驚くべき”太古の爪”が発見されました。
北海道大学 総合博物館の研究チームはこのほど、モンゴルのゴビ砂漠で約9000万年前の巨大な二本指の爪が見つかったと報告。
調査の結果、白亜紀にいたテリジノサウルス類の新種のものであると判明しました。
残された爪は30センチ近くもあり、しかも三次元の立体構造をほぼ完璧にとどめています。
これは既知の恐竜の爪化石において、ほぼ完全な保存状態で残るものとしては史上最大とのことです。
研究の詳細は2025年3月25日付で科学雑誌『iScience』に掲載されています。
目次
- 驚異の保存状態をもつ「爪化石」を発見!
- 二本指を持つ新種の「生前の姿」がコレだ!
驚異の保存状態をもつ「爪化石」を発見!
テリジノサウルス類は、約1億4500万〜6600万年前の白亜紀にアジアや北アメリカに生息していた恐竜です。
長い首と小さな葉状の歯を持っており、三本指の手と大きな鉤爪で主に植物を食べる暮らしをしていました。
テリジノサウルス類は三本指の爪を巧みに使い、木の枝を引っ掛けて口元に引き寄せる行動をとっていたと考えられています。
これまでに知られているテリジノサウルス類はすべて三本指です。
しかし研究チームが今回、モンゴルのゴビ砂漠で発見した約9000万年前のテリジノサウルスの爪化石は様子が違っていました。
なんとのその爪の数は三本ではなく、二本しかなかったのです。

また驚くべきはその保存状態の高さにありました。
残された爪化石は長さ30センチ近くもあり、他の多くの化石のような二次元の平べったいものではなく、生前と同じ三次元の構造をほぼ完璧にとどめていたのです。
加えて、生前の爪を覆っていたケラチン質の爪鞘(つめさや)も保存されていました。
この爪の持ち主はテリジノサウルスの新種と断定されており、新たに「デュオニクス・ツクトバアタリ(Duonychus tsogtbaatari)」と命名されています。
デュオニクスはギリシャ語で「二つの爪」を意味し、ツクトバアタリはモンゴルの著名な古生物学者キシグジャヴ・ツクバートル博士に敬意を表したものです。

研究者によると、この新種個体は体高が約3メートル近くあり、体重は260キロ以上に達したと推定されています。
さらにチームはデュオニクス・ツクトバアタリの生前の姿も復元してみました。
二本指を持つ新種の「生前の姿」がコレだ!

デュオニクス・ツクトバアタリの化石は爪の他にも、いくつかの部位が見つかっています。
それを図示したのが上の画像です。
白で塗られた部分が化石の見つかっている場所を示します。
これを他のテリジノサウルス類の全身骨格と比較しながら、デュオニクス・ツクトバアタリの生前の姿を可能な限り復元しました。
そうして完成したのがこちらです。

チームの分析から、デュオニクス・ツクトバアタリは二本指の爪で物を掴んだり(グラップリング)、枝を握ったり(グラスピング)する機能を持っていたと考えられています。
また他のテリジノサウルス類には見られない、爪がほぼ90度に曲がり、非常に強くカーブしているという特徴も確認されました。
この独特な形状のおかげで、この新種恐竜は直径約10センチまでの枝や植物の束を掴むことができたと推測されています。
さらにデュオニクス・ツクトバアタリの手の構造は、植物を「かき集める」や「引っ掛けて引き寄せる」といった動作にも適していたようです。
今回の発見は、デュオニクス・ツクトバアタリが初めて見つかった「二指のテリジノサウルス類」であり、恐竜たちがどのように手の機能を変化させ、進化してきたのかを示す貴重な手がかりとなります。
実はこの新種とは別に、二本指の爪を進化させた有名な恐竜がいます。
それが「ティラノサウルス」です。

ティラノサウルスは恐竜界でもナンバーワンの知名度を誇りますが、彼らが生きた時代は約6600万〜7200万年前の恐竜時代の最期です。
そしてティラノサウルスも祖先はもともと三本指だったのですが、進化の過程で二本指になったことが知られています。
ティラノサウルスとデュオニクス・ツクトバアタリはなぜ指の数を一本減らしたのか?
二本指にすることには具体的にどのようなメリットがあったのか?
チームは今後、この二本指の収斂進化(しゅうれんしんか、※)の謎を解き明かしたいと考えています。
※ まったく別のグループで同じ形質が進化する現象。昆虫のケラと哺乳類のモグラはまったく別のグループなのに、スコップのような同じ手を進化させている)
参考文献
ティラノサウルスの様に手指が2本しかない新種の恐竜発見~獣脚類における指の減少進化を解明~
https://www.hokudai.ac.jp/news/2025/03/2-68.html
元論文
Didactyl therizinosaur with a preserved keratinous claw from the Late Cretaceous of Mongolia
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112141
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部