犬がお味噌汁を食べても良い?
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昔から日本の伝統食であるお味噌汁は犬や猫にも与えられてきました。「残飯を愛玩動物に与えていた」という方が正確でしょう。
そもそも、犬がお味噌汁を食べても問題ないのでしょうか?実はよく調べてみると、2つの理由から「食べても問題ないが、具によっては危険」ということが分かりました。
お味噌汁の健康効果
お味噌汁を食べると、人間にとっても犬にとっても健康な栄養素を豊富に摂取することが可能です。味噌の原料は大豆ですが、発酵させることで元の大豆よりもはるかに多く栄養素を含むようになります。増加が著しいのはアミノ酸やビタミン類で、酵母や乳酸菌などの体の機能維持に必要な成分の摂取も期待できます。
また、味噌にはタンパク質や炭水化物、食物繊維、葉酸なども微量ながら含まれており、あらゆる栄養素をバランスよく摂取するのに効率のいい食品です。ビタミンはB1、B2、B6、B12、E、Kを含んでおり、不足しがちなビタミンB1や、タンパク質からエネルギーを生産するB6、葉酸と協力して赤血球の形成や再生を補助するB12などを一度に摂取できるのが特徴です。
他にも、ミネラルであるナトリウムやカリウム、カルシウム、リン、鉄、亜鉛なども摂取できます。大豆ペプチドが血液を綺麗にしたり、抗酸化作用があるコリンやダイゼイン、メラノイジンなどがアンチエイジング作用をもたらしたりします。
発酵の段階で生じた消化酵素は、消化吸収を助けることで身体の酵素を消費するのを抑え、やはり身体を若々しく保つのに有効です。
味噌汁の危険性
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そんな味噌汁も、何も考えずに与えてしまうと犬の健康を損なうばかりか、命の危険をもたらす食品となってしまいかねません。味噌汁が危険と言える他の側面についてご紹介しましょう。
ネギ類はNG
ご存知のように、犬はネギ科の植物を摂取することができません。青ネギ、白ネギ、さらには玉ねぎやニンニクもそうですが、あのツンとする香りの元となる物質が犬の血液を破壊するからです。
n-プロピルジスルファイド(ジアリルプロピルジスルファイド)やアリルプロピルジスルファイドと呼ばれる物質がそれに当たりますが、これらは赤血球のヘモグロビンを酸化する作用があり、赤血球の脂質膜が損傷することで酸素を運べなくなります。
酸素を供給する能力を失った血液により、犬の体は溶血性貧血や血色素尿などを引き起こし、最悪の場合死に至ります。中毒症状だけでもかなりの苦痛を伴うもので、心拍数の増加や呼吸困難、血尿、嘔吐や下痢を発症します。
ネギの摂取から数日歌って症状が現れるケースもあり、飼い主が気づかないという場合もあるでしょう。
ネギは味噌汁との相性が抜群であるため、習慣でいつも入れているという家庭も多いはずです。直接ネギを食べなくても、成分が溶けだした汁を飲むだけでも中毒症状を起こします。もちろん、致死率は体重や個体差などによってそれぞれ異なるので、すべての犬が一口食べただけで即死するわけではありませんが、中毒症状は毎年のように報告されています。
ある犬は玉ねぎが入った味噌汁やハンバーグをモリモリ食べても何の異常もなかったのに対し、他の犬はネギが入った味噌汁を一口舐めただけで激しく体調を壊す場合もあるかもしれません。
いずれにしても、犬にはネギを与えないよう徹底する必要があります。ネギそのものを生で与える飼い主はいないと思われますが、うっかり与えてしまうのが味噌汁の隠れた危険です。
加熱してもこの毒性はなくならないため、ネギを一緒に煮込んだ鍋の汁や残った肉の切れ端も危険です。肉が入っている場合、犬は喜んで食べてしまうためさらなる注意が必要でしょう。
塩分にも要注意
塩分の過剰摂取も心配されるところです。厳密に言うならば、犬の塩分過多と各疾患の直接的な関連はまだ分かっていません。塩分が極端に多い食事をしても問題ないとする医師や研究者もおり、詳しいことは今後の解明が待たれるところです。
しかし、高塩分の食事は心臓や腎臓に負担をかけ、いずれは何らかの疾患をもたらすというのが一般的な見方です。
犬も人間と同じように塩分を必要とし、不要な塩分を何らかの形で排出しています。人間は汗をかくことで大量の塩分を排出できるため、犬よりも塩分を必要とし、塩分過多にも耐えやすい体の作りをしています。
しかし、犬は肉球や尿など塩分を排出する量が人間よりも少ないため、塩分過多には比較的弱いということになります。
塩分は、人間と同じように細胞液の電解質のバランスを調整するのに必要で、塩分がないと犬も生きていくことはできません。野生では捕食した動物の血や土にナトリウムが含まれているため、顆粒の塩を探す必要はありません。
しかし、狩りをして血を摂ることが出来ない現代社会での生活では、ドッグフードなどをメインに塩分を摂らなければなりません。その意味では味噌汁を飲むことも塩分補給の貴重な手段ということになります。
塩分による各臓器への負担はどのように起きる?
