ミミズと見間違うほど小さなヘビが、約20年の時を経てカリブ海のバルバドス島で再発見されました。
これまでに確認された事例でもわずかに数件。
ほとんど誰も見たことがなかったこの謎の生物の姿が、ついに明らかになったのです。
一体どれほど小さいのでしょうか?
目次
- 幻の極小ヘビが、岩の下からひょっこりと
- 絶滅寸前の固有種と、失われゆく森の物語
幻の極小ヘビが、岩の下からひょっこりと
2024年3月、カリブ海の島国バルバドスにて、ある生態調査の最中に驚きの発見がありました。
バルバドス環境・国家美化省と保全団体Re:wildの調査チームが、島の中央部に位置する森林の岩の下で、世界最小のヘビ「バルバドス・スレッドスネーク(Tetracheilostoma carlae)」を再発見したのです。
このヘビは、成体でも全長わずか9〜10センチメートル程度で、アメリカの25セント硬貨の上に乗ってしまうほどの小ささです。
体の背面には淡いオレンジ色のストライプが入り、頭の側面に小さな目があり、鼻先にはロストラル鱗と呼ばれる特徴的なウロコがついています。
Re:wildが自身のInstagramに掲載した映像がこちら。
「長年探しても見つからなかったものが、突然目の前に現れると、本当に信じられない気持ちになります」と語るのは、発見に携わったRe:wildの担当者ジャスティン・スプリンガーさんです。
調査チームは1年以上にわたって、バルバドス島に固有の爬虫類を探すプロジェクトを進めており、その成果がついに実を結んだ形です。
岩の下にいたのはミミズとこの小さなヘビ。
外見が非常に似ているため、最初は判別がつかなかったといいます。
特に、バルバドスでは近年「ブラーミニ・ブラインドスネーク(インドナミヘビ)」という外来種が持ち込まれており、見た目がほとんど同じなのです。
発見された個体はすぐに西インド諸島大学へと運ばれ、顕微鏡を用いた詳細な観察が行われました。
その結果、外来種ではなく、20年近く科学的に見失われていた正真正銘のバルバドス・スレッドスネークであることが確認されたのです。
絶滅寸前の固有種と、失われゆく森の物語
バルバドス・スレッドスネークは、視力を持たない「盲目ヘビ」の一種で、地中や落ち葉の中などに潜むため非常に発見が困難です。
事実、1889年の記録以降、科学的に確認された目撃例は数件しかなく、今回の発見は約20年ぶりの快挙でした。
このヘビの繁殖にもまた、絶滅リスクの高さが表れています。
バルバドス・スレッドスネークは有性生殖を行い、メスが産む卵は1個のみ。
それに対して、先ほど述べた外来種のインドナミヘビは単為生殖が可能で、1匹のメスだけでも大量の子孫を残すことができます。
このような違いが、外来種の拡散と固有種の衰退に拍車をかけているのです。

さらに深刻なのは、生息環境の破壊です。
バルバドス島では、16世紀の植民地化以降、大規模な農地開発が行われてきました。
その結果、現在残されている原生林は、島全体のわずか2%程度しかありません。
今回のヘビが見つかった森林も、スコットランド・ディストリクトと呼ばれる未開発地域に限られた貴重な自然の一部です。
このような生息地の減少と競合種の影響により、バルバドスではすでにいくつもの固有種が絶滅しました。
たとえばバルバドス・スキンクやバルバドス・レーサー(固有のヘビ)は、インドマングースの導入によって姿を消したと考えられています。
今回のスレッドスネーク再発見を受けて、調査チームは今後も島内の森林を重点的に調べ、分布や生態の詳細を把握することを計画しています。
それに基づき、具体的な保護策を立案することが急務となっています。
参考文献
World’s Smallest Snake Rediscovered After Vanishing For Decades
https://www.sciencealert.com/worlds-smallest-snake-rediscovered-after-vanishing-for-decades
World’s smallest snake, lost to science for nearly 20 years, rediscovered in Barbados
https://www.rewild.org/press/barbados-threadsnake-rediscovery
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部