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「ADHD・読字障害・算数障害に共通遺伝子の影響」2万人規模の双子研究が指摘


ADHDの子どもたちは、読み書きや計算に苦手さを抱えることが多く、この背景に共通の遺伝的要因が存在する可能性があると示されました。約2万人の双子を対象とした研究は、ADHD、発達性読み書き障害、発達性算数障害が同時に現れる理由が、単に集中力の問題ではなく、共通の遺伝的背景によるものであることを示唆しています。これにより、親の育て方が原因といった誤解を払拭し、適切な支援の必要性を浮き彫りにします。今回の研究成果は、2025年3月に『Psychological Science』に掲載される予定です。

ADHDのある子どもは、教室でじっとしていられない、すぐに注意が逸れてしまうといった特徴が知られています。

ところが、それだけではありません。

文字を読むのが極端に苦手だったり、簡単な計算がなかなか理解できなかったりすることもしばしばあるのです。

これらの困難は「発達性読み書き障害(ディスレクシア:Dyslexia)」や「発達性算数障害(ディスカルキュリア:Dyscalculia)」と呼ばれ、いずれも学習障害(LD)の一種に分類されます。

では、なぜADHDと読み書き・計算の障害は一緒に現れることが多いのでしょうか?

これまではその理由について、「集中できないから勉強もうまくいかない」と単純に理解されていました。しかし、そうではなかったのかもしれません。

オランダのアムステルダム自由大学(Vrije Universiteit Amsterdam)を中心とした研究チームが、約2万人の双子を対象にした大規模な追跡調査を行ったところ、これらの障害が一緒に現れる背景には、共通遺伝子の影響がある可能性が示されたのです。

この研究成果は2025年3月に、心理学の有力ジャーナル『Psychological Science』に掲載されています。

目次

  • ADHDの子は本当に勉強も苦手?
  • 見えてきたのは「遺伝の重なり」だった

ADHDの子は本当に勉強も苦手?

Credit:canva

ADHD、発達性読み書き障害、発達性算数障害はいずれも、知的発達には問題がないにもかかわらず、日常生活や学校生活に支障をきたす発達特性です。

それぞれの特性が単独で現れることもありますが、複数が同時に存在するケースも少なくありません。

たとえば、ADHDを持つ子どものうち、約半数近くが読み書きや算数の困難も抱えているという報告があります。

では、これは単なる偶然なのでしょうか?

あるいは、ADHDの症状が原因で学習に集中できず、結果的に読み書きや計算も苦手になるという因果関係があるのでしょうか?

それとも、もっと根本的な共通原因が存在するのでしょうか?

この問いを解明するため、研究チームは「双子研究」というユニークな手法を取りました。

双子研究では、一卵性双生児(一卵性双生児は遺伝子をほぼ100%共有)と二卵性双生児(遺伝子共有率は約50%)を比較することで、ある特性がどれほど遺伝に影響されているのかを調べることができます。

今回の研究では、オランダ双子登録(Netherlands Twin Register)に基づき、1989〜2009年に生まれた双子1万9125組(約2万人)のデータを解析

子どもたちが7歳と10歳のときに、教師からのADHD評価と全国統一の学力テスト(読み、書き取り、計算)結果を収集しました。

研究者たちは、これらの発達特性がどの程度重なって出現するかを調べるだけでなく、それぞれの能力の変化が互いにどう影響し合っているかも長期的に追跡しました。

たとえば、「ADHDがあると将来的に読みが苦手になるのか?」「逆に読みの困難がADHD症状を悪化させるのか?」といった因果関係にも迫ったのです。

見えてきたのは「遺伝の重なり」だった

Credit:canva

調査の結果、ADHD、発達性読み書き障害、発達性算数障害は、それぞれ約9〜10%の子どもに見られました。

注目すべきは、それらの障害を2つ以上併せ持つ割合が全体の約23%にとどまり、大多数の子どもたちは一つの特性しか持っていなかったという点です。

つまり「三つ巴で現れるのが当たり前」というわけではありません。

これはADHDで集中できないから学習障害も起きるという単純な関係ではない可能性を示唆します。

しかし、たとえばADHDのある子どもは、読み書きの困難を抱える確率が約2.7倍、計算に苦手さを抱える確率が約2.1倍に上ることがわかりました。

さらに、読み書き障害を持つ子どもは算数障害を持つ確率が3.1倍高いという結果も得られました。

研究チームはこの関係が「一方の障害が他方を引き起こしている」のではなく、「同じ要因から複数の障害が生まれている」のではないかと考え、双子間の差異や時系列での能力変化、行動遺伝学モデルなど複数の手法を組み合わせ調査を行いました。

その結果、読みの能力がスペリング(書き取り)に影響を与えるという一方向の因果関係は確認されましたが、それ以外の関係性──たとえばADHDが読みの困難を引き起こす、といった因果関係は見られませんでした

代わりに浮かび上がったのは、ADHDも読み書きの困難も計算の苦手さも、同じような遺伝的背景によって生じているという事実でした。

つまり、これらの障害が一緒に現れやすいのは、ある共通の「遺伝的な素因」がそれぞれに影響を与えているからなのです。

この発見は、私たちの支援のあり方にも大きな示唆を与えます。

たとえば、ADHDを治療すれば学力も向上する、といった安易な期待は現実的でないかもしれません。

逆に、学習支援を通じてADHDの症状が消えるという保証もありません。

それぞれの特性は互いに関連し合っているわけではなく、共通遺伝子から独立して発生しているため、それぞれに適した支援が必要なのです。

また、この研究は「親の育て方が悪いから子どもが集中できない」といった誤解にも強く反論するものとなっています。

学習や行動の困難さには、生まれつきの素因が関係していることが明らかになったのです。

発達特性の理解が進むことで、子どもたち一人ひとりに合ったサポートが提供される社会に近づくことができるかもしれません。

今回の研究は、その大きな一歩となるでしょう。

全ての画像を見る

参考文献

Shared genes explain why ADHD, dyslexia, and dyscalculia often occur together, study finds
https://www.psypost.org/shared-genes-explain-why-adhd-dyslexia-and-dyscalculia-often-occur-together-study-finds/

元論文

Co-Occurrence and Causality Among ADHD, Dyslexia, and Dyscalculia
https://doi.org/10.1177/09567976241293999

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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