近年、高齢ドライバーの暴走や事故がよく話題に上ります。
しかし、若葉マークを付けた免許取り立ての若いドライバーも事故率は高く、油断できません。
そして新しい研究では、同じ初心者ドライバーでも、「マイカーを所持しているか・していないか」で事故率が大きく変わることが明らかになりました。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)公衆衛生学部に所属するレベッカ・Q・アイバース氏ら研究チームが、ニューサウスウェールズ州の若いドライバーを対象にした大規模調査の結果、「若いドライバーが自分の車を持つと、運転1年目に事故を起こす確率が30%も高くなる」と報告したのです。
しかしなぜ、借りたクルマより自分の車の方が事故率が上がるのでしょうか?
研究の詳細は、2024年2月24日付の学術誌『Accident Analysis and Prevention』に掲載されました。
目次
- 初心者ドライバーはどの国でも事故リスクが高い
- 自分の車を所持している初心者ドライバーは事故リスクが30%高くなる
- 若葉マークのドライバーは、安くて古い車を所持しがち
初心者ドライバーはどの国でも事故リスクが高い
日本であれば、普通運転免許の取得は18歳以上となっており、高校を卒業したばかりの若者は、すぐに他の熟練ドライバーと肩を並べて公道を走ることができます。
一方、アメリカでは大半の州で16歳になれば免許を取得できます。
またオーストラリアでは17歳以上で取得でき、合格した場合は「Pプレート」と呼ばれる初心者運転免許証が交付されます。
日本の若葉マーク(初心運転者標識)表示義務のように、初心者を分けるルールがあるのですね。
それもそのはずで、初心者ドライバーはどこの国でも事故を起こしやすいことで知られています。
実際、世界の若者の死亡原因は様々ですが、交通事故による死亡はその中でも上位にランクインします。
日本では6人に1人が免許取得から1年以内に事故を起こしているようです。
こうした傾向はオーストラリアの初心者ドライバーでも同じです。
しかし、どんなに無事故無違反の熟練ドライバーであっても、最初は若葉マークを付けた「初心者ドライバー」だったはずであり、同じ初心者ドライバーでも事故率には違いがあるはずです。
では、どのような要素が、初心者ドライバーの事故を増加または減少させるのでしょうか。
一般的には、「若いこと」「男性であること」「経験不足」「夜間の運転」「同年代の同乗者を載せること」などが事故リスクの増加と関係しています。
また親の教育的介入(免許取得時期の決定や、運転の監督、車両の利用制限など)によって、事故リスクが低減することも分かっています。
こうした点を考えると、親が若者ドライバーにマイカーの所持を許すかどうかも事故率にかかわってきそうです。
そこでアイバース氏ら研究チームは、この点を調査するため、オーストラリアのニューサウスウェールズ州の若い初心者ドライバーを対象に、事故・入院・死亡記録と、その時の車の所有者の情報を分析しました。
自分の車を所持している初心者ドライバーは事故リスクが30%高くなる
今回の分析には、オーストラリアのニューサウスウェールズ州の若い初心者ドライバー2万806人の情報が用いられました。
対象となったドライバーは、17~24歳であり、2002年と2003年に初心者用の「Pプレート」を所持していた人々です。
そして研究チームは、彼らの事故データを2016年まで追跡し、自分の車を所持することと事故率にどんな関係があるのか分析しました。
その結果、マイカーを運転する若者は、家族の車を借りて運転する若者よりも、運転1年目に事故を起こす確率が30%も高くなると分かりました。
そしてそのリスクは徐々に減少していくものの、少なくとも数年間は高い状態にあることも分かりました。
研究チームによると、自分の車を所持している若者は、免許取得後7年経っていても、家族の車を借りている若者より事故率が10%高かったといいます。
また、より重大な事故(入院や死亡に繋がる事故)に焦点を絞った場合にも、同様の傾向が認められました。
マイカーを運転する若者は、家族の車を借りている若者と比べて、免許取得後の1年間で重大な事故を起こす確率が2.7倍であり、3年目であっても1.5倍だったのです。
(件数自体は少ないものの、)若者が自分の車を運転しているだけで、事故による死亡や入院のリスクが3倍近くも高くなると考えると恐ろしい傾向と言えます。
