パーセンタイル):約2.48ルクス
    (豆電球や小型の常夜灯で部屋がぼんやり見える程度)

  • 比較的明るい環境(70〜90パーセンタイル):約16.4ルクス
    (部屋全体がうっすら見渡せる薄暗い室内灯レベル)

  • 非常に明るい環境(90〜100パーセンタイル):約105ルクス
    (明るい室内照明やスマートフォン、テレビの光を間近で浴びている程度)

研究では夜間にわずか数ルクス程度の弱い光曝露でも健康リスクが徐々に高まり、特に100ルクス前後の環境(明るい室内や街灯の下程度の明るさ)では、心臓病リスクが著しく増加することが示されています。実践的には、寝室の照明は消し、必要なら小さく暗い間接照明を使用し、寝る前にはスマホやタブレットをなるべく見ないようにすることが推奨されます。

さらに注目すべき結果は、夜間の明るさによる心臓病リスクの上昇が、女性において特に強く現れていたことです。

通常、女性は同年代の男性に比べて心臓病のリスクが低いことが知られています。

ところが、この研究では、夜間の明るい環境で寝ていた女性は、本来持っているはずの「女性特有のリスクの低さ」がほぼ完全に打ち消され、男性とほとんど同じレベルまでリスクが上昇していました。

研究チームは、この結果について、女性の体内時計が男性に比べて明るい光の影響を受けやすく、それによって本来のリスクの低さが失われたのではないかと考えています。

この研究が画期的なのは、わずか1週間の光センサーのデータだけで、10年近く先に起こる心臓病リスクを高い精度で予測できた点です。

実際、研究者たちは「夜間の光を避けることが、心臓病のリスクを低下させるために有効な戦略となりうる」と述べています。

つまり、私たちが毎晩のように浴びている「人工的な光」が、単なる睡眠不足以上に重大な健康リスクを秘めていることが、長期間の追跡調査により初めて明確に示されたのです。

心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ

心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ
心臓病予防は『夜を暗くする』ことから始めよ / Credit:Canva

今回の研究によって、「夜間に明るい光を浴びることが、将来的な心臓病のリスクを大きく高める可能性」が初めてはっきりと示されました。

では、なぜ夜の光が私たちの心臓にこれほど悪影響を与えてしまうのでしょうか?

そのカギを握っているのが、私たちの体に組み込まれている「体内時計(サーカディアンリズム)」です。

人間の体は、太陽が昇れば目を覚まして活動を始め、太陽が沈んで暗くなれば体を休ませて回復に努めるというサイクルを繰り返しています。

日中、強い光を浴びることで私たちの体は活動モードに切り替わり、血圧や心拍数を高め、身体を動かすためのエネルギーを効率よく使えるようになります。

逆に、夜に暗くなると体は自然に休息モードに切り替わり、心拍数や血圧を下げて、睡眠や回復に備えます。

ところが、夜間に人工的な強い光を浴びると、この体内時計がうまく働かなくなってしまいます。

夜なのに明るい環境にいると、体は「今はまだ活動時間だ」と勘違いしてしまうのです。

すると、睡眠中であっても心拍数や血圧が高いまま維持され、本来は回復に使うべき時間帯にまで心臓に負担がかかってしまいます。

言い換えると、明るい夜は、私たちの心臓を「休ませる時間」を奪っているのです。

また、夜間に明るい光を浴びることは、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を強く妨げます。

メラトニンは体をリラックスさせ、睡眠を促すだけでなく、体内の炎症を抑える働きも持っています。

そのため、メラトニンが十分に分泌されない状況が長く続くと、体内の炎症反応が活発になり、結果として血管や心臓へのダメージを徐々に蓄積させてしまう恐れがあります。

今回の研究結果は、こうした一連の悪循環が、単なる仮説ではなく、長期的な心臓病リスクの上昇という形で実際に現れることを明らかにしました。

特に興味深いのは、女性が男性よりも夜の光の影響を強く受けていたことです。

通常、女性のほうが心臓病のリスクが低いことは広く知られていますが、夜間に強い光を浴び続けることで、この女性特有の健康上のメリットがほぼ失われてしまったのです。

研究者たちは、この男女差が生まれた理由として、「女性の体内時計が男性よりも光に対して敏感である可能性が高い」と考えています。

つまり、女性は明るい夜にさらされることで、男性よりも大きく体内リズムが乱されてしまい、心臓病リスクが急激に上昇してしまうのです。

ただ、今回の研究が希望を示しているのは、夜間の光による健康リスクは、自分自身の工夫でかなり軽減できるという点です。

研究者たちは、夜間に室内で物がはっきりと見えるほどの明るさがあれば、すでに健康上のリスクが高まっている可能性があると指摘しています。

逆に言えば、寝室の明るさを抑えることや、就寝前にスマートフォンやパソコンの明るい画面を見る時間を減らすといったちょっとした心がけでも、私たちの心臓を守る大きな効果をもたらす可能性があるのです。

今回の研究は、私たちの健康を守るために「夜をきちんと暗くする」という、単純でありながら見過ごされてきた方法がいかに重要かを科学的に証明しました。

日常の小さな習慣を見直すだけで、未来の心臓病リスクを下げられる可能性があるのならば、試してみない手はありません。

夜の部屋は暗くして、体の本来のリズムを取り戻してみませんか?

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元論文

Personal night light exposure predicts incidence of cardiovascular diseases in >88,000 individuals
https://doi.org/10.1101/2025.06.20.25329961

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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