朝食を抜く習慣が、気分や集中力に影響しているかもしれない。
そんな興味深い関連性が最新の研究で明らかになりました。
香港大学の研究チームが、15〜24歳の若者約3000人を対象に行った調査によると、朝食を抜く頻度が高い人ほど「注意のコントロール力」が低く、うつ症状もやや強くなる傾向があることが分かったのです。
また、思いつきで行動してしまう「衝動性」のスコアも高くなっていました。
研究の詳細は2025年5月22日付で学術誌『Frontiers in Psychiatry』に掲載されています。
目次
- 朝食を抜く若者は「注意力のコントロール」が苦手だった
- なぜ朝食と“心の健康”が結びつくのか?
朝食を抜く若者は「注意力のコントロール」が苦手だった
今回の研究は、香港全域の若者3,154人を対象にした大規模な精神衛生調査の一環として行われました。
対象者は、朝食の頻度について「毎日食べる」から「全く食べない」までの4段階で答え、それに加えて「衝動性」「うつ症状」「不安」「生活の質」などに関する質問にも回答しました。
その結果、次のようなことが明らかになりました。
・14.8%の若者が朝食をまったく取っていない
・朝食を抜く人ほど、衝動的な傾向が高い
・なかでも「注意の衝動性(集中できない、すぐに気が散る傾向)」が強い
・さらに、朝食を抜く人はうつ症状や社会的機能の低下もわずかに強くなる傾向

重要なのは、こうした関連が起床時間(遅起きだから朝食を取らない)といった生活習慣では説明しきれなかったという点です。
分析の結果、朝食を抜く習慣がうつ症状につながるルートのうち、約3分の1(34.2%)は「注意のコントロール力の低下」が介在していたことが判明したのです。
つまり、朝食を抜く人は、集中力が続かず注意が散漫になりやすい傾向があり、それが結果として気分の落ち込みにもつながっている可能性がある、ということです。
なぜ朝食と“心の健康”が結びつくのか?

では、なぜ朝食の習慣が「注意力」や「気分」と結びついているのでしょうか?
そのヒントは、私たちの脳のエネルギー供給と神経伝達物質の働きにあります。
朝は1日の中で血糖値が最も低く、エネルギーが枯渇している状態です。
ここで朝食を取ることで、脳に必要なグルコース(ブドウ糖)を供給し、注意や思考を保つための回路が正常に働くと考えられています。
これを怠ると、集中力が保てず、イライラしたり、気分が沈みがちになる――。こうした現象は、朝食を抜いた経験がある人なら思い当たるかもしれません。
また、注意力がうまく働かないと、頭の中が雑念であふれ、ネガティブな考えの反復に陥りやすくなることも指摘されています。
こうした「注意の揺らぎ」が、気分障害の引き金になることは、うつ病や不安症の研究でも広く知られています。
つまり、朝食は単なるエネルギー補給だけでなく、“注意の安定”という心の健康にもつながる重要なスイッチだったのです。
この研究は因果関係を直接証明したものではありませんが、「朝食を抜く人は注意のコントロールが弱くなり、うつ傾向も高まる可能性がある」という大きなヒントを私たちに与えてくれました。
心の元気は、実は毎朝の食卓から始まっているのかもしれません。
参考文献
Breakfast habits are associated with depressive symptoms, study finds
https://www.psypost.org/breakfast-habits-are-associated-with-depressive-symptoms-study-finds/
元論文
Breakfast skipping and depressive symptoms in an epidemiological youth sample in Hong Kong: the mediating role of reduced attentional control
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2025.1574119
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部