「ベジタリアン」と聞いて、どんな人物像を思い浮かべるでしょう?
控えめで弱々しく、大人しく穏やかで、動物や自然を愛するイメージでしょうか?
しかし今回、米ウィリアム・アンド・メアリー大学(W&M)の最新研究で、そんなイメージとは違う結果が報告されました。
実はベジタリアンは、保守的な価値観から身を置く「反抗心の強い」傾向があり、さらに成功や権力を重視する「野心的な特徴」を持っている可能性が示されたのです。
研究の詳細は2025年5月28日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
- ベジタリアンの真の気質とは?
- なぜ菜食は野心的なのか?
ベジタリアンの真の気質とは?
研究を行ったのは、ウィリアム・アンド・メアリー大学に所属する心理学者ジョン・B・ネズレック(John B. Nezlek )氏です。
彼はアメリカとポーランドの計3800人以上を対象に、詳細なアンケート調査を実施しました。
被験者は自身の食事スタイル(ヴィーガン、雑食、ラクト・オボ・ベジタリアン※など)を申告した上で、人生で重視する価値観について回答しました。
(※ ラクト・オボ・ベジタリアンとは「乳卵菜食」を意味し、野菜・果物に加えて、肉は食べないものの、卵や乳製品など動物性食品は許容しているタイプ)
質問の中では「彼は自分なりの独自のやり方で物事をするのが好きだ」や「彼女にとってお金持ちになることは重要であり、多くのお金を持ちたいと思っている」といった文にどれだけ共感するかを評価します。

その結果、ベジタリアンは非ベジタリアンに比べて、以下の価値を「あまり重視していない」傾向が明らかになりました。
・博愛(近しい人々への思いやり)
・同調(周囲に合わせる)
・伝統(文化的・宗教的な慣習への敬意)
・安全(安定志向)
これらは社会的調和や他者との協調を重視する「保守的な価値観」とされており、それらを軽視するということは「波風を立てることも厭わない」性質を意味します。
さらに驚くべきは、ベジタリアンが以下の価値を「より重視していた」という事実です。
・刺激(新しさや挑戦を求める)
・達成(成功や能力の発揮)
・権力(影響力や支配力の追求)
つまりベジタリアンは、従来イメージされていた「控えめな草食系」とは真逆の、「野心家でチャレンジャー」な傾向を持つ人々だったのです。
なぜ菜食は野心的なのか?

では、なぜベジタリアンがこうした価値観を持つ傾向があるのでしょうか?
その鍵は、食生活が文化的な規範に強く結びついているという事実にあります。
肉を食べることは、特に欧米社会において長らく「当たり前」の食習慣、つまり主流の食文化とされてきました。
ステーキやハンバーガーは、家庭料理から祝祭のごちそうまで、日常に深く根付いています。
そんな中で、肉を食べないと決めることは、単なる「健康志向」や「趣味」ではなく、主流文化に対する明確な異議申し立てにもなり得ます。
まさに「肉を食べない」という行動それ自体が、体制への静かな反抗であり、自分自身の価値観を貫くシンボルなのです。
このようにベジタリアンというアイデンティティは、単なる食習慣の違いではなく、「自分の信念を貫く」という強い自己主張の表れとして捉えられます。
この背景が、彼らの「刺激」や「達成」「権力」といった価値観の高さとつながっているのでしょう。
さらに、菜食主義者は社会的マイノリティであるため、周囲の偏見や誤解に晒されることもしばしばです。
こうした「社会的逆風」を乗り越えるには、強い自我と信念が不可欠です。
このような環境にあるからこそ、ベジタリアンにはある種の“強さ”や”頑固さ”が育まれるのかもしれません。
参考文献
Vegetarians Are More Rebellious (and Power Hungry) Than You Think
https://www.zmescience.com/science/psychology-science/vegetarians-psychology-values-study/
元論文
Rethinking vegetarianism: Differences between vegetarians and non-vegetarians in the endorsement of basic human values
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323202
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部