米シュミット海洋研究所(Schmidt Ocean Institute)が南大西洋で行った最新の深海探査で、驚きの映像が撮影されました。
映っていたのは、肩からツインテールのようなものを生やした奇妙な深海魚の姿。
この動画はSNSで話題になり、「新種か?」「ツインテールの深海魚!?」と多くの関心を集めました。
一体これは何なのか、そしてなぜこのような姿をしていたのでしょうか?
目次
- ツインテール深海魚の実際の映像
- ツインテールの正体は「寄生生物」?
ツインテール深海魚の実際の映像
今回の探査は、シュミット海洋研究所が南大西洋にあるサウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島で実施しました。
この諸島は、11の火山島からなる亜南極の孤島群で、極めて生物多様性の高い海域として知られています。
調査チームは、水深489メートルの深海底にリモート操作型無人探査機(ROV)を送り込み、海底の地形や生物の映像を記録していました。
そのとき、カメラがとらえたのが問題の“ツインテール深海魚”です。
こちらが実際の映像。
魚の頭部付け根の左右に、まるで髪の毛を結んだような2本の突起物がゆらゆらと揺れていました。
その姿はまさに、アニメキャラのようなツインテールスタイル。
深海という厳しい環境下で、なぜこのような派手な装いを? 研究者たちも一瞬、新種の奇妙な魚かと思ったといいます。
しかしよく観察すると、この2本の突起は魚の体から生えているわけではなく、何か別の生物が肩の部分に張りついているようにも見えました。
ツインテールの正体は「寄生生物」?
この魚の正体は「ラットテイルフィッシュ(grenadier/rattail fish)」と呼ばれる、よく知られた深海魚の一種でした。
ネズミの尾のような長い尾を持つことからこの名前で知られています。
ラットテイルフィッシュは北極から南極まで広く分布し、水深400メートルから3000メートル以上の深海に棲んでいます。
大きな頭部と鋭い目、そして細長い体が特徴で、底生性の捕食者として小型甲殻類や魚類を主に捕食します。

では、“肩から生えたツインテール”の正体は何だったのでしょうか。
それは学名「ロフーラ・シダティ(Lophoura szidati)」というカイアシ類(copepod)の一種、つまり小型甲殻類の寄生生物でした。
このカイアシ類は、メスが魚の筋肉に口器を突き刺し、体液や血液を吸うことで生きています。
映像では、奇遇にも2匹のカイアシがラットテイルフィッシュの左右の頭部にしがみついていたのです。
そして、体外に長い「卵のう」を2本ぶら下げており、 これがツインテールのように見えていたというわけです。
卵のうには数百個の卵が入っており、孵化すると「ノープリウス幼生」と呼ばれる遊泳型の幼生になり、新たな宿主を探して海中を浮遊します。
寄生生物と聞くと、気持ち悪く感じるかもしれませんが、実はこのような関係性は深海では珍しくありません。
ラットテイルフィッシュに寄生するカイアシ類は南極海でもよく見られる存在で、こうした生態系の一端を知ることができる貴重な映像だったのです。
こうした映像や発見は、私たちの自然観や生物の多様性への理解を広げてくれます。
今回の発見は「深海のツインテール魚」というユニークな表現を通して、誰もが楽しみながら深海の驚異に触れるきっかけとなるでしょう。
参考文献
Scientists capture footage of bizarre deep-sea creature with parasite pig tails
https://www.livescience.com/animals/fish/scientists-capture-footage-of-bizarre-deep-sea-creature-with-parasite-pig-tails
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部