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人間の脳は発光していた!「脳が放つ光」の観測に初成功


近年、カナダ・アルゴマ大学の研究チームは、人間の脳が微弱な光を発していることを頭蓋骨の外から初めて観測しました。この光は「超微弱光子放出(UPE)」として知られ、生体内の代謝活動、特に酸化反応により発生する現象です。研究は健康な20人の成人を対象に、特別な装置を使って脳波とUPEを同時に測定しました。結果、脳の電気的信号(脳波)とUPEが連動し、特に視覚野と聴覚野の活動と同期していることが判明しました。この技術は、将来的に脳の状態を低コストかつ非侵襲的にモニタリングする新しい方法となる可能性があります。

人間の脳が「光を放っている」と言われたら、みなさんは信じるでしょうか?

もちろん、蛍のように強い光を発しているわけではありません。

しかし専門家らは「目に見えないほど微弱な光が、私たちの脳から常に放たれている」というのです。

この現象は、かつては神秘主義的な話として片付けられていました。

ところがカナダ・アルゴマ大学(Algoma University)の最新研究で、ついにこの「脳の光」を頭蓋骨の外から観測することに成功したのです。

脳の内側では何が起きているのでしょうか?

研究の詳細は2025年3月21日付で科学雑誌『iScience』に掲載されています。

 

目次

  • あらゆる生物は常に「光」を放っている?
  • 脳が発する「光」の検出に初成功!

あらゆる生物は常に「光」を放っている?

ホタルや深海魚など、生物の中には自ら強い光を放つ「生物発光」の能力を持つものがいます。

しかし実は、光を放っているのは彼らだけではありません。

私たち人間も、いや、それ以外の植物や動物も極めて微弱な光を常に放っているのです。

これらは目に見えないほど弱い光であることから「超微弱光子放出(Ultraweak Photon Emission, UPE)」と呼ばれています。

UPEは細胞の代謝活動、特に酸化反応によって発生する副産物の一種です。

言い換えれば、私たちが生きて呼吸しているだけで、体内では“目に見えない光”が絶えず生まれているのです。

この現象自体は1920年代から知られており、玉ねぎの根が発する「ミトジェネティック放射(成長を促す光)」として最初に記録されました。

以来、UPEはあらゆる植物や動物の細胞からも確認されており、生体内の酸化ストレスや老化、さらにはがんの診断補助にも応用が期待されてきました。

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Credit: canva

中でもとくに興味深いのが「脳」です。

脳は体の中で最も代謝が活発な臓器のひとつであり、神経活動に伴って活性酸素が多く発生します。

理論的には、脳からも大量のUPEが発生しているはず――なのですが、これまで人間の脳からUPEを検出することは技術的に困難でした。

そんな中、アルゴマ大学を中心とする研究チームが、ついに“その一筋の光”を捉えたのです。

脳が発する「光」の検出に初成功!

チームは今回、20人の健康な成人を対象に、特殊な装置を用いた実験を実施しました。

被験者は真っ暗な部屋に座り、頭には脳波計を装着。

その周囲には、光電子増倍管(PMT)と呼ばれる極微弱な光を検出する装置が配置されました。

そして被験者には、目を開ける/閉じる、あるいは音楽(120BPM)を聴くといったシンプルなタスクを行ってもらい、その間のUPEと脳波の変化を同時に測定したのです。

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調査のイメージ図/ Credit: Hayley Casey et al., iScience(2025)

結果は驚くべきものでした。

まず、脳からのUPEは背景光(周囲の空気中のノイズ)とは明確に異なる変動パターンを持つことが判明したのです。

とくに後頭部(視覚野)と側頭部(聴覚野)から検出された光は、安静時でも一定のリズムと変動性を示し、他の部位とは異なるスペクトル的特徴を持っていました。

さらに目を閉じたときに増える「アルファ波」と呼ばれる脳波の活動と、UPEの強さが同期していることも発見されました。

これはつまり、脳の電気的な信号(脳波)と、化学的な代謝反応(UPE)が連動していることを意味します。

この成果は、従来のfMRIやPETスキャンのような「重装備で高コスト」な装置を使わずとも、非侵襲・低刺激で脳機能の状態を“光”から読み取る可能性を示すものです。

研究者たちはこの新しい手法を「光脳波記録(photoencephalography)」と名付けました。

将来的には、この技術がうつ病やてんかん、認知症などの診断や、注意力や感情状態のリアルタイム把握にも応用される可能性があります。

私たちはこれまで、脳の活動を「電気信号」や「血流変化」から読み解いてきました。

しかし今回の研究は、それに加えて「光」というまったく新しい次元の情報を使えるかもしれないことを示しました。

もちろん、まだ課題は多く残されています。

検出できる光は非常に弱く、ノイズとの区別や個人差の評価も必要です。

しかし、もしこの“脳の光”がより正確に読み取れるようになれば、私たちは未来において、頭の中の思考や感情、健康状態を「発光のリズム」から知ることができるようになるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Your Brain Emits a Secret Light That Scientists Are Trying to Read
https://www.sciencealert.com/your-brain-emits-a-secret-light-that-scientists-are-trying-to-read

元論文

Exploring ultraweak photon emissions as optical markers of brain activity
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112019

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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