遠く離れた建物にある小さな文字を、こちら側から「読む」ことができるとしたら?
そんなスパイ映画のような技術が、いま現実になりつつあります。
中国科学技術大学(USTC)の研究チームが開発したのは、なんと1.36キロメートルも離れた場所にある幅たった3ミリの文字を読み取ることができるレーザー装置。
これは従来の光学カメラでは到底不可能だったレベルの超高精度です。
一体どのようにして文字を読み取るのでしょうか?
研究の詳細は2025年5月9日付で科学雑誌『Physical Review Letters』に掲載されています。
目次
- 光の「ゆらぎ」を可視化する?
- 1キロ先から3ミリの文字を画像化する!
光の「ゆらぎ」を可視化する?
ふつう、遠くのものを見るには「レンズ」や「拡大」が必要です。
高性能な望遠鏡やカメラは、この原理でできています。
でも、今回の技術はちょっと違います。
研究チームは、カメラの代わりに「赤外線レーザー」と「2台の望遠鏡」を使いました。
このレーザーは、まっすぐに飛んでターゲット(たとえば遠くのビルの窓)を照らし、その反射光を望遠鏡で受け取ります。
しかし、その反射光をただ写真に撮るわけではありません。
なんと「光の強さがほんの少しだけランダムに変化する」という現象――いわば「光のゆらぎ」――に注目して、それをもとに画像を再構成するのです。
ちょっと想像してみてください。
ふたつのマイクで同時に雷の音を録音し、その音の微妙なズレから「どこでどのように雷が光ったか」を割り出すようなイメージです。
今回の技術は、その「視覚的な光バージョン」だと考えるとわかりやすいかもしれません。

しかも、この装置はただの赤外線レーザーではありません。
研究チームはレーザーを8本に分けて、それぞれ少しずつ違う角度からターゲットに照射しました。
その結果、大気などで起こる「光のかすれ」がちょうどいい具合にバラバラになり、逆に画像化に役立ったのです。
1キロ先から3ミリの文字を画像化する!
この装置の性能は驚くべきものでした。
実験の結果、なんと1.36キロ先にある建物の壁に貼った3ミリ幅のアルファベットの文字がくっきりと画像化されたのです。
3ミリといえば、米粒より小さいサイズ。しかもそれを遠く離れたビルから見ているような距離から読み取るのです。
比較のために、望遠鏡1台だけで同じ距離の文字を見ようとすると、解像度は42ミリ――つまり文字が14倍も大きくないと読めませんでした。
今回の技術は、それだけ解像度を高める「裏技」のような効果があるのです。
しかもこの手法、単なる拡大ではありません。
文字の反射光の中に含まれる「ランダムな強さのゆらぎ」を巧みに読み取り、それをパズルのように組み合わせて、元の形を再構成しています。

研究チームは今後、このシステムにAI(人工知能)を組み合わせて、さらに正確に文字や形を判別できるようにする計画もあるそうです。
将来的には、宇宙ゴミの監視や、災害現場での遠距離観測、さらには農業や動物調査など、さまざまな分野での応用が期待されています。
参考文献
This Laser Breakthrough Can Read Text on a Page From a Mile Away
https://www.sciencealert.com/this-laser-breakthrough-can-read-text-on-a-page-from-a-mile-away
Interferometer Device Sees Text from a Mile Away
https://physics.aps.org/articles/v18/99
元論文
Active Optical Intensity Interferometry
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.180201
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部