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脳波の「ゆらぎ」が「ひらめき」につながっていた


ハンブルク大学の研究によると、短時間の昼寝が問題解決の「ひらめき」を引き起こす可能性が高いことが分かりました。特に、N2睡眠という深い眠りに到達した場合、脳波が不規則に「ゆらいだ」状態になり、目覚めた後に新しいアイデアが浮かびやすくなることが示されています。この研究は、従来の浅い眠りがひらめきを促すという説を覆し、深い眠りの重要性を示唆しています。睡眠中の脳の情報整理が、ひらめきを生む基盤となっている可能性があります。

短い昼寝の後に、「そうか!」という鮮やかなひらめきを体験したことがある人は多いかもしれませんが、その秘密は浅いウトウトした眠りではなく、もう一段階深い眠りにあるかもしれません。

ドイツのハンブルク大学(Universität Hamburg)などで行われた行った研究によって、「ひらめき」の準備には脳派が「ゆらぎ」のような不規則な状態に変化することが重要である可能性が示されました。

また「実験」でもわずか20分の短い昼寝でも、脳が少し深い睡眠段階(N2睡眠)に入ると、この「ゆらぎ」が発生し、目覚めた後に問題解決に関する「ひらめき」を得る可能性が大幅に高まることが示されました。

なぜ不規則な「ゆらぎ」が「ひらめき」を起こす土台になるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年6月26日に『PLOS Biology』にて発表されました。

目次

  • なぜ人は寝ると良いアイデアが浮かぶのか?
  • 深い睡眠が「ゆらぎ」を起こしている
  • 「ひらめき」の根源は不規則な「ゆらぎ」

なぜ人は寝ると良いアイデアが浮かぶのか?

なぜ人は寝ると良いアイデアが浮かぶのか?
なぜ人は寝ると良いアイデアが浮かぶのか? / Credit:Canva

勉強や仕事で、いくら考えても全然アイデアが浮かばず、困った経験はありませんか?

それが突然、ふとした拍子に「そうか、そうだったのか!」と解決方法がひらめくことがあります。

この体験は心理学では「アハ体験(Aha-Erlebnis)」「エウレカ(Eureka moment)」などとも呼ばれます。

名前が多様なのはひらめきの瞬間がどの文化でも名付けるに値する貴重で特別な瞬間だからでしょう。

そしてこの「ひらめき」には不思議な特徴があります。

突然それが起きると、直前まで苦戦していた問題が急に簡単に解けるようになり、認知テストの成績なども一気に向上します。

しかしその瞬間がいつ訪れるのかは全く予測できません。

また、同じ問題に取り組んでも、ひらめきを経験する人とそうでない人がいます。

一体、この「ひらめき」はどのようにして生まれるのでしょうか?

科学者たちはこの謎を100年以上前から解き明かそうとしていますが、まだ明確な答えは得られていません。

昔から、「一晩寝て考えたらいい」とよく言われますが、睡眠は本当にひらめきを助けるのでしょうか?

実際、睡眠が記憶を定着させたり、記憶の整理や再編を行ったりすることは、多くの研究で証明されています。

この睡眠中に脳が情報を整理する働きを「インキュベーション効果(熟成効果)」と言い、睡眠が問題解決を後押しする可能性に注目が集まっています。

しかし、睡眠がひらめきを引き出すという説には矛盾もあり、明確な結論が出ていないのが現状です。

特に最近のある研究は、「完全に眠る直前の浅い眠り(N1睡眠)」こそが、ひらめきをもたらす特別な状態だと報告しました。

この研究が広まったことで、「ウトウトしている時に良いアイデアが浮かぶ」という考え方が定着しつつあります。

ところが今回、ドイツの研究チームが注目したのは、それよりもう少し深い「N2睡眠」という状態でした。

睡眠には実はいくつかの段階があり、N1睡眠よりさらに深いN2睡眠こそが、ひらめきを生み出すのではないか、と研究者たちは考えました。

浅い眠りと深い眠り、ひらめきを呼ぶのは一体どちらなのでしょうか?

研究チームはこの謎を解明するために、ある実験に取り組みました。

深い睡眠が「ゆらぎ」を起こしている

「20分」の魔法:深い睡眠が「ひらめき」を起こす秘密とは?
「20分」の魔法:深い睡眠が「ひらめき」を起こす秘密とは? / Credit:Canva

浅い眠りと深い眠り、ひらめきを呼ぶのは一体どちらなのでしょうか?

その答えを得るため研究者たちはまず、若者90人にある簡単なゲームをプレイしてもらいました。

これは画面上を動くたくさんの点を見ながら、その動きに応じてボタンを押すというシンプルな課題でした。

しかし、実はこのゲームには「隠された近道」が仕組まれていました。

この「近道」に気づけば、ゲームの難易度が急に下がり、簡単に正解できるようになっています。

ただし参加者にはこの近道の存在は一切知らされておらず、自分自身で突然「あ、これだ!」と気づくかどうかが試されました。

参加者は最初にしばらくゲームに挑戦した後、20分間の短い昼寝をとりました。

その間、研究者は参加者の脳波を測定し、眠りの状態を詳しくチェックしました。

そして、完全に眠っていない状態(起きていたグループ)、浅い眠り(N1睡眠)の状態、もう少し深い眠り(N2睡眠)の状態という、3つの睡眠状態のどれに入ったかを分類しました。

昼寝の後、参加者は再びゲームに挑戦しました。

果たして昼寝の後、「近道」に気づいた人はどのくらいいたのでしょうか?

