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”DNAの接着剤”タンパク質が発見される!老化関連の脳疾患の治療へ


オーストラリア・マッコーリー大学の研究チームは、PDI(Protein Disulfide Isomerase)というタンパク質がDNAの損傷を修復する役割を果たすことを明らかにしました。通常は細胞内の小胞体でタンパク質の折り畳みを補助する酵素ですが、今回の発見により、細胞核で損傷したDNAを修復することが示されました。特に、DNAの「二本鎖切断」修復において、PDIの酸化還元活性が重要な働きをしていることがわかりました。これにより、アルツハイマー病やALSなどの神経変性疾患の新しい治療戦略につながる可能性が期待されています。また、PDIはがん細胞でもDNA修復に関わり、抗がん剤の効果を減少させることがあり、逆にその働きを抑えることで治療効果を高める方法も考えられています。

紫外線や環境ストレス、あるいは代謝の副産物によって、細胞の設計図であるDNAは日々小さな傷を負っています。

こうした損傷が修復されないまま蓄積すると、老化や様々な病気の原因になります。

このたび、オーストラリア・マッコーリー大学(Macquarie University)の研究チームは、あるタンパク質が細胞内で“接着剤”のような働きをして、DNAを修復していることを明らかにしました。

このタンパク質「PDI(Protein Disulfide Isomerase)」は、これまで別の役割が知られていましたが、今回の研究でまったく新しい機能が発見されたのです。

研究成果は2025年5月15日付の『Aging Cell』誌に掲載されました。

目次

  • DNAの接着剤の役割を果たすタンパク質が見つかる!
  • PDIは二重スパイのよう。DNAの損傷を修復し、がん治療を妨害する

DNAの接着剤の役割を果たすタンパク質が見つかる!

人間の細胞は、常に外部と内部からのダメージにさらされています。

特にDNAは非常に繊細で、1日に数千か所も損傷を受けることが分かっています。

このDNA損傷の中でも特に深刻なのが「二本鎖切断(DSB)」です。

これはDNAの両鎖が同時に切断されるもので、適切に修復されなければ細胞の死、あるいはがん化を招く原因となります。

多くの細胞は分裂を繰り返すことで新しい細胞に置き換えられますが、神経細胞のように分裂しない細胞では、こうした損傷が蓄積する一方です。

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DNAの損傷を修復するには / Credit:Canva

このことが、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患と深く関わっていると考えられています。

そうした中で今回注目されたのが「PDI(Protein Disulfide Isomerase)」または「プロテインジスルフィドイソメラーゼ」というタンパク質です。

PDIはこれまで、小胞体という細胞内の構造で、他のタンパク質の折り畳みを補助する酵素として知られていました。

ところが、今回のマッコーリー大学の研究によって、PDIが細胞の核へと移動し、損傷したDNAの修復に直接関与していることが明らかになったのです。

まるで接着剤のように振る舞いますが、実際にはPDIの酸化還元活性がDNA修復の化学反応を促進しているのです。

この発見は、老化に伴って進行する神経変性疾患の新しい治療戦略に繋がる可能性を秘めています。

では、具体的にどんな研究が行われたのでしょうか。

PDIは二重スパイのよう。DNAの損傷を修復し、がん治療を妨害する

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PDIは接着剤のように、DNAの損傷を修復できる / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

研究の中で、チームはまず、ヒトのがん細胞とマウスの神経細胞においてPDIの発現を抑制する実験を行いました。

その結果、DNAに損傷を与えても、PDIが存在しないと修復効率が著しく低下することがわかりました。

次に、PDIを再導入すると、修復機能が回復することが確認されました。

さらに、PDIはDNA損傷の目印と同じ場所に集まり、損傷修復に関わっている様子が顕微鏡レベルで観察されました。

さらに、生きたゼブラフィッシュを用いた研究では、PDIを過剰に発現させたゼブラフィッシュでは、加齢に伴うDNA損傷の蓄積が抑えられることがわかりました。

これらの成果は、PDIが生体内で実際にDNAを修復していることを強く示唆しています。

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加齢と関連した脳疾患の予防や治療に役立つかもしれない / Credit:Canva

今後、研究チームはこのPDIを使った治療法の開発を進めていく予定です。

特に、PDIを脳の神経細胞に送り届け、損傷修復を促すというアプローチが注目されています。

この方法が確立されるなら、アルツハイマー病やALSなど、今は根治が難しいとされる病気の進行を止める手段になるかもしれません。

また、PDIはがん細胞においても働いており、抗がん剤の効き目を弱める要因となることが知られています。

そのため、がん治療では逆にPDIの働きを抑えることで、治療効果を高めるという逆転の応用も考えられているのです。

研究チームは、次のようの述べています。

PDIは二重スパイのようです。

健康な細胞ではDNAを修復し、病気の予防に役立ちます。

しかしがん細胞では、PDIが乗っ取られ、体ではなく腫瘍を守ってしまうのです。

だからこそ、PDIを完全に理解することが非常に重要だと言えます」

老化、神経疾患、がん——これらの治療の鍵を握っているかもしれないPDI。

その“DNA接着剤”としての力が、私たちを病気から救ってくれる日が来るかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Anti-aging “glue”naturally repairs damaged DNA to protect brain cells
https://newatlas.com/aging/anti-aging-cells/

DNA ‘glue’could help prevent and treat diseases triggered by ageing
https://lighthouse.mq.edu.au/article/june-2025/dna-glue-could-dhelp-prevent-and-treat-diseases-triggered-by-ageing

元論文

The Redox Activity of Protein Disulphide Isomerase Functions in Non-Homologous End-Joining Repair to Prevent DNA Damage
https://doi.org/10.1111/acel.70079

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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