突然ですが、クイズです。
「ナマケモノはオナラをするでしょうか、しないでしょうか?」
おそらく、多くの方は「私たちと同じ哺乳類なんだから、オナラくらいするだろう」と思うかもしれません。
しかし動物の専門家たちはこれまで「ナマケモノはオナラをしない」と考えていたのです。
実際にナマケモノがオナラをする様子も確認されてきませんでした。
ところが今回、ついに水風呂に入っていた赤ちゃんナマケモノがオナラをする瞬間が捉えられ、この問題に終止符が打たれました。
ナマケモノはオナラをするのです!
では、なぜ専門家たちは「ナマケモノはオナラしない」と考えていたのでしょうか?
目次
- 「ナマケモノはオナラしない」通説の背景とは?
- 赤ちゃんナマケモノ、「決定的瞬間」を水中で披露
「ナマケモノはオナラしない」通説の背景とは?
ナマケモノは中南米の森に生息する樹上性の哺乳類です。
彼らは1日の大半を木の上でじっと過ごし、活発に動くことなく、食事も近くの葉っぱに頼っています。
そして専門家たちは「ナマケモノのゆっくりとした消化システムと生活スタイルから、体内で発生するガス量もきわめて少なく、それらは腸から吸収され、血流にのって口から呼気として排出されているのだろう」と考えていたのです。
2017年には、動物のオナラに関する科学的知識をまとめた書籍『Does it Fart?: The Definitive Field Guide to Animal Flatulence(=それってオナラするの?動物の屁のフィールドガイド決定版)』が話題となり、その中でナマケモノは“唯一オナラをしない哺乳類”として紹介されました。
この説は一部の動物学者たちの間でも支持されており、“静かなる消化”を象徴するような存在として、ナマケモノは語られてきたのです。

しかし、そうした理解に違和感を覚える専門家もいました。
「腸内ガスを再吸収して呼吸で出すなんて、ちょっと苦しそうだし効率も悪い。
そこまでして、ナマケモノがオナラを我慢する理由はないんじゃないかと思っていました」と語るのは、野生動物の専門家ルーシー・クックさんです。
そしてその直感は、ある驚くべき映像によって裏付けられることになります。
赤ちゃんナマケモノ、「決定的瞬間」を水中で披露
その映像は2025年7月15日にInstagramで公開されました。
映っていたのは、バケツの水に浸かるホフマンナマケモノ(学名:Choloepus hoffmanni)の赤ちゃんです。
カメラは静かにその様子を追い、そしてある瞬間、小さな“気泡”が水面にポコポコっと現れました。
そう、ナマケモノは明確に“オナラ”をしていたのです。
実際の動画がこちら。
この決定的な瞬間を撮影したのは、野生動物獣医のアンドレス・サエンス・ブラウティガム。
ブラウティガムさんは10年以上にわたりコスタリカの動物保護施設「トゥーカン・レスキュー・ランチ」でナマケモノのケアをしてきました。
そして以前から、ナマケモノが「かなりガスっぽい動物である」ことに気づいていたといいます。
「ナマケモノは発酵消化に優れていて、メタンの発生量も多いです。体重あたりで比べれば、ウシより多くのガスを作るという研究結果もあるくらいです」と彼は語ります。
事実、獣医としてナマケモノの診察をする際、X線にガスが写り込み、超音波検査にも支障が出るほどなのだとか。
さらに水に浮かぶときには、腹部のガスが“浮き袋”のような役割を果たしているそうです。
また野生では葉を主食としていますが、飼育下では野菜を与えることが多く、これが腸内バクテリアの活性をさらに高め、ガスが増える一因になっています。
しかもナマケモノは非常に強靭な食道を持ち、ウシのようにげっぷでガスを逃がすことができません。
嘔吐もできないため、ガスが溜まりやすい構造になっているのです。
こうした理由から、施設ではガス抜きの一環として、温かい水風呂に短時間入れるケアが行われています。
今回の映像も、その“お風呂タイム”の最中に撮影されたものでした。
「匂い? それはもう、“音もなく忍び寄る脅威”という感じです」とブラウティガムさんは苦笑いで語ります。
つまり、「ナマケモノがオナラするかしないか」の論争は一部で盛り上がっていたものの、ナマケモノの専門家はちゃんと彼らのオナラの存在を知っていたようです。
参考文献
Scientists thought sloths didn’t fart. Then one was caught tooting on camera.
https://www.livescience.com/animals/scientists-thought-sloths-dont-fart-then-one-was-caught-tooting-on-camera
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部