結果を見ると、昼寝をとった人たちの約70.6%がゲームの隠れた近道に気づくことができました。

特に重要だったのは、眠りの深さによって大きな差が出たことです。

N2という深い眠りに到達したグループの参加者では、実に約85.7%もの人が「アハ!」とひらめきを体験して、近道を発見しました。

一方、浅い眠り(N1)の人では約63.6%、まったく眠らず休憩していた人では約55.5%と、深い眠りのグループに比べて低い結果でした。

つまり、従来よく言われていた「ウトウトした浅い眠りがひらめきを促す」という考え方とは異なり、「もう一段階深い眠り(N2睡眠)」のほうが明らかにひらめきを生み出しやすかったのです。

さらに興味深いのは、研究者たちが参加者の脳波を細かく分析した結果、ひらめきを得るかどうかを予測する重要な指標を発見したことです。

それは脳波の中に現れる「波」ではなく、脳波全体に見られる「傾き」(スペクトルスロープ)という特徴でした。

簡単に言えば、睡眠中の脳活動が規則正しい波ではなく、不規則でランダムな活動になっているほど、この傾きが大きくなります。

そして、この「傾き」が大きければ大きいほど、目覚めた後に「ひらめき」が起こりやすかったのです。(※考察は次ページを参照)

この結果から、脳が深い眠りの中で情報を整理整頓し、新たな発想を生み出すための準備をしている可能性が示唆されます。

「ひらめき」の根源は不規則な「ゆらぎ」

「ひらめき」の正体は不規則な「ゆらぎ」
「ひらめき」の正体は不規則な「ゆらぎ」 / Credit:Canva

今回の研究によって、「短時間でも、少し深い睡眠(N2睡眠)に入ることが、ひらめきを引き出す鍵である」可能性が示されました。

これまで広く知られていた「ウトウトするような浅い眠りが創造的なひらめきを促す」という説に対して、全く新しい見方を提示する結果です。

なぜ今回、このように以前の研究とは異なる結果になったのでしょうか。

研究チームはその理由のひとつとして、今回使われた「問題」の性質が影響した可能性を指摘しています。

以前の研究では、浅い眠り(N1睡眠)が数学的な問題解決に有効だと報告されましたが、今回の課題は視覚的な問題でした。

つまり、問題の種類によって、必要とされる睡眠の深さや脳の働きが異なるのかもしれません。

今回の研究が明らかにしたもう一つの重要なポイントは、深い睡眠が脳の中を整理整頓している可能性です。

私たちの脳は、眠っている間に一日の情報を整理し、記憶として定着させたり不要な情報を取り除いたりしています。

特にN2睡眠のときには、脳内でシナプス(神経細胞同士のつながり)が調整され、頭の中が一旦すっきりと整理されると考えられています。

その結果、目覚めた時にはまるで「頭がリセットされたような状態」になっている可能性があります。

この状態で再び問題に取り組むことで、私たちはそれまで気づかなかった隠れた答えを見つけ出しやすくなるのかもしれません。

さらに研究者たちは、脳波に現れる「傾き」という新しい指標が、この脳内の整理の度合いを示す可能性を指摘しています。

脳波が規則的な波ではなく、不規則でランダムな状態(傾きが大きい状態)になると、脳内の情報整理がより活発になり、目覚めた後のひらめきを促しているのではないかと考えられるのです。

「ゆらぎ」のような不規則な脳波が「ひらめき」を生む理由

私たちの脳は起きている間、たくさんの情報を取り込み続けています。その中には役立つ情報もあれば、あまり役に立たない情報も含まれています。そのままでは、脳の中は情報でいっぱいになり、混乱してしまいます。そんな脳内の混乱を整理する重要な時間が「睡眠」なのです。

眠っている間、脳は昼間に取り込んだ情報を整理し、不要な情報を取り除き、大切な情報だけを残します。特に「深い眠り」(専門的にはN2睡眠)に入ると、脳の中の整理作業が本格化すると考えられています。

ここで面白いのが、脳の働きが活発になって情報を整理するとき、脳波が「規則的な波」ではなく、「ゆらぎ」のようなランダムで不規則なパターンになることです。この不規則な脳波の状態を専門的には「スペクトルスロープが急になる」と表現しますが、簡単に言えば、脳があえてランダムで不規則な状態になることで、自由に情報を動かしやすくしているのです。

このような状態になると、脳は思い切って不要な情報を取り除き、本当に役立つ情報を新しい形でつなぎ直します。そのため、目覚めた後には今まで気づかなかった視点やアイデアに突然気づき、「ひらめき」が生まれることがあります。

つまり、睡眠中の脳波の不規則な「ゆらぎ」は、脳内の整理作業を助け、目覚めた後の「ひらめき」を生み出すための大切な準備をしている痕跡の可能性があるのです。睡眠を大切にすることで、私たちはもっと豊かな発想や問題解決の力を手に入れられる可能性があるのです。

日常生活の中でも、「短い昼寝をすると頭がすっきりして、新しいアイデアが浮かんだ」という経験を持つ人は少なくありません。

今回の研究は、そうした経験を科学的に裏付ける可能性があります。

現代社会では、多忙な毎日の中で睡眠が十分にとれない人が増えていますが、今回の研究は、睡眠を軽視せずに、積極的に短い昼寝を取り入れることが、問題解決やクリエイティブなアイデアを生み出すために役立つ可能性を示しています。

今後は、睡眠をもっと戦略的に活用して、より豊かな発想力や創造力を手に入れることができるかもしれません。

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元論文

N2 sleep promotes the occurrence of ‘aha’ moments in a perceptual insight task
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003185

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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