TEXT●斎藤聡(SAITO Satoshi)
コストパフォーマンスの解釈は難しいところですが、ここでは単純に価格に対する性能・魅力を評価軸に、注目すべき3台を選んでみました。
1台目はルノー・トゥインゴSを挙げたいと思います。Aセグメントのかわいいコンパクトカーというのが世間一般の評価でしょう。1LのNAエンジンで、パワーもわずか73馬力。速いクルマではありません。でもポイントはそこじゃないんです。このクルマの一番の特徴はリヤエンジンであるところ。いわゆるRR=リヤエンジン・リヤ駆動なんです。
駆動方式など感じさせずに、違和感なく走ってくれるのですが、よくよく観察してみると、ボンネットにエンジンがないのでノーズが軽く、カーブの立ち上がりでアクセルを踏み込んだ時に、即座にトンとリヤタイヤに荷重がかかりググッとトラクションがかかってくれるのが感じられます。これらはまさしくRRならではのクルマの動きなんです。それに気が付くと、普段街中を走るのさえ楽しくなってきます。
最近は効率が重視されていますが、いろんなものを整えていくと個性がなく平板になってしまいます。その点トゥインゴは十分に個性的です。さらに5速MT(=181万5000円)を選べば、シフトワークを駆使して元気に走らせることだってできます。
絶対的な速さがないぶん、知恵とテクニックを駆使してクルマを操る深ーい楽しみも味わうことができるんです。ちょっとこじつけているような気もしますが、クルマの価格に対する楽しさの濃密さという点で、かなりコスパの高いクルマだと思います。
2台目は、プラグインハイブリッド+SUVの三菱エクリプスクロスPHEVです。同じPHV(プラグインハイブリッド)のSUVにRAV4 PHVがあります。これがまた捨てておけないくらい出来がいいものだから悩ましくはあります。
プラットフォームはRAV4のほうが新しくADAS系も進んでいます。それが約50万円の価格差となっている、そう言っていいと思うのですが、その代わり、4WDに対するノウハウの深さでエクリプスクロスは一歩リードしているように思います。
特にボクが感心したのは、エクリプスクロスのオフロードモード。前後それぞれにモーターで駆動していて、プロペラシャフトで前後のタイヤはつながっていないのですが、あたかも物理的につながっているかのように前後のタイヤの回転が制御されているんです。その結果、センターデフロックした4WDのようなトラクション性能や安定性が得られるんです。
モーター駆動による極低速トルクの太さと4×4にせまるトラクション性能によって、オフロードや雪上道の優れた走破性が期待できるのがエクリプスクロスPHEVなんです。
3台目はポルシェ718ケイマンです。同じ価格帯にはアルピーヌA110があるのですが、こちらは前回、最高に運転が楽しいクルマで紹介したので、今回はケイマンで。ミーハーですがやはりポルシェブランドはそれだけで十分に吸引力があります。
718ケイマンは2L水平対向4気筒ターボで、水平対向6気筒じゃないんです。水平対向6気筒はエンジンの2次振動が理論上0になる素晴らしくバランスのいいエンジンなので、4気筒は正直見劣りしないではないのですが、実際に走らせてみると、エンジンのバランス取りはレーシングカーか!?と思えるくらいの精度感で、鋭い吹き上がりを見せてくれます。300馬力/380Nmは十分に刺激的です。
そして何より魅力的なのは、911同様、ハンドルを握ると4つのタイヤに神経がつながるかのような一体感が得られるところです。エンジンが軽いぶん応答をシャープにし、旋回スピードを高めることで、ピュアスポーツとしての高い完成度を持っています。クルマの値段が上がってきている中にあって、729万円でポルシェの本格スポーツカーが手に入るのは魅力的といえます。
『プロが選ぶ最強のお買い得車』は毎日更新です!
予算に限りがある庶民にとって、車選びの際にこだわりたい要素が「コストパフォーマンス」。つまり、その車がお買い得かどうか、ということ。ただ安ければいいというわけではありません。ポイントは「値段と性能が釣り合っているか」。だから、価格が安い軽自動車だからコスパがいいとは限りませんし、1000万円以上のスーパーカーだってその価格に見合う機能や魅力があればお買い得と言えます。
というわけで、自動車評論家・業界関係者といった「クルマのプロ」たちに、コストパフォーマンスが高い「お買い得」な新車を3台ずつ、毎日選んでいただきます。明日の更新もお楽しみに。