「運動は身体に良い」と分かっていても、継続するのが難しいと感じる人は多いのではないでしょうか。
特に、筋トレやランニングのような定番の運動に楽しさを見いだせないと、三日坊主になりがちです。
運動がもっと楽しく感じられるなら、習慣として維持しやすいはずです。
イギリス・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、「性格に合った運動を選ぶことで、楽しさも成果も高まる」という画期的な発見をしました。
研究の詳細は、2025年7月8日付の『Frontiers in Psychology』誌で発表されました。
目次
- 「性格にあった運動」なら続けやすい?
- ビックファイブごとの運動に対する反応が明らかに!
「性格にあった運動」なら続けやすい?
「運動は心身の健康に良い」ということは周知の事実です。
世界保健機関(WHO)も、成人は週に150分以上の運動を行うことを推奨しています。
しかし実際には、世界中の成人の約8割がこの目標を達成できていません。
では、なぜ多くの人が運動を続けられないのでしょうか?
その要因の一つとして、研究者たちは「運動の楽しさ」の違いに着目しました。
そしてその楽しさが、人それぞれの性格によって異なるのではないかと考えたのです。
「性格特性が運動の楽しさや成果、ストレスの軽減度に影響を与える」という仮定を検証するための実験が行われました。

研究チームは今回、心理学で広く用いられている「ビッグファイブ性格特性(人間の性格を5つの因子で分類する心理理論)」を考慮しています。
- 外向性:社交的でエネルギッシュ、刺激を求める傾向
- 神経症傾向:ストレスや不安を感じやすい傾向
- 誠実性:几帳面で責任感があり、計画的に行動する傾向
- 協調性:他人に優しく、協力的で思いやりがある傾向
- 開放性:新しい体験やアイデアに前向きで創造的な傾向
被験者は一般公募から集められた132人で、うち86人が最終的に研究を完了しました。
彼らは、週4回の様々な強度のトレーニング(サイクリング×3回、筋トレ×1回)を8週間続ける介入群と、軽いストレッチだけを行う対照群に分けられました。
運動の効果は、運動の楽しさ、心肺機能、筋力、心拍数の回復力、ストレスレベル、性格特性などの要素から分析されました。
さらに、被験者はスマートフォンアプリと心拍計を使って、運動の記録や体調管理を行いました。
では性格ごとに、運動の楽しさや効果にはどんな違いが生じたでしょうか。
ビックファイブごとの運動に対する反応が明らかに!
研究の結果、性格によって「どの運動を楽しめるか」「どんな成果が得られるか」が大きく異なることが明らかになりました。
外向性
外向性のスコアが高い人ほど、HIIT(高強度インターバルトレーニング)のような負荷の高い運動を「楽しい」と感じやすいことが分かりました。
これらの人々は心肺能力や運動パフォーマンスも高い傾向にあり、刺激的なトレーニングがモチベーションに繋がるようです。
神経症傾向

神経症傾向の高い人はラボ内での運動や観察下でのトレーニングを好まない傾向にあり、低強度かつ自宅で行う運動により快適さを感じていました。
驚くべきは、ストレス軽減効果が最も高かったのがこのグループだったことです。
運動前のストレスレベルは他の人々と同じ場合でも、神経症傾向の高い人たちは運動後のストレスレベルが大幅に低下していたのです。
研究者は、神経症傾向の高い人はストレスに対する感受性が強いため、運動による「気分転換効果」が大きく表れやすいと考えています。
誠実性
誠実性が高い人は、毎週の運動量が多く、筋力トレーニングの成績も優れており、脂肪率も低いという結果が出ました。
計画性が高く、継続力がある性格がそのまま運動習慣に反映された形です。
協調性
協調性が高い人は、激しい運動よりも「長くゆったりと続ける運動」に好感を示しました。
具体的には、景色を楽しみながら心拍数が上がりすぎないサイクリングなどを好む傾向があり、ストレスを感じにくい環境での運動が合っていると考えられます。
開放性
研究チームが予想外だと述べていたのが、開放性の高い人ほど高強度の運動を楽しめないという結果です。
一般的に「新しいことが好き」とされるこの性格ですが、身体的な刺激や負荷の高いトレーニングには必ずしも魅力を感じないようです。
また、開放性の高い人は、運動そのものを楽しむというよりは、知的好奇心や新しい挑戦に動機づけられて運動に取り組む傾向があるようです。
研究チームはこの特性が運動動機に与える影響をさらに掘り下げる必要があると指摘しています。
限界と意義

もちろん、この研究にも限界はあります。被験者の多くが健康志向の強い人であったことから、結果が全人口に当てはまるとは限りません。
また、性格特性の「下位因子」(たとえば粘り強さや不安感受性など)は考慮されていません。
それでもこの研究は、「運動の継続・成果・楽しさ」が性格によって最適化できることを実証した貴重なデータです。
とくに運動嫌いの人や、健康のために始めたいけれどモチベーションが上がらない人にとって、自分の性格にあった運動を知ることは大きなヒントになります。
運動が苦手だと感じてきたとしても、あなたにあった運動があります。
「頑張らなきゃ」と思う前に、まずは自分の性格に合うスタイルから始めてみることが、運動を続ける第一歩になるかもしれません。
参考文献
Personality-based exercise boosts enjoyment and results
https://newatlas.com/health-wellbeing/personality-traits-exercise-engagement/
Matching your workout to your personality might make gym sessions more fun and better for you
https://www.scimex.org/newsfeed/matching-your-workout-to-your-personality-might-make-gym-sessions-more-fun-and-better-for-you
元論文
Personality traits can predict which exercise intensities we enjoy most, and the magnitude of stress reduction experienced following a training program
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1587472
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部