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人工廃棄物が異常なスピードで「新種の岩石」と化していた


イングランド北西部の海岸で、鉄鋼産業から廃棄されたスラグが、わずか数十年で“岩石”へと変化していることが判明しました。グラスゴー大学の研究によれば、スラグなどの人工廃棄物が最短で35年で岩石化するこの現象は「急速人為破砕的岩石サイクル」と命名されています。研究では、スラグがカルシウムや鉄などと反応し、自然界の堆積岩に似た物質を生成していることが確認されています。これにより、海岸の形状や生態系に影響を与える可能性も示唆され、地質時代の新たな地層としての役割が考えられています。この現象は、地球が新たに獲得した「第4の岩石サイクル」として注目されています。

イングランド北西部の海岸で、信じがたい現象が起きていました。

かつて鉄鋼産業で廃棄されたスラグ(金属を精錬する過程で出る副産物)が、わずか数十年のうちに“岩石”へと変化していたのです。

これまで、岩石は数千年あるいは数百万年という長い年月をかけて形成されるものと考えられてきました。

しかし英グラスゴー大学(The University of Glasgow)の最新研究で、人間が生み出した廃棄物は最短でわずか35年という異常なスピードで新しいタイプの岩石に変わっていたことが明らかになったのです。

この異常現象は、研究者たちによって「急速人為破砕的岩石サイクル(rapid anthropoclastic rock cycle)」と命名されています。

研究の詳細は2025年4月10日付で科学雑誌『Geology』に掲載されました。

目次

  • 鉄鋼スラグが35年で岩石と化していた
  • 人工廃棄物が「未来の地層」になる?

鉄鋼スラグが35年で岩石と化していた

この驚くべき発見の舞台となったのは、イングランド・カンブリア州のデアウェント・ハウ海岸です。

ここには19世紀から20世紀にかけて鉄鋼を生産していた工場群があり、その副産物であるスラグが2700万立方メートルも堆積されていました。

やがてこのスラグの山は風雨や波によって削られ、まるで自然の崖のような姿を見せ始めました。

しかし、研究者たちがその崖に埋め込まれた人工物を詳細に調べたところ、信じがたい事実が判明します。

1934年の硬貨と、1989年以降でなければ製造されていないアルミ缶のタブが、すでに岩石として固まっていたのです。

これにより、最短でも35年以内にスラグが岩石化していたことが確定しました。

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画像分析されたスラグ岩石/ Credit: University of Glasgow –Industrial waste is turning to rock in just decades, research reveals(2025)

この“新種の岩石”を構成していたのは、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガンといった化学的に活性な元素でした。

これらが海水や空気と反応することで、方解石や針鉄鉱(しんてっこう)などの天然セメント物質を生成していたことが判明しています。

これらは自然界でも堆積岩の形成に関与する鉱物ですが、通常は何千年もの時間を要します。

ところがこのスラグでは、同じ現象がわずか数十年間で完了していたのです。

研究チームはこの現象を「地球が新たに獲得した“人工岩石のサイクル”」と位置づけました。

しかもこれは特殊な例ではなく、世界中の鉄鋼スラグ堆積地で同様の現象が起きている可能性が高いとされています。

人工廃棄物が「未来の地層」になる?

この研究を主導したのは、グラスゴー大学の地質学者アマンダ・オーウェン博士です。

彼女は「このプロセスは、地質記録としての“未来の岩石”が、かつてないスピードで地球に刻まれていることを示している」と述べています。

チームはさらに、電子顕微鏡、X線回折などを用いた高精度分析により、これらの“人為岩石”が自然の岩石と非常によく似た構造を持ち、すでに海岸の形状や生態系に影響を及ぼし始めていることを確認しました。

たとえば、もともと砂浜だった場所が、岩のプラットフォームへと急速に変化しており、それによって海岸の侵食の仕方や潮の流れ、さらには沿岸の生態系までが変わってしまう可能性があるのです。

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新種の岩石が見つかったイングランドの海岸/ Credit: University of Glasgow –Industrial waste is turning to rock in just decades, research reveals(2025)

恐ろしいのは、こうした急速な岩石化は都市計画や環境対策の想定をはるかに上回るスピードで進行しているという点です。

現在の多くの土地管理や海岸線モデルでは、これらの人工岩石の形成が考慮されておらず、気候変動対策にも新たな課題を突きつけています。

この“急速岩石化”は、ある意味では「私たちが出したゴミが、そのまま未来の地層になる」現象です。

産業廃棄物という「現代の痕跡」が、すでに次の地質時代の“化石記録”となる準備を整えつつあるのです。

かつて地球には、火成岩、堆積岩、変成岩という3つの岩石サイクルしか存在しないと考えられていました。

しかし今、私たちが生み出した産業廃棄物が、自然の地質プロセスと融合し、新たな「第4の岩石サイクル」が生み出されようとしているのかもしれません。

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参考文献

Industrial waste is turning into a new type of rock at ‘unprecedented’speed, new study finds
https://www.livescience.com/planet-earth/geology/industrial-waste-is-turning-into-a-new-type-of-rock-at-unprecedented-speed-new-study-finds

Industrial waste is turning to rock in just decades, research reveals
https://www.gla.ac.uk/news/headline_1173682_en.html

元論文

Evidence for a rapid anthropoclastic rock cycle
https://doi.org/10.1130/G52895.1

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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