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ホッキョククジラは出産時期をコントロールできる?!最長23か月妊娠できることが明らかに


妊娠期間が動物によって大きく異なることをご存じでしょうか?

人間の場合は十月十日、およそ280日と言われていますが、それをはるかに上回る動物も多く存在します。

最大の哺乳類であるクジラもそんな長い妊娠期間を持つ動物の1つです。

アメリカ・サフォーク大学のナディーン・リシアック氏らの研究グループはホッキョククジラが最長23カ月妊娠している可能性を示唆しています。

この研究はROYAL SOCIETY OPEN SCIENCE10巻7号に2023年6月26日付けで掲載されました。

この記事では、最新の研究からわかったホッキョククジラの妊娠について、その調査方法や長期間妊娠する理由をご紹介します。

目次

  • ホッキョククジラの妊娠期間は最長23か月
  • ホッキョククジラは妊娠を意図的に延ばしている?

ホッキョククジラの妊娠期間は最長23か月

ヒゲの長さでわかるホルモンの推移(灰色部分が妊娠期間)
credit:ROYAL SOCIETY OPEN SCIENCE

ホッキョククジラの妊娠期間は、ホッキョククジラの死骸からヒゲを採取・分析することによって推測されました。

クジラのヒゲは生涯生え変わることがなく、生まれてから死ぬまで時間の経過と共にそのときの体の様子を記録しています。

ヒゲを分析して時間とともに変化するホルモンを分析することで、そのホッキョククジラがいつ妊娠したか、どのくらいの期間妊娠していたかを知ることができるのです。

一般的に哺乳類は妊娠中、プロゲステロンというホルモンの濃度が高くなることが知られています。

そこで、ナディーン・リシアック氏らはホッキョククジラのヒゲについてプロゲステロンが上昇し、高止まりとなった期間を妊娠期間と定義しました。

複数のメスのホッキョククジラのヒゲを調査した結果、調査されたホッキョククジラの妊娠期間は20.9カ月で、妊娠期間が個体によってばらつきがあることがわかりました。

その中でも妊娠期間が最長だった個体は23.6カ月もの間妊娠していたことが明らかとなったのです。

これは哺乳類の中でもっとも長い妊娠期間と言えます。

動物たちの妊娠期間、最長と最短は?

ホッキョククジラと同様妊娠期間が長いゾウ
credit:Pixabay

ここで哺乳類の妊娠期間についておさらいしておきましょう。

妊娠期間がもっとも短い動物はオポッサムで、わずか12日と言われています。

一方、妊娠期間がもっとも長いと言われているのはゾウで、その妊娠期間は22カ月です。

長い間妊娠している理由は胎児の成長スピードが非常に遅いためだと言われています。

野生下ではある程度の大きさで産まないと捕食される危険がありますから、生まれた赤ちゃんの生存率を少しでも上げるためにゾウはお腹の中で赤ちゃんを守っているのです。

ちなみにゾウはかなり大きな哺乳類ですが、哺乳類の大きさが長い妊娠期間につながるかというと必ずしもそうではありません。

ゾウより身長が高いキリンの妊娠期間は15カ月ですし、はるかに大きな体を持つシロナガスクジラも妊娠期間12カ月です。

このように動物の妊娠期間を見てみるとホッキョククジラの妊娠期間が非常に稀有なものであることがわかります。

本当にホッキョククジラは23か月「妊娠」しているのか

ホッキョククジラ
credit:Wikipedia

ただそのように考えていくとそもそもホッキョククジラが本当に23カ月妊娠しているのかという疑問も生じます。

この研究はヒゲのホルモンなどから妊娠期間を推測したに過ぎず、実際に妊娠しているところを観察したものではないためです。

実際、研究チームは発情期間が妊娠期間としてカウントされている、あるいは一度流産して再び妊娠した可能性などにも言及しています。

しかし、研究者たちはホッキョククジラの赤ちゃんが生まれたときの大きさがばらばらであることから、ホッキョククジラが出産時期をコントロールしているのではないかと推察しています。

ホッキョククジラは妊娠を意図的に延ばしている?

