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【上海の歩く街区】432台のロボットが”街区ごと”一時的に移転させる


上海で行われたプロジェクトでは、歴史的建築を壊すことなく保存し、都市再開発を進めるために、ロボットを使って街区全体を一時的に移動させました。1920〜30年代に建てられた「石庫門」様式の建物がある華厳里地区が舞台。都市開発が求められる中、この地域の歴史的価値を守ろうと432台のロボットが用いられ、建物を持ち上げて移動させるという前例のない技術が活用されました。2025年6月には元の位置に戻され、歴史と現代開発の調和を実現しています。なお、この手法の採用にはコストと技術の面で課題もありますが、都市再開発における新たな選択肢として注目されています。

都市再開発のために古い街区で建物を取り壊すことはよくあることです。


高層ビルや地下鉄の整備が進む現代都市において、歴史ある建物が解体の対象となるのは、ある意味で“当たり前”の光景と言えるかもしれません。


ですが中国・上海では、そんな常識を覆すような前代未聞のプロジェクトが完了しました。


なんと「街区ごと歴史的建築を一時的に“歩かせて”移動させ、地下の再開発後に元の場所へ戻す」という、まるでSF映画のような試みが行われたのです。


しかもこの“歩行”を担っているのは、数百台のロボットたちです。




目次



  • 歴史か、未来か――都市開発のジレンマに大胆な解決策
  • 432台のロボットが街区ごと“歩かせる”ことに成功

歴史か、未来か――都市開発のジレンマに大胆な解決策


都市が発展していく過程で、古い建物の取り壊しはしばしば避けられない工程の一つとされてきました。


特に交通インフラや地下空間の整備を行う際には、地上の構造物が障害になることもしばしばです。


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歴史的な建造物の保護か、それとも都市開発か / Credit:Canva

一方で、歴史的価値の高い建築物を保存しようとする声も根強く存在します。


世界中の都市が近代化と歴史保全の間で揺れるなか、いくつかの例では、建物全体を丸ごと移設する手段が取られてきました。


アメリカでは教会の移設、ヨーロッパでは古城の一時移転などが行われています。


しかし、今回中国・上海で行われているプロジェクトは、そのスケールも技術力も前例を見ないものです。


舞台となるのは、上海・静安区に位置する「華厳里」という歴史地区。


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上海の「華厳里」 / Credit:Shanghai Municipal People’s Government

ここには1920〜30年代に建てられた「石庫門」様式のレンガと木造の3棟の建物があり、それぞれが中国近代の生活文化と建築様式を象徴する存在です。


この地域は、地下鉄2号線、12号線、13号線の接続を含むインフラ整備と、地下商業空間の建設のために再開発が必要となっていました。


しかし、華厳里はそのままにしておきたい――。


そこで採用されたのが、「ロボットで街区ごと建物を一時的に移動させ、再開発後に元の位置に戻す」という画期的な方法だったのです。


432台のロボットが街区ごと“歩かせる”ことに成功


このプロジェクトは2023年後半に始まっており、既に華厳里を西に約48m、北に約46m移動させています。


そして2025年5月19日、華厳里を元に戻すプロジェクトが始まりました。


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数百台のロボットにより街区ごと移動させることに成功 / Credit:Shanghai Municipal People’s Government

総面積4030平方メートル、重さ7500トンにも及ぶ3棟の建物はそれぞれ、432台のクローラー式移動ロボットによって持ち上げられ、移動を開始しました。


これらのロボットはジャッキアップ機能と方向制御を備えており、建物を傷つけることなく、1日あたり平均10メートルのペースで“歩かせる”ように移動させていきます。


移動ルートの設計には、3Dスキャン技術とBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が活用され、地中構造物との干渉を徹底的に回避。


また、自動で動く掘削ロボットやベルトコンベアなどが使われ、全体としてはまるで“動く工場”のような姿になっています。


これらのロボットはおよそ3週間かけて華厳里を元の位置に戻す作業を続けました。


そして2025年6月7日、ついに華厳里は元の位置に戻り、プロジェクトは見事に完了しました。


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歴史的な街区を保護しつつ、都市開発の実施に成功 / Credit:Shanghai Municipal People’s Government

このプロジェクトのメリットは明らかです。


歴史的建築を一切壊すことなく地下の再開発が可能となり、都市の景観や文化的アイデンティティが保持できるのです。


一方で、懸念点がないわけではありません。


大規模なロボットシステムの運用にはコストもかかり、失敗すれば文化財の損壊にもつながりかねません。


また、すべての都市がこのような高度な技術を運用できるわけではなく、導入には慎重な検討が求められます。


それでも、「街全体が歩く」というこの大胆なアイデアが実現されたことで、これからの都市再開発における「破壊せずに創る」という選択肢が現実のものとして示されました。


まさに「歩く歴史」といえる出来事が上海で起きたのです。



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参考文献

China temporarily relocates an entire city block, buildings and all
https://newatlas.com/architecture/shanghai-china-shikumen-huayanli-robots-relocated/

Shanghai’s shikumen complex ‘walks’back to original site
https://english.shanghai.gov.cn/en-Latest-WhatsNew/20250605/67d7437f7eac465a99f88f27b42e5ace.html

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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