では、どうして自分の車を所持しているか、家族の車を借りているかで、ここまで大きな違いが出るのでしょうか。
研究チームは、「免許取得後1年という最も危険な期間に、自分の車を持つことで制限なく運転してしまう」ことがその原因だと考えています。
自分の車を持っていると、どうしても愛着がわき、ドライブしたくなります。
運転が楽しくなり、友達を乗せて遠くに出かけたり、夜間に運転したり、ちょっと無茶してみせたりしたくなるのでしょう。
また「元から車好き」で、運転に自信があり、スピードを出してしまう人が、免許を取得するとすぐに自分の車を持ちたがる、というケースも考えられます。
研究チームは、自分の車を所持している人の方が、「自分は他の人よりもはるかに優れたドライバーだ」と考える傾向が強かったとも述べています。
一方で、自分の車を持たず、家族の車を借りる若者は、そもそも運転する機会が限られます。
また所有者である親が、「長距離運転禁止」「複数人の友達を乗せることの禁止」「夜間の運転禁止」などルールを定めていることもあります。
さらに、自分の所有物ではないので、傷つけないよう慎重に運転する可能性もあるでしょう。
これらの要素が、親の車を借りる初心者ドライバーを守ってきた可能性があります。
若葉マークのドライバーは、安くて古い車を所持しがち
アイバース氏は、車の状態の違いにも目を向けています。
若いドライバーが所持する車は、家族が所持している車より、安く頑丈ではない傾向があるというのです。
彼女は、次のように続けています。
「よくあるのは、子供に安い車を買うというケースです。その結果、子供は安全機能があまり備わっていないボロボロの古い車を運転することになります」
確かに、親が自分の子供に車を与えるにせよ、その子(若者)が自分で車を購入するにせよ、10代もしくは20代前半で、最初からハイグレードな車を持つことは少ないように思えます。
「どうせぶつけてしまうから」と安い車にする気持ちも分かりますね。
そしてそれらが、より頻繁なアクシデントや大事故に繋がるというわけです。
今回の研究結果は、若葉マークのうちはマイカーを持たないようにすることで、事故リスクを低減できるかもしれないことを示唆しています。
しかし研究チームは、「その方法がいつでも得策であるとは限らない」とも述べています。
オフィスが遠かったり夜遅くまで働く必要があったりする場合、車を所持していることで帰り道での犯罪に巻き込まれるリスクを低減できるというのです。
またいくつかの研究によると、「車を所持している人は、給与が高く、失業率も低い傾向にある」ため、すべての要因を一括りにすることはできません。
とはいえ今回確認された傾向は、免許取得後すぐに自分の車を持とうと考える若者は、危険な運転をしがちであることを示しています。
これらすべての情報は、オーストラリアだけでなく、日本でも当てはまる可能性があります。
交通事故は巻き込まれるケースも当然有りえますが、事故原因の上位を占めるのは日本でもすべて運転手の不注意によるものです。
毎年2〜3月は、新生活前に免許を取得したい人たちが多く、また高校生や大学生も試験を終えて春休みに免許取得を目指す人も多いため、一年の中で最も自動車学校が込み合う時期とされています。
もし、自分もしくは自分の息子や娘が免許を取得するという場合、車の所持については、そのメリットとリスクを十分に認識して決めるのが良いでしょう。
参考文献
‘Don’t buy your kids a car’: young drivers with own cars in more crashes
https://www.unsw.edu.au/newsroom/news/2024/03/dont-buy-your-kids-car-young-drivers-own-cars-more-crashes?utm_source=reddit&utm_medium=social
元論文
Young drivers’ early access to their own car and crash risk into early adulthood: Findings from the DRIVE study
https://doi.org/10.1016/j.aap.2024.107516
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。