塩分が多い食事を摂り続けると、血中の塩分濃度が上昇します。これでは正常な電解質のバランスを維持できず細胞が機能しなくなるため、体は自然と水分を欲して塩分濃度を薄めようとします。水分量が多いということは、それだけ血液が多いということを意味します。
血液量が多いと、しわ寄せが来るのが心臓です。血液が増え高血圧になっている状態では、心臓はいつも以上に負荷がかかった状態で働き続けなければなりません。いつもより高い圧力を受け続けることで、心臓に血液を送る冠動脈の壁が厚くなります。これが動脈硬化です。
動脈硬化によって血管の柔軟性が失われると、心臓は血液を受け取り送り出すのに普通以上のパワーを使用して鼓動しなければなりません。この時点では、目に見える症状はそれほど表れません。以前より息切れがしやすくなったり、同じ運動量でも疲れやすいと感じたりする程度でしょう。
しかし、心臓の寿命は確実に縮まりつつあり、過度の負荷による疲労を蓄積していきます。動脈硬化で十分な血液循環がないと、心臓は通常の血液循環を維持するために高負荷で働きます。それでも、以前ほどの酸素供給や血液循環量を維持することが出来ないため、狭心症や心筋梗塞を発症します。
さらには、高負荷の運動はやがて心臓も疲れ果てさせてしまい、何とか体の機能を維持するために続けてきた過度な運動さえも維持できなくなります。そうすると、高血圧のまま心臓の機能が弱るために血液が溢れ、心臓が肥大します。
こうなると、心臓の柔軟性が失われて血液を受け入れることが出来なくなり、溢れる血液は肺へと流れていきます。肺の毛細血管に溜まった血液は、今度は水分として肺に直接溜まり始めます。これが肺気腫です。慢性的な息切れや呼吸困難などを経験するようになります。
心疾患の中でもっとも数が多い症状の一つとされるのは、「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべん へいさ ふぜんしょう)」です。心臓の弁が上手く機能しないために血液が逆流し、全身へと送り出される血液が減ってしまう症状です。同時に心房細動などの不整脈を頻発するようになり、息切れや呼吸困難も見られます。
通常、心臓は4つの部屋を使い分けて鼓動しています。全身から戻ってきた血液を肺に送るのが右心房と右心室で、肺で酸素を十分に含んだ血液を全身に送り返すのが左心室と左心房です。ご存知のように、血液の流れは常に一方通行で、循環器がその仕組みに応じて機能しています。
しかし僧帽弁と呼ばれる、左心房から左心室への血液をコントロールする弁が厚くなったり弱ったりすると、血液の逆流が生じます。前述のように、血液が逆流すると送り出す血液量が減ってしまいます。
そこで心臓がいつも以上に鼓動することで血液量を保とうとし、体には悪影響が出ないようにします。先ほども述べた通り、表面的には息切れや疲れやすいなどの症状しか見られず、気づかれにくい疾患であるのも特徴の一つです。
しかし、聴診器で聞けば心雑音や不整脈の音が聞こえます。その後、心臓の疲弊によって心肥大や肺気腫、胸水、腹水が生じ、心臓が十分に機能しない心不全となります。心不全は人間の死因では第2位をキープしており、犬の死因でも相当数発生していると見られています。
犬は以前よりも散歩中に座り込んだり、寝て休む時間が増えたりなど、加齢による体力の低下のような様子を見せ始めます。運動時の咳や食欲の低下、呼吸困難、倒れるように休むなどの様子が見られると、心不全が相当進行している可能性があります。
血液循環量の低下による酸素供給不足が発生するため、下や口周辺が紫色に変化するチアノーゼを発症することもあります。
このような心不全の症状は、やがて腎臓にも負担をかけるようになります。腎臓は、老廃物や不要物を尿に溶かして排出するフィルターのような役割を担っています。しかし、心不全によって血液量が減ってくると十分な尿を作れないために、水分を欲するようになります。
水分を確保することで血液量を維持しようとするものの、心不全によりやはり血液量を確保することができません。そうなると老廃物を十分に排出することが出来なくなるため、毒素が体に溜まり始めます。このような症状が短期間で発生するのが急性腎不全です。