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獲物の「骨を消化」する新細胞をニシキヘビで発見


「ヘビは獲物を骨ごと丸飲みする」

これはよく知られた事実です。

私たちヒトを含め多くの動物は、獲物の硬い骨は消化できないので、肉だけを食べます。

しかしヘビはそんなことはお構いなく、獲物を丸々飲み込んでしまうのです。

では、ヘビが飲み込んだ骨はどうなるのでしょうか?

ふつうの動物なら、消化できずに吐き出すか、うんちに混ざって出てくるでしょう。

ところがニシキヘビは違います。なんと骨を完全に消化し、吸収していたのです。

そしてこのほど、仏モンペリエ大学(University of Montpellier)は、獲物の骨を消化することのできる新しいタイプの細胞をニシキヘビの腸壁に発見したと報告しました。

その細胞はどのように機能するのでしょうか?

研究の詳細は2025年6月25日付で科学雑誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されています。

目次

  • ヘビはどうやって骨を処理していたのか?
  • 新細胞は「余分なカルシウム」を球状にして捨てる袋

ヘビはどうやって骨を処理していたのか?

私たち人間を含む多くの動物は、食べ物の「おいしい部分」だけを食べます。

魚なら身だけ、鳥なら肉だけ。硬くて消化しにくい骨は残したり、排出したりします。

ところがヘビは違います。

特に大型のニシキヘビの仲間は、獲物を頭から丸ごと飲み込んでしまいます。毛も骨も内臓も、すべて一気に体の中へ。

それだけでも驚きですが、もっとすごいのはその後です。

ヘビのうんちには、骨のカケラがほぼまったく出てこないのです。

なぜそんなことが可能なのでしょうか?

これまで研究者たちは、胃酸が強いのか、腸の消化液が特別なのかと考えてきました。

しかし決定的な理由は長年わからず、謎のままでした。

そして今回、ついにその謎を解くカギとなる新しい細胞タイプが発見されました。

発見したのは、モンペリエ大学の生物学研究チームです。

彼らはビルマニシキヘビの腸を詳しく調べた結果、これまで知られていなかった「球状粒子(スフェロイド)」を作る特殊な細胞を見つけたのです。

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新細胞のくぼみの中に形成されたスフェロイド/ Credit: Lignot et al., J. Exp. Biol., 2025

この細胞は、腸の内側にある「エンテロサイト(吸収細胞)」とは別のタイプで、内部に小さなくぼみ(クリプト)を持ち、その中でカルシウムやリン、鉄を含む粒子を作り出す構造になっていました。

まるで、体に入りすぎたミネラルを安全にまとめて処理する“袋”のような働きをしていたのです。

新細胞は「余分なカルシウム」を球状にして捨てる袋

カルシウムは、骨の主成分です。

ヘビにとって、獲物の骨を食べることはカルシウムを効率的に取り込む手段でもあります。

実際にペットのヘビに骨なしの餌ばかりを与えると、カルシウム不足になって骨がもろくなってしまうことがあります。

しかし逆に、骨を丸ごと食べてしまえば、今度はカルシウムを取り込みすぎてしまう危険もあります。

血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎると、臓器や血管にダメージを与えてしまうのです。

ここで活躍するのが、今回新たに発見された「球状粒子(スフェロイド)を作る細胞」です。

この細胞は、骨の消化によって余分に吸収されたカルシウムやリンを、“粒子”として閉じ込めて排出する装置のような役割を果たしていました。

言いかえれば、ヘビは体の中で、“食べ過ぎたミネラルを濃縮して外に出す”ための専用システムを持っていたのです。

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ビルマニシキヘビ/ Credit: ja.wikipedia

チームは新しい細胞の機能を確認するため、ヘビに以下の3種類の異なる餌を与えた後に腸細胞を調べました。

1:丸ごとのネズミを与える通常の食事

2:骨なしの獲物による低カルシウム食

3:カルシウム注射で補った骨なしネズミによる高カルシウム食

その結果、骨なしの餌を与えたときにはカルシウムやリンを多く含む粒子は生成されませんでしたが、丸ごとのネズミまたはカルシウム補給済みの餌を与えた場合には、細胞内のクリプトがカルシウム・リン・鉄の大きな粒子で満たされていたことが確認されました。

この反応は極めてダイナミックで、食べたものに応じて細胞の活動が切り替わることを意味しています。

さらにこの細胞は、ビルマニシキヘビだけではなく、他のニシキヘビ類やボア類、さらには有毒トカゲであるヒラモンスターにも存在することが確認されました。

チームは、この細胞が古い爬虫類の共通祖先から進化してきたのか、それとも骨を食べる習性をもつ種がそれぞれに“独立して”獲得したのかに注目しています。

また、魚の骨を丸ごと食べる海洋捕食者や、骨ばかり食べる鳥「ヒゲワシ」などにも、同じような細胞があるのではないかと推測しています。

もしそうだとすれば、「骨を完全に消化する」という能力は、自然界で何度も進化してきた特殊能力だということになるでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

New “bone-digesting” cell type discovered in pythons
https://www.eurekalert.org/news-releases/1089835

New Cell Discovered in Pythons Allows Them to Completely Digest Bones
https://www.sciencealert.com/new-cell-discovered-in-pythons-allows-them-to-completely-digest-bones

元論文

Diet-dependent production of calcium- and phosphorus-rich ‘spheroids’ along the intestine of Burmese pythons: identification of a new cell type?
https://doi.org/10.1242/jeb.249620

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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