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【死因は日光不足】 オーストリア伯爵家の地下で見つかった「赤ちゃんミイラ」の謎


オーストリアのシュターレンベルク伯爵家の地下室で発見された16〜17世紀頃の赤ちゃんミイラの死因が、ビタミンD欠乏症により引き起こされたことが明らかになりました。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの研究チームは、CTスキャンを用いてミイラを調査し、日光不足が原因で「くる病」と呼ばれる病気が発症したことを解明しました。この病気は骨の変形を引き起こし、さらに致命的な肺炎を引き起こしました。当時、貴族は肌の白さを保つために日光を避けており、これが皮肉にも命取りとなったと考えられています。この研究は、過去の貴族社会の生活習慣と子育て環境を理解するための貴重な視点を提供します。また、現代でも日光不足によるビタミンD欠乏症は珍しくなく、健康のために日光浴の重要性が再確認されます。

オーストリアで最も古い名門貴族の一つ、シュターレンベルク(Starhemberg)伯爵家の地下室に眠っていた16〜17世紀頃の赤ちゃんミイラ

その死因は数世紀にわたって謎のままでした。

しかし独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU Munich)の2022年研究により、日光不足によるビタミンD欠乏症であったと解明されたのです。

またこれほど保存状態のよい同時代の幼児の遺体はほぼ類例がないことから、当時のヨーロッパ貴族の育児環境を理解する上で、きわめて重要なサンプルとなります。

研究の詳細は2022年10月26日付で学術誌『Frontiers in Medicine』に掲載されました。

目次

  • 地下室で発見された赤ちゃんミイラの正体とは?
  • 貴族特有の習慣が「日光不足」を招いていた?

地下室で発見された赤ちゃんミイラの正体とは?

男児のミイラは、オーストリア北部オーバーエスターライヒ州にある名門シュターレンベルク伯爵家の地下室で発見されたものです。

遺体は自然にミイラ化して枯れ果てていますが、全身が欠けることなく保存されており、精巧な絹の衣服も残っていました。

地下室には他に、当時の伯爵家の所有者とその妻の遺体が見つかっており、この男児は、2人の間の長男であった可能性が高いとのこと。

埋葬時、男児の年齢は生後わずか10〜18カ月でした。

男児のミイラ
男児のミイラ / Credit: Andreas G. Nerlich et al., Frontiers in Medicine(2022)

また皮膚サンプルの放射性炭素年代測定から、男児は1550〜1635年の間に埋葬されたことが特定されています。

ただし、伯爵家の記録から、地下室は1600年頃に一度改装されているので、それ以降に埋葬されたものと思われます。

残念ながら、男児の棺には碑文がなかったため、正確な名前や生年月日は不明ですが、家系図から判断して、ライヒャルト・ヴィルヘルム(Reichard Wilhelm)という名前だったと推定されています。

しかし、この男児は、日々の生活に事欠かない貴族の出であるにもかかわらず、その短い生涯は明らかに健康的ではなかったようなのです。

貴族特有の習慣が「日光不足」を招いていた?

研究チームは2022年に、男児の死因を解明するべく、CTスキャンを用いたミイラのバーチャル解剖を実施。

その結果、肋骨に栄養失調、それも「ビタミンD欠乏症」の典型的なパターンである奇形の痕跡が発見されました。

この症状は「くる病」と呼ばれ、ビタミンDの不足により、骨の石灰化が阻害され、強度が弱くなる病気です。

くる病はよく、足の骨のわん曲としてあらわれますが、男児の足に異常はありませんでした。

加えて、男児の肺を見ると、ビタミンD欠乏症の乳児に見られる「致死性の肺炎」の兆候も見つかりました。

くる病は必ずしも致命的な病気ではないため、こちらが直接的な死因となったようです。

CTスキャンによる遺骨の分析(肋骨に奇形の痕跡が)
CTスキャンによる遺骨の分析(肋骨に奇形の痕跡が) / Credit: Andreas G. Nerlich et al., Frontiers in Medicine(2022)

脂肪組織の分析から、この男児は、同年齢の幼児と比べると、かなり肥満気味であることが判明しました。

そのことから、(お乳など)栄養源の摂取は十分にできていたと思われます。

ところが問題は、貴族生活に特有の「日光不足」にあったようでした。

ビタミンDは、食べ物から十分量を摂取できるものではなく、日光の紫外線を浴びることで、自然に皮膚上で産生されます。

しかし、当時のヨーロッパ貴族社会において、肌の白さは高貴さの証であり、貴族たちは陶器のような肌の白さを保つために、積極的に日光を避けていました

その貴族ならではの習慣が、皮肉にも、小さな命を死に追いやってしまったのです。

その後、19世紀に入り、くる病が西欧で大流行した際に、ようやく「骨の形成に日光浴が重要である」ことが理解されています。

手指のシワや爪まで細かく残されている
手指のシワや爪まで細かく残されている / Credit: Andreas G. Nerlich et al., Frontiers in Medicine(2022)

このように、日光不足によるビタミンD欠乏症は、過去の病気かと思いきや、実はそうでもありません。

特に昨今は、仕事も趣味も屋内でできることが増えたため、現代人の日光不足が懸念されています。

南オーストラリア大学(UniSA)の最近の研究では、オーストラリア人の3人に1人が日光不足によるビタミンD欠乏症にかかっていることが判明。

さらに、ビタミンD不足が早期死亡リスクを高めている強い証拠も得られました(Annals of Internal Medicine, 2022)。

ビタミンDの不足は、健康な成人でも、筋力の低下や骨の痛みを引き起こすことがわかっています。

心身ともに健康でいるためにも、1日1回は陽に当たるよう心がけたいところです。

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参考文献

Mummified Baby From Centuries Ago May Have Died From Lack of Sunlight
https://www.sciencealert.com/mummified-baby-from-centuries-ago-may-have-died-from-lack-of-sunlight

‘Virtual autopsy’identifies a 17th-century mummified toddler hidden from the sun
https://phys.org/news/2022-10-virtual-autopsy-17th-century-mummified-toddler.html

元論文

Adipositas and metabolic bone disorder in a 16th century Upper Austrian infant crypt mummy—An interdisciplinary palaeopathological insight into historical aristocratic life
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2022.979670/full

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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