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【8.6km先でポップコーンを作る】DARPAがワイヤレス電力伝送の新記録を樹立


2025年5月、DARPAは8.6kmの距離に800Wの電力をワイヤレスで送信することに成功しました。これは、レーザーによる電力伝送技術を用いた POWER(Persistent Optical Wireless Energy Relay)プログラムの一環での成果で、ポップコーンマシンも稼働可能な水準です。この技術は軍事現場や災害支援での電力供給課題を解決する可能性があります。PRAD装置を使い、レーザー光を電力に変換する仕組みは変換効率が約20%ですが、将来の効率向上が期待されています。さらなる実用化として、ドローンや航空機を中継に活用し、長距離無線電力網の構築が模索されています。この技術の民間応用として、災害時の電力供給や遠隔地へのインフラ整備、無人機への給電が期待されます。将来的には、200kmの距離に10kWのエネルギー供給が目標です。

張り巡らされた電線。長時間の充電待ち。

これらはいずれ過去のものになるかもしれません。

アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は、2025年5月に実施した実験で、地上から8.6km先に800Wの電力をレーザーで送信することに成功しました。

これは、これまでの限界を大きく超えたワイヤレス電力伝送の新記録です。

そして、この技術を利用して遠くに離れた場所でポップコーンを作ることにも成功しています。

この驚異的な成果は、「POWER(Persistent Optical Wireless Energy Relay)」プログラムの一環として行われたものであり、2025年5月29日に公式に発表されました。

目次

  • DARPAが8.6kmのワイヤレス電力伝送に成功!ポップコーンも作れる
  • 電力伝送の新記録はどのように可能になったのか?将来はドローンでの中継も

DARPAが8.6kmのワイヤレス電力伝送に成功!ポップコーンも作れる

戦場や災害現場において、安定した電力の確保は生死を左右する要素となります。

にもかかわらず、最後の数マイルで電力を届ける手段が乏しく、兵士が燃料を手で運ぶような原始的な方法に頼らざるを得ないことも珍しくありません。

このような「ラストマイル問題」は、現代の軍事・人道支援の現場における大きな課題です。

こうした状況を打破すべく、DARPAは光、すなわちレーザーを用いた電力伝送に注目しました。

では、インターネットがケーブルからWi-Fiへと進化したように、電力も”無線化”することは可能なのでしょうか。

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従来の電力伝送と今回の電力伝送の比較 / Credit:DARPA

DARPAの「POWER」プログラムは、この問いに真正面から挑戦するものです。

具体的には、レーザー光線によって離れた地点に電力を送信する新技術の実用化を目指しています。

これにより、将来的には「電線のいらない電力網」が実現する可能性があるのです。

今回の実験では、800Wという家庭用電化製品も動かせるレベルの電力を、8.6kmもの距離に30秒間レーザーで届けることに成功しました。

これは、これまでの「230Wを1.7km」、あるいは「もっと低い出力で3.7km」の伝送という過去の記録を大きく上回る快挙です。

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8.6km先のポップコーンも作れる / Credit:DARPA

加えて、実験中にはレーザー送電によってポップコーンマシンを作動させるというパフォーマンスも行われ、視覚的にも成功が示されました。

これは映画『Real Genius』へのオマージュであり、この映画ではレーザーでポップコーンを作る象徴的なシーンが登場します。

無線で電力を送り、8.6kmも離れた場所でポップコーンが出来上がるなんて夢のある話でしたが、今やそれは現実なのです。

では、DARPAはいったいどうやってワイヤレス電力伝送の新記録を樹立したのでしょうか。

電力伝送の新記録はどのように可能になったのか?将来はドローンでの中継も

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PRADの受信機 / Credit:DARPA

この革新的な送電は、PRAD(Power Receiver Array Demo)と呼ばれる装置によって実現されました。

PRADは、球体構造を持つ装置で、小さな開口部からレーザー光を内部に取り込みます。

取り込まれたレーザーは、内部のパラボラミラーで拡散・反射され、複数の高感度な太陽電池パネルに照射されます。

これにより、レーザー光は再び電気へと変換され、外部機器へと供給されるのです。

変換効率は現在のところ約20%に留まっていますが、DARPAはこれはあくまで初期段階のものであり、今後の技術改良により大幅な効率向上を目指しています。

そして現在はまだ地上間での送電に留まっていますが、DARPAはすでに次なるステップに着手しています。

それが、「空中中継プラットフォーム」の導入です。

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ドローンや航空機を中継して電力伝送する計画 / Credit:DARPA

ドローンや高高度飛行機に送電中継装置を搭載し、大気中の厚い層の影響を軽減しながらレーザーをリレー形式で送ることで、より効率的かつ障害物のない電力伝送を実現する計画です。

この構想が現実化すれば、最終的には125マイル(200km)先に10kWのエネルギーを送信できるシステムが確立される見込みです。

DARPAのPOWERプログラムマネージャーであるポール・ジャフェ氏は、「今回のデモンストレーションは、電力ビーム技術の限界に関する誤解を打ち破ったものである」と語っています。

この技術が今後、軍事的な枠組みを超えて、災害時の緊急電源供給や遠隔地へのインフラ整備、さらには無人航空機(UAV)や地上センサーへの給電など、さまざまな民間分野にも応用されていくことが期待されます。

たとえば、地震で孤立した山間部に対してドローン経由で医療用発電機を稼働させるといった利用も想定されます。

人類が長らく電線に縛られてきた歴史を終わらせる可能性を秘めた、DARPAのレーザー電力伝送技術。

この先にあるのは、コードの絡まない、自由で柔軟なエネルギー社会かもしれません。

そして願わくば、この技術が戦争ではなく、平和で便利な世界のために使われて欲しいものです。

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参考文献

DARPA sets new records for sending power wirelessly
https://newatlas.com/military/darpa-sets-new-records-sending-power-without-wires/

DARPA program sets distance record for power beaming
https://www.darpa.mil/news/2025/darpa-program-distance-record-power-beaming

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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