過酷な冬の北極海
credit:Pixabay

ホッキョククジラの出産は春から初夏にかけてが多く、まれに秋の初めにも見られます。

ホッキョククジラが棲む北極海では冬になると食料が乏しく、生まれたばかりの赤ちゃんが生き抜くにはあまりにも過酷な環境であるためです。

しかし、生まれてくる赤ちゃんのサイズには大きなばらつきがあり季節が進むほどに大きいというわけではありませんでした。

春には小さめの個体と大きめの個体が両極端で生まれ、晩春から初夏にかけてがもっとも大きい個体が生まれます。

しかし、秋になるとサイズダウンして中くらいの個体が生まれてくるというのです。

この観察結果に対し、研究者たちは出産時期の意図的なコントロールが行われたのではないかと考えました。

本来通常の妊娠期間を経て春から初夏にかけて生まれてくるのは小さめの個体で、大きめの個体は通常の妊娠期間を経ても胎児のサイズが小さすぎて一度出産見送りしたものだと考えたのです。

過酷な北極海では食料が見つからないことも多く、胎児に十分な栄養がいきわたらない可能性が十分にあり得ます。

また胎児がうまく育ったとしても、母体にある程度脂肪の蓄積がないと出産に耐え切れず母体が命を落としてしまいます。

このため、ホッキョククジラの母たちは自分の栄養状態などに応じて、出産時期をコントロールしたり、多胎児(双子や三つ子のこと)の作為的な中絶を行っているのではないかというのが研究者たちの考えでした。

「胎児の休眠」という生き残り戦略

胎児の休眠が観察されたノロジカ
credit:Pixabay

実は過酷な野生下で、出産時期をコントロールしている動物は少なくありません。

そのような動物たちは意図的に受精卵の着床を遅らせることで、出産時期をコントロールします。

この現象は「胎児の休眠」と呼ばれ、1975年にロバート・ジョン・エイトケン氏がノロジカの子宮内で初めて発見しました。

「胎児の休眠」によって受精卵の着床の時期は数日から1年近く遅らせることができ、赤ちゃんが生まれて生き抜くのに一番適したタイミングで生まれてくるようコントロールできるのだと言います。

この現象はノロジカ以外にスカンクやカンガルーなど約130種で観察されており、過酷な環境を生き抜くホッキョククジラにおいても同じ現象が起こっていると推察されました。

野生動物にとって「産む時期」は重要

妊娠期間のコントロールが種の存続を左右する
credit:Pixabay

人間は周年発情の生き物であり、妊娠したら一定期間で出産します。

しかしそれはどの時期に生まれても生き残る可能性がある程度保たれているからこそできることです。

野生動物の場合、出産時の気温や食料の多さは、生まれてくる赤ちゃんだけでなく、母体の生死を左右します。

過酷な北極海を生き抜くホッキョククジラは、出産時の状態を万全にできるように妊娠期間が長く、そしてある程度コントロールできるようになったと考えられます。

私自身、3人の子を産んでいますが、ホッキョククジラの半分にも満たない十月十日でもお腹に子どもがいる状態はとても大変に感じました。

生まれてくる赤ちゃんのため、そしてその赤ちゃんを無事産んで生き残るために、23カ月もの長い期間妊娠を継続したホッキョククジラには本当に頭が下がる思いです。

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参考文献

Bowhead whales may be pregnant for up to 23 months https://phys.org/news/2023-07-bowhead-whales-pregnant-months.html

元論文

Prolonged baleen hormone cycles suggest atypical reproductive endocrinology of female bowhead whales https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.230365 Embryonic diapause and its regulation https://rep.bioscientifica.com/view/journals/rep/128/6/1280669.xml
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