私たちの生活に欠かせないGPS。
しかし、このGPSには致命的な弱点があります。 それは「電波妨害に弱い」ことです。
特に軍事や災害救助の場面では、GPS信号が使えないケースが多く発生します。
そんな状況で活躍するかもしれないのが、「天測航法」を利用したドローンのナビゲーション技術です。
南オーストラリア大学(University of South Australia)の研究チームは、GPSに頼らず、星の位置を利用してドローンが飛行できる新しい技術を開発しました。
この研究の詳細は、2024年11月7日付の『Drones』に掲載されています。
目次
- 「もしGPSが使えなくなったら……」GPS妨害対策の必要性
- 「星を見て飛ぶ」ドローンシステムを開発
「もしGPSが使えなくなったら……」GPS妨害対策の必要性
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私たちにとってGPSは、もはや空気のようにあたりまえの存在です。
スマートフォンの地図アプリやカーナビ、自動運転車、航空機の航行、貨物追跡システムなど、あらゆる場面でGPSが活用されています。
しかし、もしGPSが突然使えなくなったらどうなるでしょうか?
実際、そのようなことはあり得ます。
GPSは地球上の衛星から電波を受信して現在位置を特定しているため、電波を妨害されると機能しなくなるのです。
実際、軍事作戦ではGPS妨害技術が使用されることがあり、戦場ではGPSに頼ることができない場合もあります。
また、海上や砂漠、山岳地帯などでは、GPS信号が弱くなったり完全に届かないこともあります。
こうした問題を解決するために、古くから使われていた「天測航法」が再び注目されています。
これは、星の位置を頼りに航行する技術で、かつての航海士が使用していました。
しかし、従来の天体航法システムは非常に高価であり、大型の機材が必要でした。
そのため、小型のドローンには搭載できませんでした。
今回、南オーストラリア大学の研究チームは、「安価で軽量な天体航法システムを開発すれば、ドローンにも搭載できるのでは?」と考え、この研究をスタートさせました。
「星を見て飛ぶ」ドローンシステムを開発
研究チームは、ドローンに搭載可能な小型カメラとAIを活用し、星の位置を計測する新しい航法システムを開発しました。
まず、ドローンには高感度のカメラが搭載されており、夜空の星を撮影します。
この画像を処理し、事前に登録された星のデータベースと照合することで、ドローンの位置を特定するのです。
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また今回の研究では「旋回飛行」を活用して測位精度を向上させる工夫がなされました。
具体的には、ドローンが360度旋回することで、カメラの誤差を打ち消し、より正確な位置を算出するという方法です。
実験では、南オーストラリアの夜空の下で、このシステムを搭載したドローンを飛行させました。
その結果、GPSを使わずに、位置誤差を平均4km以内に抑えることに成功しました。
これは、従来の天測航法よりも軽量かつ低コストな方法で、ドローンが自律的に飛行できることを示す重要な成果です。
さらに、天候が良好な条件では、この手法がGPSに匹敵する精度を持つ可能性も示されました。
この研究成果は、今後のドローン技術に大きな影響を与える可能性があります。
例えば、GPSが妨害される戦場では、ドローンが正確に飛行できるようになります。
また、地震や津波で通信インフラが壊れた地域でも、ドローンが救援物資を届けることができるようになるでしょう。
さらに、火星や月のようにGPSが存在しない環境でも、ドローンが自律的に動けるようになるかもしれません。
もちろん、現在の技術では星が見えない昼間や、曇りや雨の日には測位が難しいという欠点があります。
今後、これらの課題が解決されるなら、まるで昔の航海士のように、星を頼りに自由に空を飛ぶ時代がやってくるかもしれません。
参考文献
GPS alternative for drone navigation using visual data from stars
https://www.unisa.edu.au/media-centre/Releases/2024/gps-alternative-for-drone-navigation-using-visual-data-from-stars/
New nav system draws on ancient technique when GPS is down
https://newatlas.com/aircraft/new-nave-system-steers-drones-stars/
元論文
An Algorithm for Affordable Vision-Based GNSS-Denied Strapdown Celestial Navigation
https://doi.org/10.3390/drones8110652
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部